「やってしまった…。」

木枯らし吹き荒ぶ街の一角。
なまえは一人呟いた。


先程までナギと一緒に食材等の買い物をしていたのだが、なまえがある店に陳列してある品物に気を取られている間にナギとはぐれてしまった。

「探すか…?それとも船に戻るか…?」

そんな独り言を呟きながらも、その手にはちゃっかりと先程の店の品物が入った紙袋を抱えている。

「やっぱり、合流したほうが良いよね。」

ナギも心配してるかもしれないし。


自問自答の末、解決に至ったなまえは大きく頷き、ナギを探すべく歩き出した。



――のだが、


「よぉ、お嬢ちゃん。一人かい?」


突然、背後から声を掛けられた。

振り返れば、見るからに柄の悪い男が三人。
まるで品定めでもするように絡められる視線。

「俺達暇してんだけど、相手してくんない?」

醜く歪められた口元。
本能が警鐘を鳴らす。

「いや、暇じゃないです。」


できる限り、刺激をしないように気を配りながら逃げ道を探すが、いつの間にか周りを囲まれており、脱出は困難を極める。


「いいじゃねぇか。俺達と楽しいことしようぜ。」

一人の男の腕がなまえに伸びる。

「触らないで!」

思わず叩いた男の手。


それを皮切りに男達の纏う空気が変わった。

「調子乗りやがって…」


乱暴に胸倉を掴まれた。

負けじと睨み返す。

自分だって海賊なんだ。
シリウス海賊団の一員なんだ。
こんなチンピラの一人や二人や三人、どうって事ないんだ!


そして、ありったけの力を込めて、胸倉を掴む男に蹴りを繰り出した。
その拍子に、掴まれていた腕が離れなまえは尻餅をついた。

男達がひるんだ隙に逃げ出そうとしたのだが、



ズキリ



電流ような痛みが足に走った。
どうやら先程の一撃が原因のようだ。


伸びてくる手。
痛む足を引きずり、必死に逃れようとするが、抵抗空しくなまえは再び男達に捕まってしまった。

両手を後手に掴まれ、前には先程の胸倉を掴んでいた男。
その手にはナイフが握られている。

「おいたが過ぎるぜ…お嬢ちゃん。」

ベロリと舐められたナイフが首元にぴたりと当てられる。

ゾクリと、恐怖が背中を掛け抜けた。








「何やってんだ?」

対峙する男達の更に後ろから聞こえる怒気を含んだ声。


「ナギ!!」

「何だ?てめぇ…」

男がナギを睨み付ける。

「何してんだって、聞いてんだよ。」


その声は静かながら、ずしりと伸し掛かる様な威圧感を放っている。

ぴりりとした緊張が辺りを支配した。





それからは一瞬だった。



ナギに飛び掛った男は鈍い音、そして低い呻き声と共に膝から崩れ落ちた。


ナイフを投げた男は、それを難なくかわしたナギに拳を叩きこまれ、宙を舞った。


なまえの腕を掴んでいた男は、その光景に狼狽しながらも「覚えてろよ…」と捨て台詞を残して、そそくさと逃げて行った。



そんなナギを、ただただ見つめ動けないでいると、おでこに鈍い衝撃。


「痛っ」

「無茶ばっかしやがって。」

ナギのデコピンにより我に返り、少し赤くなったおでこを擦った。


「返す言葉もございません。」



ゴメンナサイ。と素直に謝る。


もし、ナギが来てくれなかったら…
そう考えると、ぶるりと体が震えた。








「…マジ、焦った。」
「え?」


ふわりと抱き締められる。

その肩越しに聞こえる絞り出された小さな声が心なしか震えているように感じた。



「急にいなくなるんじゃねぇよ。」

こんなに心配させてしまった事に、なまえの胸は罪悪感でいっぱいだった。


ナギは一度、大きく息を吐くとぽんぽんと優しくなまえの頭を叩いた。


「帰るか。」
「うん。」


差し出された手を掴む。
少し冷たくなったお互いの手。





「今日は冷えるな。」
「あ、そうだ。」

なまえは抱えていた紙袋を徐に開け出した。

「これ、ナギに似合うと思って。」

そして取り出したものをナギに巻きつけていく。

「…マフラー?」


それは真っ赤なマフラー。


「うん、ほらやっぱり似合う。…へぶしっ」

すっかり冷えてしまった体は、その意志とは関係無く、防衛本能を働かせた。





「………ほら。」

ナギはマフラーの半分をなまえに巻きつけた。


「身長差で苦しいデス…。ナギサン。」

「ったく、仕方ねぇな。」

ふわりと体が宙に浮いた。
先程よりぐっと近づいたナギの顔。

「これで苦しくねぇだろ。」

「あわわっ」

公衆の面前でお姫様抱っこされたなまえは恥ずかしさでじたばた暴れる。


「足、怪我してんだろ…?おとなしくしてろ。」

その言葉に、ぴたりとなまえの体が止まった。



「ばれました?」

「お前がわかりやすいんだ。」

「そうデスカ…」

「無茶すんな。今度からは俺を呼べ。」

「はい、そうシマス。」

「よし。」

「でも、よくわかったね。あそこにいる事。」

「お前の事ならなんでもわかる…気がする。」

「お、エスパーですか?」

「…もう黙ってろ。」

「ナギ、」

「…なんだ?」

「大好き。」

「知ってる。」



額に優しいキスをひとつ。






ふわりふわり
ふわりふわり



ひどく心地良い腕の中。




ぴとりと寄り添えば、貴方が小さく笑う気配がした。






ふたりを繋ぐもの
(それは絆か、運命か)


(そう言えば…何で赤なんだ?)
(ほら、運命の赤い糸ってやつ?)
(……毛糸でもいいのか?)









36000hitでリクエストして下さったaki様に捧げます!

ナギとのほのぼの甘夢。
なのに甘みは少なめになってしまいました!!!(゜Д゜;)

『言葉にしなくても分かり合えるふたり』

そんなお話が書きたかったのですが、どういう訳かナギがエスパーに…っ。

そしてヒロインはakiさんがモデルです。(こっそり)

リクエストありがとうございました!(*´▽`*)


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