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「ソウシさん、おはようございます!」
「おはよう、なまえちゃん。」



何度交わしたか分からないこの会話。


種に水をあげるように、なまえが医務室に来る事もすっかり日常になっていた。




「なまえちゃん、今日は薬草の仕分けを手伝ってもらってもいいかな?」



そう尋ねれば、嫌な顔ひとつせず「はい!」と元気な返事が返ってきた。






「日頃の勉強の成果を発揮します!」

「期待しているよ。」


宣言どおり、なまえは見事なまでに薬草の仕分けをこなしていった。


種類や効能別に仕分けられていく薬草達。


素直にすごいと思った。



「すごいね、なまえちゃん。よく勉強したね。」



そう言うと嬉しそうに笑うなまえ。










なまえには、ずっと笑っていてほしい。






そう、願ってしまう。






なまえの笑顔を見ていると、幸せな気持ちになる。







何故だろう?






何故、幸せに感じるのだろう…?







「…さん、ソウシさん。」




ふと、思考が現実に引き戻される。




「ぼーっとしてましたけど、大丈夫ですか?」


目の前には自分を心配そうに見つめるなまえ。


「ごめんね、ちょっと考え事をしていたよ。」


できる限りの平然を装って、そう答える。

尚も心配そうに見上げるなまえの瞳から逃れるように、机の上の薬草に視線を落とす。

大方仕分けが終わった薬草が並んでいた。













この所、なまえの事ばかり考えている自分がいる。






どうすれば笑ってくれる?




どうすれば喜んでくれる?








気付けばまた、思考はなまえに支配されていて…



でも、無意識だからどうしようもない。





と、そこへ医務室の扉を叩く音がした。


扉の向こうから現れたのはハヤテ。



「なまえ〜、甲板掃除手伝ってくれー。」



モップを片手にそう言うハヤテに、


「今ソウシさんのお手伝いをしてるから…」


「ごめんね。」と言い掛けたなまえの肩に手を置いて言葉の先を制した。



「こっちはいいよ。行っておあげ?」


なまえちゃんのおかげで早く片付きそうだから。




今できる精一杯の笑顔でそう言うと、「…わかりました。」と、なまえはハヤテと一緒に医務室を出て行った。



何度か振り返ったなまえに笑顔で手を振る。



パタンと、扉が閉まる音がして医務室は静寂に包まれた。








自分の中で変わっていく何かに正直、困惑していた。




思わずついた溜息が深くて、自嘲染みた笑いが込み上げる。






なまえがいなくなった部屋は、やけに広く感じた。







この喪失感はなんだろうか…?






寂しいと、感じているのか…?







おかしな話だ。
行かせたのは自分なのに。








静まり返った部屋にまだ微かに残るなまえの香り。




その香りは、気配は、落ち着くと同時に胸を高鳴らせた。







同時に襲われる空虚感に胸が苦しくなる。










何故?












何故寂しい…?


何故苦しい…?


何故こんなにも、なまえの事が頭から離れない…?





自分の中で確実に何かが変わり始めている。











何が…?






机に置かれたままの植木鉢を、ただぼうっと眺めていたら、









「ソウシさん!」




勢いよく扉が開いて、なまえが飛び込んできた。






突然の事に驚き、言葉が出なかった。






「ど、うかしたかい?」



やっとの思いで搾り出したのはそんな、至極当然な台詞。



「ソウシさんが心配で、戻ってきちゃいました。」



歩み寄ってくるなまえ。


その柔らかい手が、遠慮がちに私の両頬を包んだ。






お互いの視線が交わる。



「前に…」



ぽつりと、言葉を紡ぐなまえの声はとても優しいものだった。





「どうしてそんなに頑張るのかって、私に聞きましたよね?」



こくりと頷く。

なまえは笑顔のまま言葉を続けた。


「その時は、みんなの役に立ちたいからって言いましたけど…本当は…――」















―…ソウシさんの力になりたかったんです。










交錯する視線のまま。

真っ直ぐななまえの言葉。




そう言ってはにかむなまえの頬は微かに紅くて。


そんななまえの言葉が胸にすとんと落ちて、







じんわりと暖かいものが波紋のように広がった。















あぁ、そうか。















分かってしまえば、とても単純だ。












悶々と考えていたことが馬鹿らしく思えるくらい、















簡単なことだったんだ。












靄が晴れた心は、面映い気持ちが溢れた。




















今思えば、




とうの昔に





そう、







あの涙を見たときに








心奪われていたのかもしれない。







目の前の、この頬を染めるこの少女に。










「だから、ソウシさん。私にできることがあれば何でも言って下さい。」




そう胸を張るなまえが愛おしくて。




「じゃあ、お願いしようかな…」




そっと、その小さな手を引き寄せた。







「なまえちゃんにしかできないことなんだ…」




そう、耳元で呟く。






なまえを抱きしめれば驚くほどに、心の隙間が満たされていった。






抱きしめ返してくれたなまえの腕は少し震えていた。




それさえも、その仕草のひとつひとつにさえも、愛おしさは募っていく。








もっと、いろんな君を知りたい。







だから…






「…私の前では、泣いてもいいからね。」






だから一人では泣かないで…








「私も、なまえちゃんの力になりたいんだ。」









君の、悲しみも苦しみも喜びも








一緒に分かち合っていきたい…










「やっぱり、気付いてたんですね。」







敵わないなぁ…と呟くなまえは降参したかのように小さなため息をついた。







「ずっと、見てたからね…」











そう言えば、恥ずかしそうに自分の胸に顔を埋めるなまえを更に抱きしめた。









それは穏やかで、まるで陽だまりの中にいるような心地よい時間。





















ふと、なまえの肩越しに見えた植木鉢。





そこから、





青々とした小さな芽が顔を出していて…





思わずくすりと笑ってしまった。




「どうかしたんですか?」


不思議そうに見上げるなまえに「何でもないよ。」と言ったのは、もう暫く君の温もりを感じていたかったから。







だって教えてしまったら、君はその芽に夢中になるだろう?








もう少しだけ、その瞳を独り占めしていたいんだ。








そんな想いを感じてか、






芽はその生まれたての若葉を重ねて揺らした。






それはまるで、


今の自分達を映しているようだった。












二人で





大切に育んでいこう。





この想いと、共に…






変わり始める心
(変わる事の無い君への想い)









49000hitでリクエスト下さった琴梨様に捧げます!


長らくお待たせしてしまって申し訳ございません!

しかも長い…っorz




皆の事には鋭いけど自分の事には鈍感なソウシをイメージしてみましたっ!


リクエストが恋に気付く瞬間ということで、『種→芽』と掛け合わせてみました。

芽ってハート型が2枚くっついたような形だったはず!と、勝手にイメージしまして…

リクエスト頂いた時に、思い付いてはいたのですが上手くシンクロ出来ずに時間がかかってしまいました…(>_<)

ごごご希望に、沿えれていましたら幸いです。(びくびく)



リクエストありがとうございました!(*´∀`*)



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