《HEROINE side》







もう、どれぐらいの刻が過ぎただろうか。



薄暗い部屋。

聞こえるのは波の音だけ。

ざざぁ、ざざぁと規則的に聞こえるそれに、今日の海は穏やかだなぁなんて思う。


潮風が吹き込む壁。
海水で腐食した床。


体は、とうの昔に朽ちてしまった。



いつからここにいるのか。
どうしてここにいるのか。


思い出せるのは己の名のみ。






――“マナ”――




風化しゆく記憶の中で、それが唯一の手掛かり。







幾度か、ここから出ようと試みた事がある。


しかしその度に、見えない何かに阻まれて外に出る事は叶わなかった。



それはこの世界と、この世界の住人では無くなった自分とを隔てる壁のように感じられて。








このままずっと独りで、いつ沈んでもおかしくない船の暗闇の中、途方もない刻を過ごしていくのだろう。






―…そう思っていた。













貴方に逢うまでは―…





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