「赤也、サーブが甘い!たるんどる!!」

部活もほんとに、いつも通りだった。
真田副部長に怒られて、
柳さんに試合申し込んだけどもちろんボロ負けして、
仁王先輩には休憩中にペテンかけられるし、
それ見て幸村部長はおかしそうにクスクス笑ってるし、
丸井先輩には勝手に俺のお菓子食べられた。
挙げ句の果てには、英語のテスト隠してたのが
柳生先輩に見つかってみっちり怒られた。
副部長には内緒にしてくれたけど。
励ましてくれたのはジャッカル先輩だけだった。

「集合!!」

幸村部長の凛とした綺麗な声が響いて、
ミーティングが始まる。
今日の反省点を柳さんが指摘したり、
来週の練習試合に向けてのスケジュールを確認したり。

俺は、幸村部長の声をぼーっと聞いていた。
部活が終わったら、いつも通りお疲れさまでしたって言って
そのままみんな帰って行くんだろうな。
結局先輩たちは誰も俺の誕生日を思い出してくれなかった。
レギュラー以外の3年生や同期、後輩は
挨拶したときにおめでとうって言ってくれる人もいたけど
レギュラーのみんなは、誰も。

もうふっきれたつもりだったのに、
またちょっと悲しくなってきてうつむいた。

「赤也、聞いているのか!」
「!は…はいっ!?」

突然、真田副部長に名指しされて、びっくりして見上げると
腕組みをする副部長と目が合った。

「赤也、今日はいつもよりミスが目立ったようだが」
「えっと…すんません」
「たるんどる!!」
「ひぇっ」

間近で怒鳴られて、びくっと体が跳ねた。

「罰としてこの後グラウンド20週だ」
「ええぇー!?今からッスか!?」
「当たり前だろう」
「そっ…そんなの、」
「何だ?文句があるようだな」
「……う…」

厳しい視線で射ぬかれてしまっては、
言うことを聞くしかなかった。

「…わかった、っす」




「はぁ、はぁ…っ」

もうすっかり薄暗くなったグラウンドをひとりで走る。
ミーティングが終わったあと、みんなは
ぞくぞくと帰って行ってしまった。
俺が走らされてるときは大体待っててくれる丸井先輩は
今日に限って御愁傷様〜と手をヒラヒラ振って帰ったし
副部長に怒られてるときになんだかんだ
フォローしてくれる幸村部長も助けてくれなかった。
頑張ってね、って言ってみんな帰って行った。

「はぁ、はぁ…あと、5週…っ」

地面を見つめながら走っていた俺は、ふと視線を上げた。
暗い、誰も居ないグラウンド。
どこを見渡しても誰も居なくて、なんだか
ひとりぼっちになったみたいな感覚に陥った。

「なんだよ…先輩たちのバカ」

目頭が熱くなって、じわり、と涙が滲んだ。

せっかくの誕生日。
1年に1度のこの日を楽しみにしてたのに。
なんで俺、ひとりぼっちなんだろう。

「……ぐすっ」

あふれた涙を慌てて拭って、
ごまかすように走るスピードを上げた。



「はぁ…終わっ、たー」

やっとの思いで走りきって、ふらふらと部室へ向かう。
とっくに電気は消えてて、人の気配はしない。

――くそ、電気も消すってひっでぇ。
もう先輩たちの誕生日なんか祝ってやんねーもん!
バカバカ。ジャッカルのハゲ!

心の中でジャッカル先輩に八つ当たりして、
重い気持ちで部室の扉を開けた。
外も中も暗いから、壁に手をついてスイッチを探す。

「あ…あった」

パチン。
ようやく指先が見つけたスイッチを押した。

――その、瞬間。


ぱぁん!

部室にいきなり大きな音が響いて、
びっくりして思わず目をぎゅっと閉じた。
鼻をくすぐる火薬っぽい臭いに、
おそるおそる目を開けてみると…。


「「「ハッピーバースデー!赤也!!!」」」


「…………へ?」

電気がついて明るくなった部室には、
帰ったはずのレギュラーの先輩たち7人が居た。
みんな手にはクラッカーを持ってて。
そっか、さっきの音はそのクラッカーだったんだ。
っていうか、あれ?
なんで先輩たちが居るの…あれ?
俺の頭は、パニックで何も考えられなかった。

「赤也」
「…ぶ、ちょう?」
「うん。赤也、誕生日おめでとう」

呆然と立ち尽くす俺の前までやって来て、
ふわりと微笑んだ幸村部長に頭を撫でられた。

「14歳だね、赤也」
「あ…」

ようやく、少しずつ状況を理解し始める。
部室の真ん中の机には、でっかいケーキが置かれてて
プレートには『赤也おめでとう』って書いてある。
部室の壁にも、急いでつけたみたいなキラキラの飾りが見えた。
先輩たちを見渡すと、みんな優しく笑ってて。

「……おれ…」

気づいたら、勝手に涙がこぼれた。

「ごめんね赤也。寂しかったよね」
「…っ」

ぎゅう、と幸村部長に抱き締められて、
堰を切ったように涙が止まらなくなった。

「ふぇ…っ」
「赤也のことびっくりさせたかったんだ。ごめんね」
「せんぱ…っ、の、ばかぁ…」

嬉しくて嬉しくて、たまらないのに
そんな言葉しか出てこなくて。
なのに、部長は優しく抱き締めながら
よしよしと頭を撫でてくれた。

「幸村くんずるい!俺も俺も、赤也ーっ!」

隣からは丸井先輩が抱き付いてきて、
ふたりの間にすっぽり収まる感じになった。

「赤也のために俺がケーキ作ったんだぜぃ!天才的?」
「せんぱ、苦し…っす」
「おいブン太、やめろ。赤也が苦しがってる」

ジャッカル先輩が、丸井先輩をひっぺがして
ようやく息ができた。

「おめでとう赤也。びっくりさせちまってわりぃな」
「ジャッカル先輩…、ハゲって言ってごめんなさい〜〜…っ」
「おい、誰がハゲだこら!」

先輩たちがおかしそうに笑う。
そんな光景さえも嬉しくて、
未だに涙が止まらなくて目をごしごしこすっていると
その手をそっと掴んで止められて、
代わりにハンカチが当てられた。

「柳…さん」
「赤也。おいで」

優しい声に言われるがままに、
手に引かれて部室の真ん中まで歩いた。

「さて、蝋燭に火をつけましょうか」
「ちゃんと14本用意したぜよ」

柳生先輩と仁王先輩が、ろうそくに
丁寧に火をつけていく。
手をつないだままの柳さんを見上げると
ふわりと優しく笑われて、顔が熱くなった。

「あー柳、赤也と手つないでる。ずるいだろぃ」
「そうだよ蓮二。代わってよ」
「それは出来ない相談だな。それよりも…」

チラッと柳さんが向けた視線の先を追うと、
真田副部長が腕を組んで立っていた。

「まだ一言も発していない奴が居るが」
「そうだね。真田、何か言うことはないの?」
「……む。いや、俺は…」
「赤也の誕生日に何かやろうと言い出したのはお前だろう」
「えっ」
「れ、蓮二!何を言う!」
「本当のことを言ったまでだ」

――あの真田副部長が、俺のために…?

「ふくぶちょう…」
「か、勘違いするな!俺はただッ」

顔を隠すように帽子を深く被った姿に、
なんだかどうしようもなく幸せな気持ちになって
思わず走って、副部長に抱き付いた。

「む、こら、赤也…ッ」
「副部長…ありがと…おれ、うれしっす」
「………」

ぎゅう、と胸に顔を押し付けると
しばらく黙っていた副部長は
ぎこちなく頭を撫でてくれた。

副部長が頭を撫でてくれるなんて、初めてだなぁ。
こんなに手おっきかったんだ。
なんて、そんなことをこっそり思った。
副部長は、早く離れんか、とか言ってるけど
こんな風に副部長に甘えられる機会なんて
ほんとに滅多にないんだから、しばらく離れてやんないんだ。

「真田が照れるなんて、世にも珍しい光景じゃな」
「ほんとほんと。面白いね」

幸村部長はクスクス笑ってる。
ぴろろん、って音がしたけど、たぶん仁王先輩が
副部長の写メを撮ったんだろう。
そんなことしたら後で鉄拳くらうっすよ。

「さあ、ろうそくに火がつきましたよ」

柳生先輩のその言葉を聞いて、
真田副部長が俺の背中をぽんぽんと優しく叩いた。
名残惜しいけど、ゆっくり体を離す。

「ほれ赤也。主役は真ん中じゃ」
「…ッス」

仁王先輩に言われて、ケーキの前に立つ。
なんだか照れ臭かった。
思いっきり息を吸い込んで、ふーっと吹きかける。
14本もあるから一気には消せなかったけど、
先輩たちは嬉しそうに拍手してくれた。

「おめでとう赤也」
「おめでと!」
「おめでとうございます」
「赤也、おめでとさん」

大好きな先輩たちから、たくさんのおめでとうをもらった。

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