Happy Happy Birthday !




いつもとおんなじ道を歩いてても、
今日はなんかわくわくした気持ちになる。
いつもよりも歩くスピードが速くなるし
早く学校に着かねぇかな、なんて
普段なら絶対に思わないことを思いながら
俺は通学路を歩いてた。

――そう、今日は俺の14回目の誕生日。
1年に1回の特別な日!


「こんな時間に行ったら、先輩たちびっくりするだろうな」

こんなに早く起きれたのは久しぶりだ。
誕生日くらいは真田副部長に怒られたくないし、
それに早くおめでとうって言われてぇんだもん。
なーんちゃって。



「はよーッス!!」

勢いよく部室の扉を開けると同時に、
ゴツンとげんこつが落ちてきた。

「いってー!」
「挨拶ぐらいきちんと出来んのかお前は」

ひっでぇ、せっかく早く起きたのに!
けど俺は副部長を見上げて次の言葉を待った。

「…なんだ」
「え、いやその…副部長、俺に言うことないッスか?」
「なんのことだ」
「だからっ。なんか忘れてないかなーって…」
「くだらんこと言っとらんで早く着替えんか」

ほんとに分からないっていう様子で
副部長は先にコートに行ってしまった。

「…なんだよ、つまんねーの」

まあ副部長がマメに人の誕生日なんか
覚えてる方がびっくりするけどさ。

俺はちょっぴり寂しい気持ちを振り払うように
急いで朝練の準備をした。


「おはようございます」
「おはよう」
「あ、柳生先輩にジャッカル先輩!おはよーございます!」

ほぼ同時に部室に入ってきたふたりは、
俺の姿を見るなり目を見開いた。

「これはこれは切原くん。随分と早いですね」
「赤也、お前こんなに早く来るのいつぶりだ?」
「へへっ。今日は特別ッスよ〜」
「そうですか。何かあるんでしょうか?」
「え、」
「良いことでもあったのか?」

ジャッカル先輩に、ぽんぽんと頭を撫でられる。
うそ、先輩たちも覚えてないの…?

「な…なんでもないッス」
「?そうか」


その後も、幸村部長、柳さん、仁王先輩、丸井先輩が
順番に部室に入ってきたけど
俺が早く来てることに驚くだけで他はいつも通りだった。
挙げ句の果てには、人のデータに抜かりのない
柳さんまでもが忘れてるみたいだった。

――…ちぇっ、なんだよなんだよ。
みんなして忘れちゃってさ。
いつも、誰よりも近くにいるのにさ。
誰かひとりくらい、覚えてくれててもいーじゃん。
わくわくしながら学校に来た自分が恥ずかしくなった。

「別に、期待してたわけじゃねーけど…」

別に、寂しいとか、思ってねーもん。




「切原ー、誕生日おめでと」
「おめでとう切原くん!」

朝練を終えて教室に入ったら、
クラスの奴らがみんなで祝ってくれた。
すげー嬉しくてひとりひとりにありがとうって言ったけど
やっぱり朝練でのショックを引きずったままだった。




「ふあー…やっと昼休みかぁ」

英語の授業はいつも通り寝ちゃって、目が覚めたらちょうど
昼休みに入るチャイムが鳴ったとこだった。

「切原ー、今日も3年の教室で食うのか?」
「え?うーんと…」
「せっかくの誕生日なんだから、今日くらいは
俺らと一緒に教室で食おうぜー」
「たまには俺たちにもかまってくれよな」

クラスの友達数人が机の周りに集まってきた。
いつもは先輩たちと食べてるんだけど…
ま、今日くらいいっか。
こいつらは俺の誕生日一緒に祝おって
せっかく言ってくれてるんだし。

「うん、今日は教室で食う!」
「マジ!?よっしゃー!」
「でもいいのか?先輩たちは」
「…いいんだよ別に」

友達の言葉に、またちょっとだけ寂しさが募った。



「よし、このパンやるよ切原」
「え、いいの?」
「んじゃ俺はこれやる」
「やった!サンキュ」

みんな、自分の弁当の好きなおかずとか
買ってきてくれたであろうパンとか
女子からはお菓子とか、いっぱいもらった。
嬉しくて、けどなんか恥ずかしかった。
久しぶりに教室で過ごす昼休みは楽しくて、
たまにはいいなって思ったりした。
ちょっと3年生の教室にも行きたいなって思ったけど。
ちょっとだけ、だけどさ。
でも友達と楽しくしゃべって笑ってたら
だんだん寂しい気持ちも紛れてきた。

「そのおかず欲しい」
「しゃーねぇな、今日だけだぞ」

友達が弁当から俺が指名したおかずを取って
俺の口の前に箸を差し出した。
あーんってして、口に入れようとした、そのとき。
何やら教室の扉辺りが騒がしくなった。
女子のきゃーきゃー騒ぐ声も聞こえる。
何事かと思って、扉の方を見ると。

「やあ、赤也」

扉のところには、幸村部長や
他のレギュラーの先輩たちが勢揃いしている。
先輩たちが俺を見つけて教室の中に入ってくると、
女子の歓声がさらに大きくなった。
7人が俺の前にやって来ると、周りにいた友達が
慌てて一斉にザッと後ろへ一歩下がった。

「先輩たち、どうしたんすか?」
「どうしたって、赤也が俺たちの教室来てくれないから
俺たちが遊びに来ちゃったんだよ」

ふふ、と綺麗な笑顔で言う幸村部長。

「なんで今日は来ねぇんだよー赤也!」
「いてて!痛いッス丸井先輩!」
「やめたまえ丸井くん。切原くんが痛がっていますよ」

頭をぐりぐりしてくる丸井先輩と、
それを止めつつもその辺にあった椅子を引っ張ってきて
自分の座る席を確保する柳生先輩。
あの、何やってんすか。

「でもなんで今日はこっちで食べてるんだ?」
「赤也が居なくて寂しかったよ」
「プリッ」
「…別に、いーじゃん!気分ッスよ!」

ツンとそっぽ向いて反抗したのに、
部長によしよしと頭を撫でられた。
つーかなんだよ、寂しかったって…。
俺の誕生日忘れてるくせに。

――寂しいのは、こっちだっつーの。

「まあ赤也にも都合があるのだろう」
「うむ。クラスメイトとの付き合いも大事にせねばならん」
「とか言いながら、なんでみんな座ってんすか!」

俺の机を囲んで、先輩たちはそれぞれ席に座り始めた。

「なんだよ赤也。せっかく会いに来てやったんだぜぃ」
「赤也、俺たちと食べるの嫌?」
「嫌じゃないッスよ、けど…」

友達に申し訳ないし。
ただでさえ先輩たち存在感ハンパねぇんだから。
そう思って、さっきから遠くの方でこっちの様子を見守る
友達数人の方を見ると、なぜか青い顔で
ブンブンと首を横に振られた。

「赤也は友達と食べたいようだな」
「んー…だって先に一緒に食べてたし」

けどほんとは、先輩たちとも食べたいな、なんて。
口には出さねぇけど。

「そういえばさ」

そう言って幸村部長は笑顔で教室を見渡した。

「さっき赤也に、あーんしてたの…誰だっけ?」

なぜかピシッ、と空気が凍りついた気がした。
なんでそんなこと聞くんだろ?
俺が何気なくその友達の方を見ると、
すごい勢いで目を逸らされた。

「君かな?」
「ひっ!」

幸村部長は、ニコニコしながら友達の方に歩いて行く。

「赤也、可愛いだろ?あーんするときの顔」
「えぇっ…いや、その」
「可愛くないの?」
「…………(可愛いっつっても、
可愛くないっつっても殺されるううううう!)」

部長が友達の顔を至近距離で覗き込んだ。
なんか、黒いオーラが出てるのは気のせいか?
友達が顔面蒼白になって震えてるのを見て
俺は慌ててふたりの間に割り込んだ。

「もー、ぶちょー!なに意味分かんないこと聞いてんすか!」
「…ふふ、ごめんごめん。赤也のお友達と
一度話してみたかったんだよね」
「先輩たち学校でめちゃくちゃ有名なんすよ!
ほらみんな緊張してるじゃないッスかー」
「そうか。すまなかったね、君。
ところで昼休みの間、席を借りてもいいかな?」
「どっ、どどどどどどうぞどうぞ!!!!」

ありがとう、とふわりと微笑む部長。

「席借りてもいいんだって。行こう赤也」
「えー。ほんとにいいのか?」
「い、いいいいいから!!早く行け、頼む!!!」
「?…お、おう」

よく分かんねぇけど、半泣きで頼まれてしまったら
幸村部長と一緒に席に戻るしかなかった。

「お、帰ってきた帰ってきた」
「早く食おうぜー」
「赤也は俺の膝の上だよ」
「はぁ!?なに言ってんすかっ」
「幸村ずるいナリ」
「俺も赤也膝に乗せたい!」
「では順番にしましょう」
「そうだな。昼休みの残り時間を考えると
ひとりあたり4分といったところか」
「だぁーもう!なんでそうなるんすかーッ」


その後、結局俺は先輩たちの膝の上に
順番こに座らされたのだった。(しかも副部長まで)

散々、好き放題に騒いだ先輩たちは
昼休みが終わるぎりぎりまで教室にいて、
チャイムが鳴ったら嵐のように去っていった。

――ったく、自由人たちめ!

俺は心の中で文句言いながらも(直接言ったら怒られる)、
誕生日の昼休みを先輩たちと過ごせたのは
ちょっぴり嬉しいなと思ってしまった。

次のページ


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -