はじめての気持ち―赤也side





「生意気」「態度が悪い」
「プレイスタイルが冷徹―…」

そんなこと、自分でも分かりきってた。
でも、だから何だ。
どんな綺麗なプレイをしたって、勝たなきゃ意味がねぇ。
俺は絶対に間違ってない。

――全ては、王者立海の勝利のために。

だけど、悪魔化から正気に戻った俺はいつも
周りからの視線に少しだけ胸が傷んだ。


ほんの、少しだけ。



*******



U-17の合宿所。
日本中から集められた中学生50人の中から、
俺は勝ち組の25人へ残った。
だけどこれは、実力じゃなかった。
柳先輩に託されたんだ。未来の立海を。
「更なる高みへ上ってこい」
その言葉を胸に、厳しい練習メニューを乗り越え
俺は5番コートまで勝ち上がった。

もっと、上へ行かねぇと…。
未来の立海のために。強くならないと駄目だ。



翌日、3番コートとのシャッフルマッチの
オーダーが張り出された。

――俺の名前がある!!

思わずガッツポーズしそうになるが、
よく見てみるとダブルスだった。

「ダブルスはほとんど柳先輩としかやったことねぇや…」

俺は、ダブルスよりもシングルスの方が気が楽で好きだった。
シングルスだったら、どんなプレイをしても
非難されるのは自分だけ。それが楽だと思った。


オーダーには、ダブルスの相手として
「白石蔵ノ介」と書いてある。
白石さんは、かなり有名人だから知ってる。
四天宝寺の聖書と呼ばれてる人だ。
話したことはないけど、この合宿に来て何度も見かけた。
試合も見たが、全く無駄のない動きに感動して見入っちまうほど
綺麗でかっこいいテニスだった。


「切原クン」
「わっ」

考え事をしていると、突然後ろから声をかけられてびっくりした。
振り返ると、白石さんが居た。

「切原クンやんな?俺、白石や。
俺らダブルスみたいやからこれからよろしゅうな」
「…どう、も」

綺麗な顔で微笑む白石さんを近くで見て、
一瞬だけ見惚れてしまった。
本当に整った顔してる人だな…。

「試合までそんなに時間ないけど、打ち合わせしよか」
「あ、はいッス」




「…うん、まあこんな感じやな。ええ感じや」
「そッスね」
ある程度の打ち合わせが終わり、
試合の時間まではまだ少しあった。

「せや、切原クン」
「何スか?」
「切原クンのプレイスタイルやけどな…
悪魔化は、せぇへん方がええ」
「……!」


ズキン。

この人も、同じことを言うんだろうか。
悪魔化は卑怯だ。
お前のやり方は間違っている、と。

「分かってんだよ…そんなこと」
「切原クン」
「アンタに言われなくても分かってる!
卑怯だって言うんだろ!俺だって分かってるよ!
けどっ…俺はやる!誰かがやんなきゃいけねぇんだよ!
立海の勝利のために!」


溜め込んでいた感情を一気にぶちまけたせいで、軽く目眩がした。
ふらついた体を、白石さんに支えられる。

「離せっ」
「切原クン、大丈夫やから。落ち着き…な」

あまりにも優しい声で言われて、抵抗するのを忘れた。
背中をぽんぽん、とあやすように優しく叩かれる。

「俺が言いたいんは、卑怯やとか
そんなことやないねん」
「…じゃあ、何」
「悪魔化を続けてたら、切原クンの身体が危ないっちゅーことや」
「………」

それから白石さんは、柳先輩が白石さんに
俺のことを任せて合宿所を去ったこと、
コーチ陣の間でも、俺の悪魔化は
身体に相当な負担がかかっていることが議論されている
と、教えてくれた。


「なあ切原クン。テニス好きか?」
「え…」
「どうや?」

優しく微笑みながら問いかけられて、
俺は、なぜか初めて心から本音を言えた気がした。


「俺、テニス…好き、です」


途切れ途切れに答えると、白石さんは俺の頭を撫でながら
また、優しく笑った。

「…ん。ほな、大丈夫や」


白石さんの手が心地よくて、なんだかドキドキした。



高校生と俺たちの試合が始まった。
途中、相手の高校生が嘲笑うかのように
俺に放ったひとこと。

「坊や…なんで、ここに居るの?」
「…!」
「切原クン!聞かんでええ!」


――ナンデ、ココニイルノ?


なんで…だって?
勝つために決まってんじゃねぇか。
そうだ、このままじゃ負けちまう…
負けられない!
立海のために、俺は絶対負けらんねぇ…!


……ドクン。
身体が熱くなっていく。
ああ、俺また悪魔化しちまう。
白石さんごめん。約束した…のに…。

「切原クン!」


ガッ―!!


ラケットを持つ手が強い力で何かを殴った音と感触に、
俺はびっくりして我にかえった。

俺のラケットの先には、白石さんの腕。
白石さんは、自分の腕で俺のラケットを受け止めていた。


「…!!ごめっ…なさ」
「ええから。切原クン、テニス好きなんやろ?
それやったら、自分自身を苦しめるテニスしたらあかん」

――な。
そう言って、また白石さんは優しく笑った。



「ゲームアンドマッチ!白石、切原ペア!」


俺たちは勝った。
試合は、途中から体がすげー軽くなって、
やりたいテニスをやることが出来た。
心からテニスを楽しいと思えたのはいつぶりだったっけ。

だけど、俺はラケットで白石さんを殴ってしまった。
白石さんは大丈夫って言ったけど、
いくら純金をつけてたからって
きっと、痛かっただろうな…。
約束破って悪魔化しようとしたことで
傷つけてしまった。申し訳なくて、合わせる顔がない。

トイレ行くって嘘ついて、試合が終わってすぐに
白石さんの側から離れた。
合宿所の裏の、人気のないベンチに腰を下ろした。
一人になった途端、自分の弱さが情けなくて涙が出てきた。

「…っ、ひ、く」

俺は、誰かを傷つけるテニスしか
出来ないんだろうか。
今回は白石さんが身を呈して止めてくれたけど、
またこれからも、悪魔化しそうになる度に
誰かを傷つけるんだろうか。
そう思ったら、初めて自分が怖くなった。
今までこんな気持ちになったことなかったのに。

「……っ」

こんなとこで泣いたってどうなるわけでもないのに。
自分が、怖くて。


「…こんなとこで何しとんの、切原クン」
「!」

後ろから聞こえた優しい声に思わず振り返ると、
白石さんが息を切らして立っていた。

「…しらいし、さん」
「手塚クンの試合始まってまうで?」

隣に座った白石さんに、
ぽんぽん、とまた頭を撫でられる。

「……腕」
「ん?」
「痛かった…ッスよ、ね」

自分でも情けないくらい声が震えた。
駄目だ、泣くな、みっともねぇ。
白石さんにこんな情けないとこ見られたくねぇ。

「切原クン」
「……」

かっこ悪い自分に腹が立って、悔しくて、
顔を上げられなかった。

「切原クン」
「ごめん…なさ、」


そう言ったのとほぼ同時に、
何かあたたかいものに包まれた。


「赤也」
「……!」

耳元で声がして、ようやく白石さんに
抱き締められていることに気づいた。

「俺は全然大丈夫や。ほんまに気にせんでええから」
「けど俺…約束、破った」
「赤也はちゃんと気づいて戻ったやろ?」

めっちゃ偉いやん、と笑いながら抱き締められる。


……なんか、あったけぇ。

思わずぎゅっと抱き締め返すと、優しく髪を撫でてくれた。
なんだろ、この気持ち。
ドキドキして、嬉しくて、心臓がきゅって痛い。

「大丈夫やで。焦らんと、ゆっくり頑張ろな。
赤也やったら絶対に出来るから…な」


あんまりにも優しい笑顔で言われたもんだから、
俺もつられて笑い返した。

なんでだろ、白石さんが大丈夫って言ったら
ほんとに大丈夫な気がして。


「ほな、手塚の応援いこか、一緒に」
「…はい!」


俺も、いつかこの人みたいに強くなれるだろうか。
少し先を歩く背中を見つめながら、
俺はさっきから心臓の音がうるさく聞こえる理由を探した。





*******


記念すべき、白赤小説の第1号です。
もう今はとりあえず新テニの影響受けまくりで
白赤が大好きなわけです(笑)

わたしの中の赤也のイメージは、
結構自分のプレイスタイルとかに
コンプレックスを持っています。
絶対に周りには言わずに、いつも憎まれ役をかってでますが
実はいろいろ悩んでると思うわけです。
でも性格上、誰にも相談できずに意地張ります。
不器用な子です。

白石は、そんな赤也を優しーく
包んでくれたらなあ、と。
白石の面倒見の良さって、意地っ張りな赤也と
すごい相性良いと思うんですよね。
人に弱味を見せて甘えるのは苦手だけど、
なぜか白石さんには素直になれる、みたいな。
うおおおー萌え!!!(笑)

赤也かわいいよ赤也。
読んでいただきありがとうございました。
白石side も、白石さん視点でこの話とリンクしてるので
よかったら読んでってください。

2012.03.19

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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