酔っぱらいラバー(後日談)




酔っぱらいラバーの後日談です。
先にそちらをご覧ください。
それでは、どうぞ!


*******



「よ、赤也!お疲れ」
「………」
「おーい赤也」
「………」
「あ、白石が居る」
「!!えぇぇッ、し、しらいしさっ」

ぼんやりとなぜか一人で夕食をとっていた赤也。
何度呼びかけても上の空だったが、
白石の名前を出すと飛び跳ねるように反応した。

「あ…ブン太先輩」
「白石じゃなくて悪かったな」
「!いや、ちがっ…」

真っ赤になって焦る赤也を
分かりやすい奴め、とブン太が呆れて見つめる。

「赤也、最近お前変だぜぃ」
「えっ…べつに、変じゃ、ないッス」

明らかに動揺する赤也。
赤也は、この間の四天宝寺との
パーティー以来、様子がおかしい。
何がおかしいかって、白石への態度だ。

今までなら白石を見つけた途端、
ぶんぶんと尻尾を振るかのごとく走り寄って
嬉しそうに白石と話していたのに、
あのパーティーの次の日から
白石を見たら真っ赤になって硬直したり
意識的に避けているようだったり。


「なぁ、赤也」
「なんすか?ブン太先輩」
「お前さ、白石となんかあっただろぃ」
「!!ぶッ」

驚いて牛乳を吹き出す赤也。
汚ねーぞ、と一応ツッコんでからまた話題を戻した。

「何があったんだよ」
「べ、つに」
「あのパーティーの日だろぃ?」
「!!!」
「もしかして、白石に告られたとかぁ〜?」

なーんて、さすがにそれはねぇか!
と赤也に笑いかけようと顔を上げると
耳まで真っ赤になった赤也と目が合った。


「…え?」
「………っ」
「マジで告られたのか?」
「ちが、ちがう!あれは、酔ってたからッ」

まさか、酔った勢いで白石が告白してたとは。
だからあの後の赤也の様子が変だったのか。
こりゃ幸村くんが知ったらブチ切れるかもしれない。
と、ブン太が考えを巡らせていたとき。



「こんばんは、切原クン」
「!!し、らいしさ…っ」

夕食を乗せたトレイを持って
白石が赤也の席の方へと歩み寄った。

「丸井クンも、こんばんは」
「…うぃっす」
「ここで食べてもええ?」
「あー別にいいけど。な、赤也」
「は、はいっ…!」

うつむいて、コクコクと何度も頷く赤也。
そんな赤也に、いつもの爽やかな笑顔で
にっこりと笑いかけた白石は、赤也の隣に座った。

――あれ?告白したにしては、白石は普通だな。
もしかして白石の奴、酔ってるときの記憶がねぇのか。



「切原クン、ほっぺたにご飯粒ついとる」
「え…ど、どこっ」
「そこやなくて…ここ」
「!」

そっと赤也の頬に手を添えて優しく米粒を取ってやる白石。
白石に触れられる度に、赤也の心臓はバクバクと速まった。

「あ、ありがとう…ございます」
「ん…ええよ」


「………」

完全にふたりの世界を作ってしまった赤也と白石を
ブン太は頬杖をついて面白くなさそうに見つめた。
つーか俺が居ること、忘れてるだろぃ。


「切原クン、俺の分のデザートもあげるわ」
「え?けどっ」
「ええねん。切原クンこれ好きやろ?」
「す、好き…ッスけど、」
「ほな、もらってや。俺もう腹いっぱいやねん」
「…いいんですか?」
「うん。切原クンにもらってほしいな」

かぁっ、とまた顔を真っ赤に染めた赤也は
白石からデザートを受け取った。

「おいしい?」
「は、はいッス」

にっこりと白石に微笑みかけられ、
赤也もようやく頬を染めながら
照れたような笑顔を返した。


「……お前ら、俺の存在忘れてんだろぃ」
「!!!」

じとー、と不機嫌そうな声を出すブン太に
ハッと我に返る赤也と、苦笑する白石。
こいつらもう付き合ってんじゃねぇのか、
いやでも赤也は渡さねぇ!
そう考えを巡らせて、ブン太は
ケーキにフォークをぶっ刺した。




「ふー、緊張した」

夕食をとり、少し白石さんと話してから
おやすみなさいを言って、部屋に戻った。
もっともっと白石さんと話したかったけど、
こないだのパーティー以来、なんだか
顔を見るだけでどうしようもなくドキドキして
上手く話せなくなってしまう。


「白石さんは…いつも通りだったな」

そう、白石さんは本当にいつも通り、
何事もなかったみたいに普通だ。
あれだけ酔ってたから、きっと白石さんは
あの日俺に言ったこと覚えてないんだと思う。


――俺は、好きやで。

――だから、好きでおってくれる?


嬉しかった。酔った勢いで言ったんだとしても
ほんとに、嬉しかったんだ。

けど、さすがに覚えてないとなると
結構ショックだったりする。
今まで通り、変わらず白石さんは優しいけど
俺だけがドキドキして、動揺して。


「…白石、さん」

ベッドに寝転がって、ポツリと名前を呼んでみると
ドキドキと心臓が速まり顔が熱くなった。
それをごまかすように、枕に顔を埋める。

お兄ちゃんみたいに思ってるだけなら、
きっとこんなにも苦しくならない。
いくら俺でも、それくらい分かった。
俺は…白石さんのことが。



コンコン

もやもやと考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
時計を見ると、もう9時を過ぎてる。
みんな疲れて寝始める時間なのに、誰だろう。


「はーい」

ガチャッ


「!し…白石さん、っ」
「遅い時間に堪忍…寝てた?」
「いやっ、ね、寝てないッス!」

必死にぶんぶん首を横に振ったら
クスッと笑った白石さんに頭を撫でられた。
顔が、熱い。


「ど…どうしたんすか?こんな時間に」
「なんや切原クンと話したくなったから。
迷惑とちゃうかったら、ちょっとだけ、ええかな?」
「め、迷惑なんかじゃないッス!」

どうぞ、と部屋に入るようにドアを大きく開けた。
お邪魔します、と言って白石さんが靴を脱いだ。
緊張で目を合わせられない。
心臓うるせぇ…収まれっつーの。



「どうぞ」
「おおきに」

あったかいお茶を入れて、白石さんに渡すと
優しい顔で笑って受け取ってくれた。
すぐ側に座る白石さんにドキドキが収まらない。
こんな時間にわざわざ訪ねて来てくれるなんて、
一体どうしたんだろう。


「なぁ切原クン」
「!!は、はいッス!」

緊張で声が裏返ってしまった。
ダメだ、もっと普通にしねぇと白石さんに変に思われる。
白石さんはあの日のこと、覚えてねぇんだから。

「さっき食堂でも思ってたんやけど、指どないしたん?」
「あ、これは…練習中に怪我しちゃったんすよ」

今日の練習中に、人差し指を切ってしまった。
ほんとに大したことない、小さな怪我。
めんどくさいからそのままにしてたんだっけ。

「大したことないんッスよ」
「ちゃんと消毒した?」
「えっと…してない」
「あかんで。消毒して、絆創膏貼っとかんと」
「保健室まで取りに行くのめんどくさくて…」
「俺、持っとるからあげるわ」

そう言って、ポケットから絆創膏を出した白石さん。
持ち歩いてるなんて、さすが白石さんだ。
白石さんの手から絆創膏を受け取ろうとしたとき、
ふと白石さんが何かを思い付いたように手を引っ込めた。

「白石さん?」
「消毒液がないな」
「大丈夫ッスよ、絆創膏だけで」
「そういうわけにはいかへん…せや、」

そう言って、白石さんは俺の手をとって指を見つめた。

「白石さ…、っ!?」

自分の手に白石さんの顔が近づいたと思った瞬間、
怪我をした人差し指の先を口に含まれた。

「し、しらいしさ…ッ」
「綺麗な指やな」

突然のことに、頭が真っ白になった。
指先に熱い舌の感触を感じて
これでもかというくらい心臓が跳ねる。

「…んっ」

熱さとくすぐったいような感触に、思わず声が出て
慌てて反対の手で口を塞いだ。

「しらいし、さん…」
「ん…なに?」
「も、もう大丈夫、だからっ」
「あかん。まだ消毒できてへん」
「…っ、あ」

舌で優しく傷口の上を撫でられて、甘い痺れを感じた。

「……やっ」

恥ずかしくて、ぎゅっと目を瞑って耐えていると
ようやく、ゆっくりと唇が離された。


「…消毒完了やな」

恐る恐る目を開けると、
綺麗な顔でにっこりと笑う白石さん。
その色っぽい瞳から、目が離せなくなった。
心臓はもう、ずっとバクバク鳴っている。

すぐ側に白石さんの顔があって、
触れられた手が熱くて、
これ以上こんなに近くに居たら
ドキドキで変になってしまうかもしれない。
そう思って、ごまかすように立ち上がろうとした。

「あのっ!俺、お茶のおかわり入れて…うわッ」

が、立とうとしたところで
白石さんに手を引かれてバランスを崩し、
白石さんの腕の中に収まるような形になってしまった。


「ご、ごめんなさっ」
「…離れんといて」

ぎゅっと抱き締められて、耳元で囁かれる。


――え、なんで、抱き締められてんだ…?


上手く回らない頭で考えてみたけど、分からない。
あったかい白石さんの体に、良い匂いに、
思考能力が奪われていくのを感じた。


なんで?
酔った白石さんならまだしも、
今の白石さんは酔ってないはずなのに。

体が、熱い。
どうしよう…俺、こんなの
期待しちゃうのに。
こないだのことなんて、白石さんは
覚えてないって分かってるのに。


「…今日は、酔ってへんから」
「……え?」

予想外の言葉に、思わず聞き返す。

「せやから…今日は、酔った勢いで
こんなことしてるんやない、ってこと」
「白石、さん…こないだのこと、覚えて…?」
「……ん」

抱き締める白石さんの腕に、ぎゅっと力が入る。

「こないだは、勝手なことしてごめんな」
「……白石さん」
「せやけど、嘘とちゃうから」
「え?」
「確かにあのとき酔っとって、アホな行動して
切原クンに迷惑かけてしもたけど…
でも、あのとき言うたこと、ほんまやから」


あのとき、言ったこと。


――好きやで。

――赤也も、俺のこと好きやんな?



「……赤也」

あのときと同じように下の名前で呼ばれて、鼓動が跳ねる。

「…好きやで」

そっと両手で頬を包まれた。
綺麗な瞳に見つめられて、
吸い込まれるように目が離せない。

「返事、聞いてもええ?」

上手く頭が回らなくて、
うるさいくらい心臓が音を立てて、
白石さんに触れられてるほっぺたが熱くて。

だけど、ひとつだけ
今ならはっきりと分かる気持ちがあった。


「俺…おれも、」

この気持ちがどうかちゃんと伝わりますように。
そんな願いを込めて、まっすぐ白石さんの
目を見つめて、言った。


「白石さんのこと…好き」


言葉にすると、思ったよりも恥ずかしくて
顔に熱が集中していく。
うつむいて、きゅっと白石さんの服の裾を掴んだ。


「…よかった」
「え、わっ」

頬から白石さんの手が離れて、
またきつく抱き締められた。

「あのときのこと、夢やったらどないしよか思たわ…」
「白石…さん」
「赤也、めっちゃ好き」

ドキッ。
嬉しそうな、優しい笑顔を向けられてまた鼓動が速くなる。
白石さんがほんとに、俺のこと好きだって。
夢みたいだけど、この腕から伝わってくるあったかさで
嘘じゃねぇんだなって思った。

「なぁ、赤也」
「は…い」
「こないだの続き、してもええ?」
「え?」

そう言った白石さんの顔が、
ゆっくりと近づいてくる。
手を頬に添えられて、もう片方の手に
頭を抱かれるように支えられて。

「し、しらいしさ…ッ!」
「…赤也。目ぇ瞑って」

低めの甘い声で囁かれて、全身が熱くなる。
触れるくらいの距離で見つめられて、
思わずぎゅっと目を瞑った。


――ちゅ。


唇に、柔らかい感触が伝わる。
心臓がうるさくて痛いけど、
すごくあったかくて心地よかった。

「…ん」

どれくらいそうしてただろう。
たぶん数秒の間だったんだと思うけど、
すごく長いように感じた。

最後に、もう一度ちゅ、と音を立てて
ゆっくりと唇が離された。


「……」
「………」

恥ずかしくて、白石さんの顔が見れなくて
顔を隠すようにぎゅっと抱きつくと
優しく頭を撫でてくれた。

「…可愛ええな」

可愛くない、って言い返そうと思ったけど
白石さんがそう言ってくれるのが嬉しくて、
そのあったかさに身を預けた。




「もう炭酸は飲まんようにせんとな」
「なんでッスか?」
「なんでって…暴走してまうやん、俺」
「うんー確かに。けど、」
「ん?」
「ドキドキしたし…あの白石さんもかっこよかった、から」
「………」
「たまには飲んでもいいッス」

へへ、と照れたように笑う赤也に
ドキリと心臓が速まった。
身を預けるようにもたれかかってくる赤也に愛しさが募る。

「赤也、もっかい」
「んっ…」

きゅっと目を閉じて、キスを受け入れる赤也は
緊張からか少し睫毛が震えとった。
可愛くて愛しくて、その体を抱き締める。


「…白石さん、」
「ん、なに?」


「だいすき」


頬を真っ赤にして、ふわりと笑った赤也に
もう一度、ゆっくりと唇を重ねた。





◎おまけ

「なんやあの2人、結局くっついたんかいな」
「白石の奴、パーティーの次の日は
珍しくめっちゃ落ち込んどっておもろかったのになぁ」
「すぐ立ち直って積極的にアタックするとこは
さっすが蔵リンやわぁ〜」
「あの事件が2人ばくっつけたってことばい」
「よかったやん炭酸飲んで。もっぺん飲ませてみよか」
「アホ、やめとけ。めんどくさいわ」
「つーか…このこと幸村くんが知ったらどないなるんやろ」
「「「…………」」」





おわり


*******


レイラさんからのリクエストで、
酔っぱらいラバーの後日談でした!
レイラさん、2回目のリクエスト
ほんとにありがとうございます♪
お待たせしてしまって申し訳ありません;

いやぁ、後日談ということで。
あの事件がきっかけで
今まで慎重だった白石さんが
開き直ってアタックしまくる話を書こうと思ったんですが
なんかずれて告白まで行ってしまいました。
ちゅーさせたかっただけなんだよぉぉ(殴)

レイラさん、いつも応援ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします♪

2012.05.05

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -