天才の1日 ――前編――





「天才」「ポーカーフェイス」「クール」
「何を考えているかわからない」

これらは忍足侑士への一般的な印象である。
そのイメージからか、憧れや尊敬の眼差しを向けられることは
日常茶飯事な忍足であるが、彼自身は幼い頃から
「天才」などという肩書きに少なからず
コンプレックスを抱くこともあった。

テニスだって努力したからこそ評価されたのだし、
何を考えているかわからないと言われても
お腹すいたとか眠いとか、さほど周りのやつと
同じようなことを考えているのに。

では、彼はどのような人間なのだろうか?
どんな生活をしているのだろうか?

これは、氷帝学園の天才・忍足侑士の1日の
観察記録である。



*******



6:00 起床

ピピピピピピピ!目覚ましの音が鳴り響く。

「…ん…もう朝かいな」

忍足の朝は早い。いろいろやることがあるからだ。

隣で気持ちよさそうに眠る人物を起こさないよう
ゆっくりベッドから降りる。

「…ゆー、し」

名前を呼ばれ振り返ると、愛しい恋人は
まだすやすやと寝息を立てている。
…寝言か。

ベッドまで引き返し、恋人の頭を撫でる。
この恋人以外は、おそらく誰も見たことのないような
優しい顔で見つめながら。

しばらく、恋人の可愛らしい寝顔に見惚れる忍足。
5分…10分…

「はっ!しもた、もう15分経ってるやん」

恋人の寝顔に15分も見惚れてぼーっとしていた忍足は
恋人の頬に優しくキスを落とすと、
急いで寝室を後にし、身支度を整えた。


6:30 朝ごはんをつくる

忍足は男にしてはかなり家事ができる方で、料理も得意である。
自分が1人の日は適当に済ませる朝食も、
恋人が泊まりにきた朝は栄養を考えてきちんと作る。
苦手な納豆も、恋人の好物とあらば買うことを忘れない。

「よっしゃ、できた」


6:45 恋人を起こす

「がっくん、朝やで。起きや」
「……すう…」
「がーっくん。ご飯も作ったから、食べよな?」
「んー…やぁだ…ねむい」
「可愛い!!けどあかん、起きるでがっくん。
がっくんの好きな納豆もあるから、な?」
「…ぐう」
「岳人」
「………ぐー…」
「…岳人。3秒以内に起きひんかったら、犯すで…?」
「!!!ぎゃああっ」


7:00 朝ごはんを食べる

「くそくそ侑士、変な起こし方すんなよな!」
「せやかて、がっくん起きてくれへんねんもん」
「だからって耳元で変な声でしゃべんなっつの!」
「なんやがっくん…感じてしもたん?」
「!!!!っちげーよ!侑士のあほ!!」
「がっくん、お箸で卵焼き刺したら行儀悪いで」
「うっせー!にやにやすんな、えろ侑士!」


7:15 がっくんと一緒に登校

「がっくん手つないで行…」
「アホか!つながねぇ!」
「………」


7:30 氷帝学園に到着、朝練開始

「あ、日吉に鳳だーおはよ。相変わらず来るのはえーな」
「ほんまやなぁ」
「向日先輩、忍足先輩!おはようございます!」
「…おはようございます」
「なんだよ日吉、朝っぱらからテンション低いぞ!」
「あんたが朝から元気すぎるんですよ」
「てめー生意気なんだよ!ほれ、笑ってみそ!」
「…いひゃいですよ向日ひゃん」
「ぎゃはは、おもしれー顔!」
「あはは、ほんとですねー」

きゃっきゃとはしゃぎながら日吉の頬を引っ張り
鳳と一緒に爆笑する岳人は可愛ええけど、
おい日吉、ええ加減に岳人から離れぇ。

「…向日ひゃん」
「ん?なんだよ日吉」
「そろそろやめてくれないと俺が睨まれてるんですが」
「へ?」
「ひっ!!」

俺の視線に気づいた鳳がびくっと怯え、
宍戸の元へと走って行ってしまった。
が、当の本人である岳人はきょとんとしている。

「侑士どした?」
「がっくん…日吉にべたべたしたらあかん」
「…は?何言ってんだお前」
「やって、日吉にくっついて楽しそうにすんねんもん」
「ばっ、ばっかじゃねーの!!くっついてねぇよ!」

顔を赤くしながら怒る岳人。
可愛すぎるので、とりあえず抱き締めた。

「がっくん好き」
「ばっ…離せアホ侑士!!場所考えろ!」
「がっくん、日吉とはくっつくのに俺は嫌なん?」
「な…ッ」
「俺めっちゃがっくんのこと好き…がっくんは?」
「……っ、す、すき…に決まってんだろーが。
変なこと聞いてんじゃねぇアホ侑士…」
「堪忍…岳人が可愛ええから。好きやで」
「…ばぁか」


「……宍戸さん、あれ…」
「何も言うな長太郎。見るんじゃねえ。アホが移る」

「オラァ!!何やってんだテメェら!
さっさと練習に入らねぇか!アーン?」


8:30 授業開始

「はぁ…」
さっきの岳人可愛かったわぁ。
てか日吉のやつ、岳人のこと好きなんとちゃうか?
デレデレしよってからに…(←完全に被害妄想)
あ、校庭にがっくんおる。一時限目は体育や言うとったな。
ハードルか…がっくんの得意分野やん。
がっくん楽しそうに跳んどるわ。可愛ええなあ。
おい、誰か知らんけどがっくんのこと見すぎやねん。
俺の岳人やっちゅーねん。見んなや。
がっくんもがっくんやで。腹見えるから体操服は
ズボン中入れろゆうたのに…。

「え〜じゃあ次の問題を、忍足。答えなさい」
「はい。x=12,y=5です」
「うむ…正解。さすがだな」
(はあ……岳人)

忍足侑士。要領の良い男である。


12:30 昼休み

「やっと飯だー!!」

嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら階段を上がる岳人。
今日は水曜日なので、レギュラーメンバーが
全員集まって屋上で食べる日である。
誰が言い出したでもなく、いつの間にか決まったこと。


「いただきまーす!」
「岳人、がっついてんじゃねーよ。騒がしいやつだぜ」
「うるせー宍戸!腹減ってんだよ!」
「あはは、岳人さっきパン食べてたじゃん」
「あんなちっこいパン食ったうちに入らねーもん」
「お前その小さい体のどこに入るんだ、アーン?なあ樺地」
「……ウス」
「跡部!小さいゆうな!樺地も、ウスじゃねー!!」

ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、それでもどこか楽しそうな岳人に
自然と頬が緩むのに気づき、慌てて引き締めた。

「おっしーのにやけ顔見ちゃったCぃ〜」
「…なんやジロー起きとったんかいな」
「今起きたんだC〜!ねえねえ、おっしー」
「なんや」
「おっしー、前に比べてよく笑うようになったよねー」

その言葉に驚いてジローを見ると、にっこりと笑い返された。

「岳人のおかげだCぃ〜♪」

そう言ってジローは、ぎゃあぎゃあ騒ぐ輪の中に入っていった。

岳人が面白がっていじめる鳳が、半泣きで宍戸に助けを求める。
巻き込まれまいと、弁当を死守しながら離れる日吉。
呆れながらもなんやかんや会話に交じる跡部。
岳人の膝枕でまた眠ってしまったジローに文句を言う岳人。
みんなの様子を楽しそうに見守る滝と樺地。

「おーい侑士!何ぼーっとしてんだよ!」

笑いながら俺に手を振る岳人。

―――おっしー、前に比べてよく笑うようになったよねー

…せやな。

「ゆうしー!」

岳人のおかげで、俺
知らん間に居場所できとったわ。


16:00 部活

「ゲームアンドマッチ!忍足、向日ペア!6-0!」
「うっしゃあー!絶好調!!」

嬉しそうに走り寄ってくるがっくんを
抱き締めそうになるのをなんとかこらえる。

「ん?どーしたんだよ侑士。試合勝ったってのに変な顔して」
「…がっくんの…」
「俺の、なんだよ?」
「がっくんの腹チラが気になってずーっと
集中できんかった!」
「!!…あ、あほかーっ!」


18:30 下校

「がっくん、晩ごはん何食べたい?」
「からあげ!」
「ハハ、やっぱり。ほな買い物して帰ろか」
「おうっ」
「手ぇつないで帰…」
「アホか!つながねぇ!」
「………」


19:00 帰宅

「ふー!つかれたー!ただいまー」
「おかえり。がっくん、家の人に泊まるって連絡した?」
「うん。侑士んちって言った」

カバンを放り出し上着を脱ぎ捨て
ソファーにダイブする岳人。
上着を拾い、ハンガーにかけてやる。

「ほぼ毎日来て、心配しはれへんの?」
「侑士なら安心って言ってた。
…んだよ、毎日来たらめーわくかよ」

体を起こし、ぷくっと頬を膨らませ
下から見上げながら睨んでくる。
けど、その目には少し不安そうな色がうかがえた。
そんな目で睨んでも可愛いだけやっちゅーねん。

「迷惑なわけあらへん…ずーっとおってほしいくらいやわ」

可愛くて愛しくて、がっくんを抱き締めた。

「…ゆうし」
「……岳人、ずーっと俺んとこおって。…な?」

耳元で囁くと、顔を真っ赤にして小さく頷いた。

「好きやで…岳人、」
「…ゆう、し…俺も…」

遠慮がちに真っ赤な顔を上げた岳人と目が合い、
そのままゆっくりと唇を重ねた。





*******


うわ、なんか無駄に長!笑
これで前編は終わりです。
なんか何が言いたいのか分からん感じになりました。

とりあえず、一番言いたかったのは
侑士も、普通の男子中学生なんだよってことです。
妙に大人びてるけど、実は年相応に
好きな人のこと考えて悩んだり、いろんなこと考えたり。
天才天才言われても、やっぱり中学生なんです侑士くんは(笑)

侑士は、器用でなんでもサラっとこなすし
勉強もテニスもできるけど、
感情を出したりするのはすごい下手だといい。
人並みに思ってることだっていっぱいあるんだけど、
それを表現するのが下手で。
不器用だといいです。
それを変えてくれるのが岳人。
岳人のこととなると侑士もいろんな表情見せます。

人との付き合いがわずらわしくて、
うわべの付き合いだけがとても上手くなってしまった侑士が、
岳人と出会って変わっていくのが好きです。

岳人は侑士にないもの、侑士は岳人にないものを持っていて
だからこそ惹かれ合う、みたいな(笑)

まあ今回は侑士の1日を書いてみたかったという
完全にわたしの趣味でした。え

まだ後半もあるよー。長いですね。
後半は裏内容を含みます。
よければお付き合いください。

2012.03.18

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