動物園ぱにっく!




キクラゲさんからのリクエストで
「白石、跡部、幸村、赤也の4人でデートして
みんな赤也とふたりきりになろうと邪魔し合うけど
最終的に幸村様落ち」といただきました。
楽しいリクエストありがとうございます!(笑)
それでは、どうぞ!


*******



――どうして。

どうして、こんなことになったのだろう。


「へへ、楽しみッスね!」

ガタン、ゴトンと揺られる電車の中で
嬉しそうな笑顔を見せる赤也。
その赤也が、話しかけている相手というのは。


「ねっ!幸村部長、跡部さん、白石さん!」





きっかけは、1週間前に赤也が放ったひとことだった。

「動物園、行きたい!」


それは、立海、氷帝、四天宝寺の3校が集まり
半年に1回行われる貴重な合同練習の日のことだった。

練習の合間の休憩時間、赤也はタタタと
部室に入ったと思ったらすぐに出てきて、
立海レギュラーたちに新聞の切り抜きを見せた。

「なんだこれ」
「パンダ!」
「……パンダぁ?」

切り抜きを見つめるブン太は、拍子抜けしたような声を出した。

「ここの動物園、パンダの赤ちゃん生まれたんッスよ!」
「あー…そういやニュースで言ってたな。で?」
「見に行きたいッス!」

目を輝かせて切り抜きをじっと見る赤也。

「来週の日曜日、部活休みだし行きましょ先輩たち!」
「えー…なんで動物園なんだよ」
「パンダの赤ちゃんなんか珍しいッスよ!」

行きたい行きたい、と繰り返す赤也。
ターゲットにされたブン太とジャッカルは目を合わせた。
動物園なんて別に興味はないけど、
可愛い赤也がこんなに行きたいと言っている。
それに、休みの日を赤也と過ごせるのは嬉しいことだ。

しゃーねぇ、行ってやる。感謝しろぃ。

2人がそう答えようとした、そのとき。



「どうしたの?赤也」
「ギャーギャー騒いでんじゃねぇぞ切原」
「なんやおもろそうな話しとるな、切原クン」

後半の練習の打ち合わせを終えた各校の部長である
幸村、跡部、白石が赤也に歩み寄った。


「赤也、それは?」
「あっ部長!見てくださいこれ、パンダ!」
「それ知っとるわ。ニュースでゆうてたやつやな」
「はい!赤ちゃんッス」
「それがどうかしたのか、アーン?」
「来週の日曜日ひまだから、行こうと思って!」

赤也のその言葉を聞いた3人は
一瞬にして、張りつめた空気を纏った。

「そういえば、ブン太とジャッカルは
来週の日曜日は用事があるんじゃなかったっけ?」
「「……え」」
「ね?」

にっこりと綺麗な顔で笑顔を向ける幸村。

(そ…そうだっけか、ジャッカル)
(幸村が言うなら、そうなんじゃねぇか)
(俺、その日は暇なはずなんだけど)
(…ブン太。睨み殺される前に諦めろ)
(けど!俺だって赤也とデートッ)
(また今度な。あの3人に出てこられたらもう駄目だ)

ボソボソと小声で相談するふたりを
不思議そうに見つめる赤也。

「先輩…?」
「赤也、えーっと、あのな」

可愛い顔で見つめられて、やっぱり行く!
とブン太が言いそうになるもジャッカルが制止した。

「…わりぃ赤也、その日は、用事があってよ」
「え〜っ」

ブン太のその言葉に、残念そうに
がっくりと肩を落とす赤也。

しょんぼりと、新聞の切り抜きを見つめる赤也に
3人が声をかけたのはほぼ同時だった。


「じゃあ、俺と行こうか赤也」
「仕方ねぇな、俺様が付き合ってやるよ」
「俺も動物園行きたいな、切原クン」

数秒の沈黙。
やばい。
周囲は巻き込まれまいと一歩離れた。


「…ああ、気を使ってくれなくていいよ跡部、白石。
俺たちはたまたま休みだけど、君たち練習あるでしょ?」
「偶然じゃねぇの、氷帝もその日は練習が休みだ」
「ほんま偶然やなぁ。ウチらもやわ」

ええっ、そうだったっけ!?と
氷帝レギュラーと四天宝寺レギュラーは
ツッコミそうになるのをこらえた。
ツッコんではいけない。ツッコんだら負けだ。
赤也をかけたバトルは、3人の中でもう始まっている。


「跡部は動物園なんて興味ないだろ?」
「ほんまや、絶対パンダ見たいとか思ってへんやろ」
「…うるせぇ。たまには庶民の生活も
悪くねぇと思っていたところなんだよ」
「そういう白石はどうなの?来週もわざわざ
大阪から出てきて動物園行くほど動物好きなわけ」
「めっちゃ好きやで動物。
ほんま、全国の動物園を制覇したいくらいやわ」
「幸村テメェこそ、似合わねぇぞ動物園」
「やだなぁ。僕はなんでも似合うんだからいいの」

バチバチ。
3人の間で、火花が散る。
余裕を保とうとするが、笑顔がひきつっている。
互いに譲る気は全くないらしい。

こうなったら試合で決着をつけてやる。
幸村、跡部、白石が同時に
ラケットを握りしめた、そのとき。


「じゃあ、4人で行きたいッス!」


「「「………え?」」」


3人のやりとりを見つめていた赤也は、
突然ぱっと顔を輝かせて言った。

大好きな幸村部長、跡部さん、白石さん。
そんな3人と一緒に行けたらきっと
すごく楽しいに違いない、と赤也は思った。


「ちょ…赤也」
「まさか3人共、動物園好きだなんて意外ッス!
みんな行きたいんだからみんなで行きましょ!」
「…いや、動物園が好きっちゅーか、」
「なんで俺様がこいつらと」

俺たちは動物園に行きたいんじゃなくて、
お前と行きたいんだよ。
何が悲しくて、こいつらと動物園なんか。

3人が言葉をつまらせていると、
それを感じとった赤也が寂しそうな顔で言った。

「……ダメっすか?」


そんな赤也に、駄目だと言えるはずもなく。
結局、4人で仲良く動物園に行くことが決まったのだった。





「着いたー!!」

動物園の入り口を、はしゃぎながら通る赤也。
その後ろを、ピリピリとした空気を纏いながら着いていく3人。
そう、気を抜くことは許されない。
少しでも油断すれば、すぐに抜け駆けしかねない奴ら。
あわよくば赤也とふたりきりになろうとするに違いないのだ。


「まず、どこ行きますか!?」

ピリピリとした空気は、赤也の無邪気な笑顔で
少しだけ調和されたらしい。
他の2人が邪魔でも、可愛い赤也がこんなにも
楽しんでいるのだから仕方がない。

「赤也が行きたいところでいいよ」
「えっと、パンダの赤ちゃん見れんのは
昼の1時からの1時間だけだから、
ここから順番に全部回りたいッス!」

パンフレットを指差してはしゃぐ赤也と、
そんな赤也を可愛いなと内心こっそり和んだ3人は
赤也の言うままに歩き出した。



動物園の中を、仲良く(?)並んで歩く4人の姿は
かなり目立つものだった。
美形3人とその間に居る可愛い少年。
そんな4人が動物園に居るものだから
目立たないはずもなく、さっきから
すれ違う人みんなが振り返って二度見したりしている。
だが、そんな周囲を気にする余裕もない3人と鈍感な赤也。



「あ、狼が居る!!」

狼の檻を見つけた赤也は、嬉しそうに駆け寄った。

「切原クン、狼が好きなんやな」
「はいっ!かっこいいから」

微笑んで赤也に話しかける白石に、
にこにこ笑って返す赤也だが、
はっと何かに気付いたように
白石と檻の中の狼を交互に見比べた。

「どないしたん?」
「あの一番奥に居る白い狼、白石さんに似てるなって」

赤也が指差した先には、白と銀色が混じったような
ひときわ綺麗な毛並みの狼だった。
静かに佇む姿は凛としていて、じっとこちらを見つめている。

「どの辺が俺に似とるん?」
「なんか、色がすげー綺麗で、優しい顔してるし
けどかっこよくて威厳があるっていうか…
あ、またこっち見てる。へへっ可愛いなぁー」

ふにゃりと笑う赤也に、ドキンと心臓が跳ねる。
その言葉はすべて間接的に白石のことを
誉めているということに赤也は気づいているのだろうか。

「…おおきに」

優しく笑って、白石は赤也の頭を撫でた。

「せやけど、確かにある意味…合ってるかもな」
「え?」
「狼て、いつも好きな子のこと狙ってるんやで。
…狙われへんように気ぃつけや?切原クン」

そっと赤也の頬を両手で包んで大きな瞳を覗き込み、
妖艶な笑みを見せる白石。
白石の綺麗な顔を近づけられた赤也は、
真っ赤になって固まってしまった。


「…可愛ええな」
「しらいし、さ…」


「はーいストップ」
「痛っ、」
「調子に乗ってんじゃねぇぞ白石よ」

ひきつった笑顔で、白石の手をつねる幸村と
赤也と白石の間に入って白石を睨み付ける跡部。

「油断も隙もねぇなテメェ」
「俺、狼らしいからなぁ。な、切原クン」
「は…はいっ」
「答えなくていいよ赤也」

ものすごい不機嫌オーラを幸村と跡部から感じとった白石は
やれやれと肩をすくめた。




「…あ、」

13時から始まるパンダの赤ちゃん観覧タイムが近づき
そろそろそこへ向かおうと歩いていると、
赤也はピタリと足を止めた。

「どうした、切原」

跡部が赤也の視線の先を辿ると、
ソフトクリームの看板を出した売店。


「…欲しいのか、アレが」
「え…いや、その」

チラチラと売店を見る赤也。
欲しいとは言い出さずに言葉を迷っている。
子供だと思われるのが嫌なようだ。
だが、隠し事や嘘が下手な赤也の顔には
ソフトクリームが食べたいと書いてある。

そんな分かりやすい赤也に思わず緩んでしまった頬を引き締め
跡部は赤也の手を引いて歩き始めた。

「跡部さんっ、」
「うるせぇ。黙ってついて来い」

売店の前に辿り着いた跡部は、
券売機でソフトクリームのボタンをひとつ押した。
それを赤也の手に握らせる。

「早くもらって来い」
「跡部さん、そんな悪いッスよ!」
「アーン?俺様が良いと言ってるだろうが」
「けどっ」

何か言おうと開こうとする赤也の口を、
跡部の親指が抑え、顎をくいっと持ち上げた。

「おい切原」
「…っ」
「お前が欲しいと言うなら、店ごとでも買ってやる」


フッと不敵に笑ってそう言った跡部に、
赤也はドキドキとしてしまっているのを感じた。


「…油断も隙も無いんはどっちや」
「はい離れた離れた」

赤也を抱き寄せるように跡部から取り返す白石と、
けがらわしい、とでも言うように
バシッと跡部の手を払う幸村。
そんな先輩たちの気持ちも知らずに、
赤也は嬉しそうにソフトクリームを舐めた。

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