がっくん争奪戦




御伽さんからのリクエストで、
みんなでがっくんの争奪戦!です。
御伽さんリクありがとうございます♪
それでは、どうぞ!


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「なーなー、誰か」

それは、ある日の部活が終わった後
部室で岳人が放ったひとことがきっかけだった。

「映画のチケット1枚余っててさ。
誰か、一緒に行ってくんね?」



ヒラヒラとチケットを手に持って首を傾げる岳人に
一瞬、部室はシーンと静まり返った。
そして、我に返ったレギュラー陣たちは
みんなで声を揃えるようにして叫んだ。


「「「「「行く!!!」」」」」


ものすごい勢いで全員からオッケーの返事をされて、
岳人は驚いて一歩後ずさった。
そんな岳人の目の前で、睨み合って
バチバチと火花を散らすレギュラー陣。

今、向日岳人とのデートをかけた
岳人争奪戦が火蓋を切った。



「まぁ、俺が一番最初に返事したやんな」
「何言ってるんですか忍足さん。俺でしょう」
「違うよ〜、俺だCぃ!」
「ジロー、テメェ寝てたんじゃなかったのかよ」
「む…向日先輩とデートっ」
「何勝手に赤くなってやがる、鳳。行くのは俺様だ」
「跡部は家にでっかいスクリーンあるんやから
映画なんか興味あらへんやろ」
「アーン?たまには庶民の生活も悪くねぇと思ってたところだ」
「跡部だめだめ!俺ががっくんとデートすんの!」
「ジロー、映画なんか行ってもどうせ寝るだろうがお前は」
「がっくんと一緒に寝るんだC〜!」
「なんでやねん!」


ぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた仲間たちを前にして、
チケットを見つめ、はぁ…と溜め息をつく岳人。
止めても無駄だということは分かりきっていたので
メンバーそっちのけで着替えを始めた。


「なぁがっくん、誰と行きたいん?俺やんな」
「えー、誰でもいい。チケット1枚しかねぇし」
「ほな俺で決まりやな、D2は不滅や!」
「俺は別に侑士でもいいけど…」
「だめ〜!!」

岳人がオッケーしそうになった寸前で、
ジローが岳人に飛び付いた。

「がっくん、俺と行こ〜」
「ジロー、映画は寝に行くとこじゃねーんだぞ?」
「知ってるCぃ!俺がんばって起きる」

着替えかけていた岳人の体を、
ぎゅうぎゅう抱き締めるジロー。
その手を、忍足と日吉が同時に払った。

「ジローあかん!抱きついたら」
「……」
「えー、なんで?」

必死に岳人をガードする忍足と、
何も言わないが岳人の前に立ちはだかる日吉。
そんなふたりに、ジローは不機嫌そうに頬を膨らませた。

「なんでもや。ちゅーか、がっくん!」
「なんだよ侑士」
「その着替え方あかんゆうたやろ?
ほら、ちゃんとシャツ着てから、こうやって
中から脱いでやな…」
「めんどくせーっつーの!」
「せやかて、そんな白い肌コイツらに見せたらあかん!
なんやもったいないし減る気ぃすんねん!」
「気持ち悪いですよ忍足さん。
アンタそんなことしか考えてないでしょう」
「なんや日吉、人のこと言えんのか。
氷帝ムッツリナンバーワン男が」
「変態ナンバーワンの忍足さんだけには
言われたくありませんねぇ。
向日さん、忍足さんに近づかない方がいいですよ。妊娠します」
「するかアホ!やんのか日吉」
「望むところです」

ふたりのやり取りを見ていた岳人だか、
あまりのうるささに、やれやれと避難した。


「アイツら、うるせー」
「離れとけ岳人、馬鹿が移るぜ」
「そーする」

宍戸は呆れたように忍足と日吉の喧嘩を見つつも
チラリと岳人の手に握られたチケットに視線を落とした。

「…まぁ、そのよ」
「ん?」
「アイツらと映画なんか行ってもうるせーだろうし…
つか、俺も久しぶりに映画でも行きてぇって思ってたとこだ」

気まずそうに、顔を少し赤くして岳人から目を逸らす宍戸。
ぱちぱちと目を瞬かせて、宍戸を見つめる岳人に
心臓が高鳴った。

「だから、俺と」
「あ〜っ!亮ががっくん口説いてるCぃ!」
「なっ…く、口説いてねえぇぇ!!!」

びしっと指を差したジローに、
顔を真っ赤にして必死に弁解する宍戸。

「幼馴染みの目はごまかせないC〜」
「うるせぇ!してねーつってんだろーが!」
「したー!」
「してねぇ!」
「したっ」

口説いた、口説いてない、で
こちらもぎゃあぎゃあと揉め始めたようだ。

「お前らなぁ…」
「ふたりとも、岳人が困ってるよ」
「!滝っ」

ぽん、と岳人の肩に手を置いて、
ね?と岳人に微笑みかけたのは
もうひとりの幼馴染みである滝だった。
昔から滝にだけは素直な岳人は
ふわりと可愛らしい笑顔を滝に返した。
そんな岳人の頭を、優しく撫でる。

「けど俺も、岳人と映画行きたいな」
「え、ほんとか?」
「うん。駄目かな?」
「んーん、だめじゃねぇ!」

ぶんぶん首を横に振って、にこにこと笑う岳人。
その様子を見て、喧嘩していた忍足と日吉が
慌ててふたりの間に割り込んだ。

「がっくん、俺が一緒に行きたい!」
「…俺と行きませんか、向日さん」

こんなときだけ、ぴったり息の合ったふたりだった。

「おい、ここは俺に任しときて日吉」
「任せるって何をですか。
アンタに任せたら向日さんの貞操が危ないでしょう」
「さっきから何の話をしとんねん。
どんだけ危ない奴やねん俺は」
「見たまんま、ですが」
「よっしゃ勝負や日吉ぃぃ!ラケット持たんかい」

またぎゃあぎゃあと揉め始めたふたり。
黙らせようと、岳人が拳をぎゅっと握って
一発殴る体制を整えた、そのとき。


「あっ…あ、あのッ向日先輩!!!」

突然、大声を出した鳳に、部室は静まり返った。
鳳は岳人の側まで来ると意を決したように、
真剣な目で岳人を見つめた。

「向日先輩っ」
「ん、なんだよ?」

身長差のため、上目遣いで見上げて
こてんと首を傾げる岳人。

――か、可愛い!!!

岳人意外のレギュラー陣たちの心が
ひとつになった瞬間であった。


「む、向日先輩…俺とっ」

岳人に見つめられて真っ赤になった鳳は、
それでも決心したようにガシッと岳人の肩を掴んだ。
岳人は、きょとんとした表情をしている。

「俺とっ、一緒に、映画にっ」

緊張のしすぎで、上手く文になっていない。

――落ち着け、俺…!

大好きな向日先輩を、デートに誘う絶好のチャンス。
鳳は、深呼吸をしてから、再び岳人に向き直った。

――よし、言えるぞ!

「ん?なんだよ、鳳っ」

緊張する鳳を見て、おかしそうに
ふにゃりと笑う岳人。
そんな可愛い姿を見て、これでもかというくらい
バクバクと心臓が速まった。

「お、おれとっ、え、えいがに」

――俺と一緒に、映画に行きましょう!

言え俺、がんばれ俺…ッ!!

「え、えいが……っ」



バターン!!


「!鳳っ!?」

緊張とドキドキのあまり、鳳は
その場に倒れ込んで目を回してしまった。

「おいっ、しっかりしろ鳳ー!」


「あーあ、倒れちゃった」
「告白するわけでもねぇのにどんだけ緊張してんだ長太郎」
「映画行こ言うだけで、可愛い奴っちゃなぁ」
「まあこれでひとり脱落ですね」
「日吉…お前、容赦ないな」
「当たり前です。向日さんとのデートがかかってるんですから」

日吉のその言葉で、一同は
思い出したかのようにまたバチバチと火花を散らし始めた。


「ここはやっぱり、永遠のダブルスパートナーである俺やろ」
「それを言うなら今のダブルスパートナーは俺ですけどね」
「にわかコンビが何ゆうとんねん」
「うるせぇよお前ら、みっともねぇ…激ダサだな」
「まぁ、そういう亮も人のこと言えないけどね」
「なっ…!」
「あはは、亮かわE〜!けど、がっくんと映画行くのは俺だCぃ」
「というか芥川さん、こんなときだけ起きないでください」
「せやせや。キャラ守りや、ジロー」
「がっくんとのデートは眠くないの!」
「確かにジロー、岳人と居るときは起きてること多いよね」
「うん!けどがっくんに膝枕してもらうのが一番好き〜」
「ひっ膝枕!?俺かてしてもらったことないのに…」
「アンタは膝枕で済むわけないんですからさせるわけないでしょう」
「なんやコラ日吉、ダブルスのとき
がっくんの腹チラ見とるくせに」
「忍足さんと一緒にしないでください」

「お前らっ…うるせえぇぇぇ!!!」


ぎゃあぎゃあと騒ぐ仲間たちに、
ついにキレた岳人が、とりあえず身近に居た
忍足の頭をバシッと叩いた。

「いたっ、がっくん酷い…」
「もーうるせぇんだよお前ら!ちょっと黙れっつーの!」
「怒った顔も可愛ええで、がっくん」
「う、るせぇっ…!」

真っ赤な顔で、ぷんぷん怒る岳人を
メンバー全員が「可愛い!」と和んでいると
今までずっと座って黙っていた跡部が
パチンと指を鳴らした。
レギュラーたちは、一斉に跡部に注目する。


「騒いでんじゃねぇ馬鹿共が。おい向日」
「なんだよ跡部」
「そんなに映画に行きてぇなら、
俺様とお前だけの貸しきりにしてやる」
「へ?」
「夜は、世界中から取り寄せた唐揚げを用意してやる」
「マジ!!?」

フン、と、どや顔で腕組みをして立ち上がる跡部。
世界の唐揚げという言葉に、岳人は目キラキラと輝かせた。

「跡部、それはずるいんとちゃうかー」
「そうですよ。大体、物で向日さんを釣ろうとするなんて」
「すごい釣れてるけどね」
「あとべー俺も俺も!行きたE〜!」
「世界の唐揚げって…馬鹿か」


「唐揚げ、かぁ…」

大好物を思い浮かべて、思わず岳人が
跡部に傾こうとした、そのとき。


――ガチャ


部室の扉が開くと共に、
強い風がピュウッと部室内に吹いた。

「あっ」

その拍子に、岳人が手に持っていたチケットが
風に乗って部室の外に出ていこうとした。
慌ててチケットを追いかけようと外に出ようとすると、
扉を開けたであろう人物が、あっさりとそれをキャッチして
スッと岳人に差し出した。


「おーっ!さんきゅー樺地!」
「……ウス」

入ってきたのは、樺地だった。
跡部に頼まれた書類を、監督のところへ
届けに行ってきたところらしい。

岳人は樺地からチケットを受け取ると、
ハッと何かを思い付いたような表情をして
悪戯っ子のように笑ってレギュラー陣の方へ向き直った。

「俺、樺地と映画行く!」

「「「「「………は??」」」」」


岳人の言葉に、全員の顔が
ぽかーんとした間抜けなものになった。
それを見て、おかしそうにクスクス笑う岳人。

「チケット拾ってくれたから、樺地と行く」
「ちょ…待ちぃや岳人!」
「えーっ、樺ちゃんズルE!」
「岳人、樺地は映画なんか興味ねぇんじゃねーか?」
「あはは。まさかの樺地に負けちゃったね俺たち」
「となると、俺様も当然行くことになるよなぁ?樺地」
「…ウス」
「あ、そこはウスなんや、樺地」


まさかの樺地に、岳人とのデート権を奪われ
がっくりと肩を落とすレギュラー陣たち。

その様子をしばらく見つめていた岳人は、
やがて、くすぐったそうにプッと吹き出した。

「あははっ」

突然笑い始めた岳人に、皆が不思議そうな視線を向ける。
しばらくお腹を抱えて笑っていた岳人は、
ようやく落ち着いて、レギュラー陣たちと向き合って。

そして、ふわりと笑顔を見せた。


「よし!映画はやめだ!」

「「「「「………へ?」」」」」

「次の休みは、みんなで遊園地行くぞ!」
「……え」
「みんなって…なんでまた」

皆、ぽかーんとして岳人を見つめる。
なぜか上機嫌の岳人は、びしっと全員に指を差した。

「うっせー!文句あんのかよっ!」

「…ふふ、ないよ岳人」
「しゃーないなぁ…がっくんが行きたいんやったら」
「別に忍足さんは無理して来なくていいですけどね」
「やかましいわ、行くっちゅーねん」
「遊園地か。随分長い間行ってねぇな」
「わーい遊園地!楽しみだCぃ〜!あとべー貸し切って!」
「…アーン?ったく、仕方ねぇ奴らだ。なぁ樺地」
「……ウス」

口々にいろいろ言っているが、
みんなどこか楽しそうな表情をしていて。


「よーっし!跡部の車で帰るぞー!腹へった!」
「「「「「さんせーい」」」」」
「アーン?」


ぴょんぴょん跳び跳ねる岳人を先頭に、
その姿を優しく見つめるレギュラー陣たちは
仲良くみんなで歩き始めた。


――こんな、なんでもないような日常が、ずーっと続けばいい。

口にはしなくても、各々がそんなことを考えた夕暮れだった。





◎おまけ

「ふー、跡部の車やっぱ乗り心地さいこ〜」
「ちゅーか1台に7人は乗りすぎとちゃうか」
「2台用意してやったのに、
お前ら全員がこっちに乗るからだろうが」
「狭いんだよ、トランクの中で寝てろよジロー」
「やだ。俺がっくんの隣がいいもーん」
「俺かてがっくんの隣や!」
「うわっ、どこ触ってんだよ侑士!」
「狭いからしゃーないやん。ほらもっとこっちおいで岳人」
「向日さんに触らないでください。変態が移ります」
「なんやと、このひよっ子が」
「だーもう!!うるせーっての!!」

「ねぇ、そういえば、みんな」
「ん?どした、滝」
「何か忘れてる気がするんだけど…」
「あー俺も」
「なんだっけ?」

「「「「「…………あ、」」」」」


「部室に、鳳わすれたぁぁぁ!!!」
「そういえば気絶しとったな」
「いいんじゃないですか、別に」
「いいわけねーだろ!戻れぇぇ〜っ!!」





おわり


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御伽さんからのリクエストで
がっくんの争奪戦でした。
いかがだったでしょうか♪
というか、お待たせしてしまってすみませんでした;

お褒めの言葉、すっごい嬉しかったです!
わたしの書くがっくん受けが可愛いと言っていただいて。
何よりも嬉しいひとことです、ありがとうございました。
応援してくれる人が居る限り
これからも頑張りますね*

総受けとリクをいただいたので、
ほのぼのな氷帝の日常にしてみました。
なんやかんや仲が良い氷帝が大好きです。
みんながっくんが大好き、
がっくんもみんなが大好きです(笑)

御伽さん、素敵なリク本当に
ありがとうございました!
よければこれからも、よろしくお願いします♪

2012.04.21

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