初心者たちの憂鬱




リクエスト第十五段!
光月塁華さんからのリクで、神→赤←謙です。
スピードのエース、神尾と
浪速のスピードスター、謙也の
赤也争奪戦が見てみたいとのことでした。
マイナーリクありがとうございます(笑)
それでは、どうぞ!


*******



「今日の練習はここまで!
明日はダブルスの練習を重点的に行う。
以上、解散!」


厳しい練習を終え、ほっと一息する中学生たち。
U-17の合宿の練習はかなり過酷であり、
毎日、練習を終えた頃には参加者たちは
へとへとになっているほどである。

しかし、コーチのその一声を合図に、
待ってましたと言わんばかりに
元気に走り出す者が、2名。


「なんやねん神尾、着いて来んなや!」
「忍足さんこそ、真似しないでくれませんか!」
「誰が真似しとんねん!ちゅーか近いねん、離れろやっ」
「道狭いんだからアンタが下がってくださいよ!」
「おもろいやんけ、スピードで俺に勝てる奴なんか
おらへんっちゅー話や!」
「それは、どうっすかね!」


四天宝寺3年、忍足謙也。
不動峰2年、神尾アキラ。
全く接点のないように見えるふたりだが、
今、ふたりは同じ目的で全力疾走している。


「あ〜あ、また始まったで」
「謙也ほんま元気やな」
「アホとも言うよな」
「謙也、めっちゃ走ってるやーん!白石、なんで!?」
「気にせんでええよ金ちゃん」

「…橘さん、」
「放っておけ深司。巻き込まれるぞ」
「そうですね…ほんと、神尾って馬鹿だよなぁ…
けど、めんどくさいからいいや…巻き込まれたくないし…」

各校の仲間たちは、またか、と言うように
呆れた目をふたりに向けている。
そう、謙也と神尾が一直線に目指しているのは…。


「「切原!!!」」
「へ?」

立海大附属2年、切原赤也だった。

自分の名前を呼ぶ声に振り返ると、
猛スピードでこちらへ向かってくる謙也と神尾が見えた。

「うわぁッ、なに!?どうしたんッスか!?」

驚いた赤也が思わず一歩後ずさりする頃には、
ふたりはもう赤也のすぐ側に辿り着いていた。
互いに、乱れた息を必死に整えている。

「き、切原…っ、あのな、」
「明日のダブルスの練習の相手、もう決まったんか?」
「え?いや、決まってないッスけど」

うっしゃ、と小さくガッツポーズする謙也と神尾。
赤也は、一度に同級生と先輩から話しかけられて
タメ口で話せばいいのか敬語で話せばいいのか混乱していた。

「ほ、ほな切原!」
「俺とっ…」

そこまで言って、ピタリと言葉を止めるふたり。


――あ、あかん!なんてゆうて誘えばいいんや!

――俺と一緒に組もうぜ、なんて言えねえええ!


周囲や自分でも認めるほどのミスターヘタレ・謙也。
単純なため、考えなしに突っ込んでは行くものの
いざ好きな人を目の前にすると、
ドキドキして上手く言葉が出てこないらしい。
(こ…断られたらどないしよ)
ただのヘタレである。

対して、神尾の方は、赤也とは喧嘩友達。
普段お互いにツンツン反発し合っているため、
一緒にダブルスやろうぜ!
なんて爽やかな台詞は、到底言えそうになかった。

走り出す前に、こうなることも予測できない単細胞なところは
かなり似ているふたりだった。


「謙也さん、神尾?」

口をぱくぱくさせながら何か言いたそうに、
けれど何も言わないふたりを不思議に思い
赤也はふたりの顔を覗き込んだ。
目をぱちぱちさせながら、首をこてんと傾げている。

((かっ…可愛い!!))

(おい神尾、何見とんねん。見んなや。
はよどっか行けっちゅー話や)
(忍足さんこそ、いつまで突っ立ってるんですか。
切原と話できねぇんですけど)
(話ってなんやねん、まさかとは思うけど
ダブルス一緒に組もう言うんやないやろなぁ?)
(だったら何なんすか、忍足さんには関係ないでしょ)
(か、関係あるわ!俺かてその…ダブルスのことでやな)

可愛い赤也に見惚れつつも、互いに敵意を送りながら
静かに格闘するふたり。


――ちゃう。こんなんしとる場合やない。
俺は、ヘタレ卒業や!


「きっ…きりはら!」
「!な、何っすか」

がしっと両肩をつかまれ、驚いて謙也を見つめる赤也。
神尾は、チッ、先手を取られた!と焦っていた。

「あ、あんな、切原。
明日のダブルスの練習の相手、俺もおらへんくてやな、
別に誰でもええんやけどっ、いや、ちゃう
お、俺は切原とやな…」
「?」

きょとんとした目で謙也を見つめる赤也。
謙也は、自分でも多分なにを言ってるのか分かっていないらしく
ドキドキしてしどろもどろになっていた。
チラッと赤也の顔を見ると、
謙也の言葉を待っているように
首を傾げる赤也と目が合った。
目が合った瞬間、何すか?と笑いかけられて
自分の顔に熱が集中していくのを感じた。

「だからっ、俺と」


――頑張れや俺!忍足謙也14歳!
もう財前にヘタレゆうて馬鹿にされんのも飽きたやろ!
今日から俺は男らしい肉食系でいくで!
かっこよく、ダブルス組もて誘うんや!
…あれ?けどかっこよくてどんな感じやろ。
どないゆうたらかっこええん?
えーっと、こういうとき白石やったら…
いやいや!白石は関係あらへん!
なんで白石の真似せなあかんねん。
俺らしく爽やかにやな、あれでも俺って爽やかやったっけ?
あれ、やっぱ俺ヘタレか?
えーっと、




バターン!

「!!け、謙也さんっ!?」

緊張と混乱で、容量オーバーになってしまった謙也は
その場にバタンと倒れた。



「あ、謙也が倒れた」
「…あ〜あ。やっぱあかんかったか」
「謙也にしては頑張った方や思うけどなぁ」
「ナイスファイトやでぇん謙也っ」

突然倒れた謙也にオロオロする赤也。
すると、銀がすすすとこちらに近寄り、
謙也を肩にひょいと担ぎ上げた。

「あ、あのっ…謙也さんは?」
「…大事ない。寝とるだけやさかい」

そう言うと、赤也はほっとした表情を見せた。
銀は謙也を担いだまま、四天宝寺の仲間の元へと帰って行った。

忍足謙也、無念の脱落。



謙也の様子をしばらく見守っていた神尾は、
赤也とふたりきりになったことに気づき我に返った。

――言うなら、今しかない!

「き、切原」
「なんだよ神尾」

普段、喧嘩するときにしかほとんど話さない赤也と神尾。
だから、こんな風に神尾に話しかけられることが珍しく
赤也は不思議そうに神尾を見つめる。

(な…なんて誘えばいいんだよ)

まさか、神尾から一緒にダブルスを組もうぜと言われるなんて
そんなことは想像もしていないであろう赤也。

落ち着け俺。自然に誘えばいいんだ。
(深司が橘さんと組むらしいから、パートナー探してて…)
いや、ダメだ。だからってなんで切原なんだって思われる。
(組む奴居ねぇんだろ?仕方ねぇから組んでやるよ)
いや、もっとダメだ。また喧嘩になっちまう。

「な…なんだよ神尾」

黙り込んでひとりでごちゃごちゃ考えている俺を、
ムスッとした顔で見つめる切原。
か、かわいい、じゃなくて!
えーっと、こういうとき白石さんだったら…
いやいや!白石さんは関係ねぇだろ!
なんで白石さんの真似しなくちゃいけねーんだ。
そうじゃなくて、もっとこう…。


黙り込んで難しい顔をしている神尾に、
そろそろ退屈になってきた赤也。
呼び掛けても神尾は答えないし…つまんねー。
なんだか手持ち無沙汰になって、何気なく周囲を見渡す。
みんなそろそろ宿舎に入って飯食う頃だなー。
ん?あれは…。


「白石さん!!」
「え?」

突然、大声で叫んだ切原に驚いて顔を上げると、
切原は目をキラキラと輝かせていた。
その視線を辿ると、四天宝寺軍団。
なぜか息を飲むように全員がこっちを見ていた。
名前を呼ばれた白石さんだけは、にっこりと切原に笑い返す。

「白石さんっ」
「あ、ちょ、切原」

白石さんを見つけた途端、切原は
嬉しそうにダッシュして行ってしまった。
白石さんに飛び付かんばかりの勢いで。

「白石さん、こんばんはッス!」
「こんばんは切原クン」
「何してたんすか?みんな揃って」
「ちょっとおもろいもんが見えてな」
「えっ、どこどこ!?」
「ん…もう終わってしもたわ」
「えー」

しょんぼりしてしまった赤也の頭を、白石が撫でる。
赤也は、その手の心地よさに、頬を赤らめた。

「あの、白石さんっ」
「ん?なに?」
「明日もテニス、教えてくれますか?」
「うん、ええよ。俺でよかったら」
「!!じゃ…じゃあ、明日のダブルスの…その」
「ダブルス、一緒にやろか」
「えっ!ほっほんとッスか?」
「俺も誰と組むか決めてへんから。よろしゅうな」
「は、はいッス!…へへっ」

嬉しそうに頬を染めて笑う赤也に、
白石も優しく微笑み返した。


「じゃあ、俺そろそろ部屋戻りますっ!」
「ん、ほなな」

上機嫌で白石にぶんぶん手を振って、
赤也は神尾の元へ戻ってきた。
ぽかんと見守るしかなかった神尾は、
事態の展開にまだついて行けていないようだ。

「へへ、白石さんとダブルス組むことになった!いーだろ」
「え、ああ…まぁな」
「白石さん、ほんとかっこいいよな〜!
俺もあんな風になりてぇ!
あ、そういやさっきお前、なんか言おうとしてなかったか?」
「……別に、なんでもねぇ、けど」
「あっそ!んじゃまたな、神尾」

バシッと神尾の背中を叩いて、
赤也は上機嫌で走って行ってしまった。


あ、あれ、俺なにしてるんだっけ。
切原をダブルスの相手に誘おうと思って、
それで…あ、あれ?
なぜかいつの間にか切原は、白石さんと
ダブルスを組む約束をして去って行った。

と、いうことは。

――明日のダブルス、切原とペアを組めない。
てゆーか、白石さんに盗られた。


「えええええぇ!!」

出そうとした勇気も報われないまま、
神尾アキラ、無念の脱落。

がくっとうなだれている神尾に、
ずっと黙っていた白石が言葉を放った。


「謙也も神尾クンも、無駄多すぎるで。もっと勉強しよな」


爽やかな笑顔でそう言われてしまうと、
もう返す言葉もなかった。


恋愛においても、まったく無駄のない白石に
ふたりが勝てる日は来るのだろうか。
ちゃっかり赤也とのダブルスの約束を取りつけた白石の背中を
恨めしそうに見送る神尾と、後ほど目を覚ました謙也が
どっちが赤也と夕食をとるのかでまたバトルが始まったのは、
また別のお話である。





おわり


*******


あ、あれ?
なぜか白石オチに…。
ごめんなさい。すいません。(土下座)
けどこれが一番自然な終わり方かな、と。

謙也さんも神尾くんも
赤也のこと大好きでいつも取り合いになるけど
当の赤也は全く気づいてなくて
ふたりを振り回してるイメージでした。
で、白石さんがおいしいとこを持っていくと。

というか、謙也さんヘタレすぎましたかね?(笑)
すいませんわたしの趣味です。
謙也さん大好き、ヘタレ大好きなので。

白石さんは、謙也の恋を見守ってはいますが
応援しているわけではなく
赤也を渡す気はないと思います。

光月塁華さん、3回目のリクエスト
ほんとにありがとうございました!
いつもいつも応援ありがとうございます*
光月塁華さんは神赤がお好きなんですかね?
神→赤←謙というかなりマイナーリクですが
書いてて楽しかったです。

読んでくださった方々、ありがとうございました!
これからもよろしくお願いします♪

2012.04.15

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