ありがと、だいすき




岳人受けリクエスト第四段!
gumi さんからのリクで、「喧嘩して仲直りする切ない話」
といただいたので書かせていただきました。
それでは、どうぞ!


*******


「がーっくん」
「ん?なんだよ侑士」

――ちゅ。

「………っ!?な、ななな」

部活が終わってから、侑士と少しだけ残って
ダブルスの練習をしてた。
お互いに納得したフォームを完成させることができて、
ようやく帰れると部室でいそいそと着替えてたのに、
不意に後ろから名前を呼ばれて振り返ると
侑士にキスされて。

「がっくん真っ赤や。可愛ええー」
「あ、あほ侑士!何すんだよっ」
「何って、ちゅーやん。恋人やねんから当たり前やろ」
「場所考えろっつーの!」
「ええやん。もう誰も居らへんし…な?」

そっと頬に侑士の手が触れて、思わず体が跳ねてしまった。
なんだかドキドキして動けずにいると、
ぎゅっと体を抱き締められた。

「岳…」
「ん、侑士…くすぐってぇ」

髪に唇を寄せられて、何度もキスされる。
くすぐったくて逃げようとしたけど、
抱き寄せられてすっぽりと侑士の腕の中に収まってしまった。
すると、侑士の手がユニフォームの中に滑り込んでくる。

「!っやめ、侑士」
「嫌や…がっくん可愛ええ」
「やだ、部室はやだっ」
「…岳人、好きや」
「ぁ、んっ…や、めろって」
「岳人…」
「だ…だからっ、やめろつってんだろうがー!!」
「痛っ!」

調子に乗って体を触る手がエスカレートしてきた侑士の頭を、
おもいっきりベシッと叩いた。

「がっくん酷ぉ…」
「うるせぇ!変態エロエロ侑士!!」

しょぼんとして見つめてくる侑士。
流されねぇ、俺は流されねーぞ。

「ほら、帰るぞ侑士!」
「がっくんのケチ…」
「侑士が部室なんかで盛るからだろっ!
こーゆーことは、家で……っ」

自分で言いかけて、はっとした。
驚いたように目を瞬かせていた侑士が、
嬉しそうにニヤニヤしだす。

「ほな、家帰ったらええんやな」
「ちが…っ」
「はよ帰ろか、がっくん」
「そ、そーゆー意味で言ったんじゃ」
「岳人。今日俺の家…来るやろ?」

耳元で低く甘く囁かれた言葉に、思わず小さく頷いた。



「もうだいぶ暗くなってしもたなぁ」
「侑士がアホなことしてるからだろ!」
「がっくんが可愛ええから悪いんやで?」
「か、可愛いゆーな!」

部室から出ると、外は随分と暗くなっていた。
ふたりで並んで校門へ向かう。
そう、これが俺らのいつもの風景。
いつもと変わらない、心地良い風景。
俺はこの、侑士と並んで一緒に帰る時間が好きだった。
いつまでも変わらずに、この時間が続くって思ってた。

――だけど。


「あ、あのっ…忍足先輩!」

校門を出ると、ひとりの女の子が立っていた。
髪が綺麗でスタイルが良くて、すごく可愛い女の子。
頬を染めて侑士を見つめるその子を見て、
俺はその子が何のために侑士を呼び止めたのかを察した。

「ん…なに?」
「あの、わたし…忍足先輩にお話があって…」

やっぱり。きっと、告白だろう。
侑士がよくいろんな女の子に告白されてるのは知ってる。
それを侑士が全部断ってるのも。
こっそりと隣の侑士を見上げると、表面上は微笑んでるけど
めんどくさそうに、興味なさそうにその子を見ていた。
きっと侑士も、何を言われるのか分かってるんだろう。

「何?話って」
「その…で、できればふたりで」

チラリと俺の方を困ったように見てくる女の子。

――なんだよ。告白なんてしたって無駄なんだからな。
侑士は、俺の恋人なんだから…。

そんな意地の悪い考えが浮かんでしまって、
慌てて首を横に振って否定した。
女の子が、すげぇ勇気を出して好きな人に
告白しようとしてるんだ。
俺が侑士の恋人ですなんて言えるはずもない。

――俺が、女だったら。
侑士は俺のだって、胸を張って言えるのに。
俺は…男だ。

「堪忍、今もう帰るとこやから…」
「ゆっ侑士!」

侑士が俺に気を使って断ろうとしたとき、
俺は思わず口を挟んだ。

「俺、先に帰ってるからさ!また後でな!」
「ちょ…岳人!」

何か言いたそうな侑士の言葉を振り切って、
俺は走ってその場を後にした。




――岳人…。

岳人は、俺を置いて走って行ってしもた。
優しい岳人のことやから、この女の子に
気ぃ使ったんやろうけど。
仕方ない。さっさと用件を済ませてもらって
岳人を追いかけよう。

俺が女の子に向き合うと、赤い顔したその子がうつむいた。

「忍足先輩…あのっ、わたし」

緊張してるんか知らんけど、なかなか用件を言わない。
真っ赤になってもじもじしたまま黙り込んでしもた。
普通の男やったらこういうの可愛ええと思うんかもしれへんけど
生憎、岳人にしか興味の無い俺は
その子には悪いけど、だんだんとイライラしてきた。
顔には出さへんけど。

「わたし、お、忍足先輩のことっ…」
「………」

さっさと言うてくれへんかなぁ。
走り去る岳人の後ろ姿が脳裏に焼き付いて離れんかった。

「す、好きですっ!」

そう言ってすぐに、その子はうつむいた。

「……おおきに」

顔に微笑みを貼り付けてそう言うと、
その子は赤い顔を上げて見つめてきた。
不安と、少し期待したような顔。

「せやけど、堪忍な。その気持ちには応えられへんわ」
「……!そう、ですか…っ」

きっぱりと断ると、その子の目に涙が溜まっていく。
…あー、なんで泣くねん。どないせぇっちゅーねん。
今まで告白してきた子たちと、全く同じ反応。
正直、めんどくさかった。

「あ…あの、好きな人っ…居るん、ですか?」
「うん。おるよ」

即答すると、また悲しそうな目でみつめられた。
大概の子は、ここら辺で引き下がる。
けどこの子は引き下がる気はないらしかった。

「その人とは…付き合ってるん、ですか?」
「うん」
「ど、どんな人なんですか?」
「…そんなん、言わなあかんか?」
「わたし、ずっと前から忍足先輩のこと見ててっ…!」

知らんがな。こっちは名前すら知らんちゅーねん。
俺は、冷たい奴なんやろか。
早く帰りたくて仕方なかった。

「誰なんですかっ?氷帝の人ですか?」
「…自分に関係あらへんやろ」

思ったよりも低い声が出てしまって、
少し焦ってごまかすように微笑んだ。
びくっと肩を跳ねさせたその子は、
それでも懲りずに会話を続けようとする。

「可愛い…ですか?その人」
「……はぁ」

思わず小さい溜め息が出てしまう。
そういえば、前に岳人に怒られたことがあった。
せっかく女の子が勇気を出して告白してるんだから、
ちゃんと真剣に答えてやれ、と。
俺が告白されて不安そうな顔をしながらもそう言った岳人を
抱き締めて「俺が好きなんは、岳人だけやから」と言うと
頬を染めてぎゅっと抱き締め返してきた岳人。

――はよ、岳人のとこ行かな。

「…めっちゃ可愛ええで」
「え?」
「可愛ええし、優しくて仲間思いでな。
ほんで、今の俺を支えてくれとる人やねん。
俺はその人やないとあかん。ほんまに大切やから」
「………」

どうや岳人。
これが俺なりの、真剣な返事や。
俺には、岳人しかおれへん、から。

「せやから…堪忍な。ありがとう」
「……っ、分かりました」

目にいっぱい涙を浮かべたその子は、
ぺこりと頭を下げて走って行った。




「………」

ひとりで侑士の部屋に帰ってきて、合鍵で開けて入る。
荷物をその辺に放り投げて、ソファーにダイブした。

「可愛い子、だったよな…」

自分で侑士たちをふたりきりにして帰ってきたくせに、
女々しすぎだろ俺。マジだせぇ。
大体、侑士が告白されるなんて珍しいことじゃないし
モテることもとっくに知ってるのに。
だけど、目の前で見てしまうとやっぱり不安だった。
可愛い子だった。きっと侑士にお似合いなくらい。
少なくとも、男の俺よりかは。

侑士は、俺の恋人だ。
だから告白なんてするな。

たったそれだけの言葉を言うために、
性別がこんなにも重要だということを思い知らされた。
女だったら、簡単に言えたはずの言葉。
男の俺が言ったら、侑士が周りにきっと笑われてしまう。
そんなの、嫌だった。

「……侑士」

クッションを抱き締めて、ぽつりと名前を呼ぶと、
玄関の扉がガチャッと開く音が聞こえた。
びっくりして思わず肩が跳ねてしまう。

「がっくん、ただいま」
「お、おう!おかえり侑士」

ソファーから飛び起きて、精一杯の笑顔を返す。

「岳人、」
「あーあ!すげぇ腹減った!早く飯食おうぜっ」

侑士が告白されて動揺してるだなんて、
絶対に気づかれたくない。
できるだけいつも通り、ぴょんとソファーから降りて
キッチンへと向かった。

「今日、晩ご飯なに?」
「岳人…」
「お!唐揚げあるじゃん!さっすが侑士っ」
「岳人!」

冷蔵庫を開けて中を覗き込んでごまかしていると、
後ろから侑士に抱き締められた。
あったかい体温が、背中に伝わってくる。

「ちゃんと、断ってきたから」
「………」
「…好きやで、岳人。岳人だけや」

不覚にも目頭が熱くなって、
思わず振り向いて侑士に抱き付いた。
侑士は、俺の体を受け止めて
また強くぎゅって抱き締めてくれた。
頭を撫でてくれる手が、あったかかった。





「ひぁ…っ、ん、あっ」
「……は、岳人…愛しとる」
「ゆ、し…侑士っ、や、あぁーッ!」


行為の後、意識を飛ばしてしまった岳人の体を拭いて
着替えさせてやってから抱き締める。
腕の中にすっぽりと収まる岳人。
愛しくて愛しくて。
岳人と居ることは、他の何にも代えがたい幸福。

「不安に、させてしもたやろか…」

無理に笑顔を見せた岳人を思い出して、
岳人を抱く腕に力を入れた。

――俺には、岳人だけや。

そう、きっと岳人もそれを分かってくれている。
他の誰がなんと言おうが、どうでもいい。
眠っている岳人の唇に、そっとキスをした。

「……好きや。岳人」





「岳人」
「あ、侑士。どした?」

休み時間に、滝と話してると教室に侑士が来た。
侑士はよく俺の教室に来るから珍しいことじゃねぇけど。

「岳人に会いたなったから来てもた」
「ぶっ!」

思わず飲んでたジュースを吹き出す。

「あ、がっくん行儀悪い」
「うるせぇ!何言ってんだアホ侑士!」

侑士は、教室だろうがどこだろうが
お構いなしにこういうことを言う。
人目は気になんねぇのかよ。
まあ、男同士で付き合ってるなんて誰も思わないだろうから
仲良いな、程度にしか思われないだろうけど。

「そういえばがっくん、3限目の日本史
資料集使うゆうてたやん。持ってきた?」
「へ?……げっ、忘れてた!!」
「そんなことやろ思た。はい」
「おおーっ!さんきゅー侑士っ」
「ええよ。ほな、また後でな」

そう言ってにっこり笑った侑士は、教室を出て行った。

――これを俺に貸すために、来たのか…。

ほんとに、侑士には敵わねぇなとよく思う。
たまたま用もなく来たみたいに振る舞ってたくせに
俺が資料集忘れたと思って持って来てくれたんだよな。
俺よりも、俺のことを分かってる気がする、侑士は。

「忍足やるねー」
「えっ」
「岳人、ほんとに愛されてるね」
「!べ…つに、」

そんにことない、とは言えない。
侑士が俺のことをどんだけ大切にしてくれてるかは
俺がいちばんよく知ってるからだ。
誰にも見られないように、侑士に借りた資料集を
こっそり、ぎゅって胸に抱き締めた。

「忍足くん、ほんと素敵〜」
「だよねだよね!近くで見ちゃったぁ」

あ、始まった。
侑士が出て行った後の教室では、
女子が必ずきゃあきゃあ騒ぎ始める。

「あっそーだ!昨日、あたしの後輩が
忍足くんに告白したらしくてさ」
「マジ?」
「まぁ、フラれたらしいんだけど」
「だろうね〜。忍足くん、誰に告白されても
全部断ってるらしいもん」
「その子が聞いたらしいんだけどさ、
忍足くんって付き合ってる子居るんだって」
「えー嘘!!ショック〜…」

聞こえてくる女子の会話に思わず耳を傾ける。

「でもさ、忍足くんって彼女いるとか
そんな話聞いたこともないし
そんな素振りも全然見せないよね」
「んー。自慢できるような彼女じゃないんじゃないの?」

その言葉に、頭を殴られたみたいな感覚に陥った。

「ええーっ、でもあの忍足くんだよ?
きっと綺麗な子だよ彼女も。
てゆーかそうであってほしいよね」
「まあね。諦めもつくし」

それ以降の会話は、耳に入ってこなかった。

――自慢できるような彼女じゃないんじゃないの?


「岳人、」
「…………」
「岳人?」
「へ?な、なに」

頭に滝の手がぽんと置かれて、我に返った。

「気にしなくていいよ岳人」
「………」
「忍足は、岳人を選んだんだから。
他の誰でもない。岳人だよ」
「滝…うん、さんきゅ」

俺を気遣って、頭を撫でてくれながら微笑む滝。
俺も、精一杯の笑顔を返した。

上手く、笑えてるだろうか。

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