「最後は、やっぱりショーが見たいッス!」

赤也のその言葉で、夜のメインイベントである
光のショーを見ることになったふたり。
この遊園地のいちばんの名物である。
かなり盛大なショーで人気が高く、
席をとるのさえ一苦労であるため、
ショーが始まるまでは時間があるが
ふたりは席をとって待つことにした。


「楽しみッスね!!」
「…まあな」
「ヘヘッ」

一番前の席を取ることが出来た赤也は、
ご機嫌そうにウキウキしながら話している。
そんな可愛い赤也を、跡部も普段は決して見せないような
優しい表情で見ていた。

「あ!」
「どうした」

赤也は、ショーの舞台の少し離れたところにある
ワゴンに目を止めた。

「喉渇きません?俺、跡部さんの分も
ジュース買ってくるッス!」
「…なら俺が行くからお前は待ってろ」
「だめッス!」

跡部が立ち上がろうとすると、
赤也は慌ててそれを止めた。

「俺が行きたいっ」
「アーン?」
「だって、チケットも跡部さんが買ってくれたし…それに
今日ほんとに、すげぇ楽しかったから
俺から跡部さんに、お礼…したいんです」
「……」

頬を赤く染めて、見つめてくる赤也。
こんな可愛いお願いをされては、
さすがの跡部でも断れるはずがなかった。

「ふたりで行くと席取られちゃうから、
跡部さん荷物見ててくださいッス!」
「…走ってこけんじゃねぇぞ」
「はいっ!」

元気に返事をして、嬉しそうに
財布を片手に赤也は走って行った。

「言ってるそばから走ってんじゃねぇよ…」

跡部は呆れながらも、しばらく赤也の後ろ姿を見つめた。




「これと、これ、ください!」
「かしこまりました」

長い列に並んでようやく、
赤也は2人分のジュースを買った。


「あ…そろそろパレード始まるじゃん!」

時計を見た赤也は、慌てて
跡部の居る舞台席の方へと向かおうとした。

だが、赤也と跡部のデートを邪魔することを
諦めていない者たちが、若干名…。


「赤也、捕獲〜っ!」
「うわぁッ」

突然後ろから抱きつかれて、赤也は
持っていたジュースを溢しそうになる。

「よぉ赤也、さっきぶり」
「赤也、まだ帰らないのか?もう暗いぞ」
「そろそろ帰らないと、おうちの人、心配するんじゃない?」
「…9時までに帰らないと、母親に怒られる確率97%」
「赤也、今から俺の家来んしゃい。ゲームもあるぜよ」
「切原くん、門限は守らないといけませんよ」
「夜遊びなど、たるんどるッ!」
「せ、先輩たち…っ!」

どこから沸いて出たのか、立海レギュラーが
赤也の元へと集まってくる。
全員、同じスタッフのTシャツを着ているところから
きっとわざわざ全員でここでバイトしていたのだろう。
赤也のこととなると、限度というものを知らない、
後輩離れ出来そうにない先輩たちだった。


「ほら、帰るぞ赤也」
「!だ…だめッス!跡部さんが」
「跡部跡部うるせーぞ赤也」
「ほれ赤也、チョコあげるからおとなしくしんしゃい」
「いや!跡部さんとショー見る!跡部さんとショー見るっ」
「だーめ。ジャッカル」
「……許せ、赤也」
「うわ!やだっ、離せジャッカルぅーッ」

にっこりと笑った幸村が指示すると、
ジャッカルが赤也を肩に担ぎ上げた。
じたばた暴れて降りようとする赤也を無視し、
問答無用で舞台とは反対側に歩き出す立海レギュラー。

「赤也は、お嫁に行くにはまだ早いの。
ってゆーか、一生行かなくていいの」
「そうだぞ赤也。跡部なんかより
俺らと今から飯食いに行こうぜ、飯。赤也の好きな焼き肉」
「やだー!!跡部さん跡部さん跡部さんッ」

立海メンバー、特に幸村とブン太は
跡部に赤也を渡す気などさらさら無いらしい。
その他のメンバーたちも、
半泣きで暴れて跡部の名前を呼ぶ赤也を見て
かわいそうだなという気持ちはあるものの
やっぱり可愛い赤也を渡したくないという思いの方が勝っていた。

赤也はなんとか逃げ出そうと試みるが、
7対1ではそう上手くいくはずもなかった。

そうこうしているうちに、ショーが始まる音が聞こえてくる。

「あ…」

跡部と一緒に見るはずだったもの。
隣には跡部が居て、キラキラ光るショーを
ふたりで見たかったのに。
だんだんと舞台は遠ざかっていく。
跡部との距離も遠くなってしまうような気がして、
悲しさで赤也の目にじわじわと涙が溜まった。


「赤也…って、げ!泣いてる」
「……赤也」
「だから言っただろうが、やり過ぎだって」

赤也の目からぽろぽろ涙が溢れるのを見て、
さすがに焦り始める立海メンバー。
ジャッカルが赤也を地面に下ろして涙を拭いてやる。

「おい赤也…」
「跡部さんとショー見たか…っ、ひ、く」

大きく響き渡るショーの始まりの音楽を聞いて、
赤也は堰を切ったように泣き出した。
ずっとずっと楽しみにしていたショーを、
跡部と見ることが出来ないことが、とても悲しかった。

「赤也、な、泣くなよ」
「…うっ…ぐす」

なんとか宥めようとするが、赤也は泣き止まない。
どうしたものかと立海メンバーが
慌てふためいていた、そのとき。

盛大に流れていたショーの音楽が、
突然プツリと止まった。
何事かと、人々の視線は舞台へと集中する。
すると、マイクを通した声が遊園地中に響き渡った。


「おい、切原赤也!!」
「………!」


よく聞き慣れたその声は、
紛れもなく大好きな跡部のもので。
うつむいて泣いていた赤也が
はじかれたように顔を上げて舞台の方を見ると、
跡部がマイクを持って舞台へ上がり、赤也の方を見ていた。

「あ、とべ…さん」
「何泣いてんだテメェは」

そう言って跡部が指をパチンと鳴らすと、
どこから現れたのか黒いスーツを着た男が数名
赤也な元へと近づき、さっきのジャッカルのように
赤也をひょいと担ぎ上げた。

「うわっ」
「赤也!!!」

立海メンバーが止める暇もなく、男たちは
あっという間に赤也をショーの場所へと運び、
舞台の上に立つ跡部の隣へと下ろした。


「跡部、さん…」

涙を浮かべたまま、ぽかんとした表情で
目の前の跡部を見上げる赤也。
跡部は赤也の目に溜まる涙を指でそっと掬いとり、
そして、ぎゅっと赤也の体を抱き締めた。

「!!!!」
「いいか、テメェら」

赤也を抱き締めたまま、跡部はマイクを通して言った。


「切原赤也は、たった今から俺様のモンだ。
コイツに触っていいのも俺だけだ。
手ぇ出すなんてことは考えないこったな」


右手でマイクを持ち、左手で赤也の頭を自分の胸に抱き締めて
跡部はその綺麗に整った顔で、不敵に笑った。

最初は好奇な目で見ていた観客たちも、
その圧倒的な俺様オーラに
次第に拍手をする者さえも出始めた。
若い女子などは、跡部と赤也の様子を見て
目を輝かせキャーキャー騒いでいる。
会場は次第に、わあわあと盛り上がっていった。


跡部に抱き締められて呆然としていた赤也は、
だんだんと自分の状況を理解し始めて
みるみるうちに真っ赤になってしまった。
顔から火が出るとは、こういうときのことを言うのだろう。

「…あっあと、あとべさっ」
「アーン?」
「あの…っ、それって…どういう」
「どうもこうも、言葉通りの意味だ」
「け、けどッ」
「口で言っても分かんねぇか?」
「え?うわっ…!」

ぐいっとまた引き寄せられ、
跡部の顔が近い、と赤也が思った瞬間。


――ちゅ。



「………ッ!!!?」

唇に柔らかいものが触れて、
自分が跡部にキスされているのだということに気づく。
赤也が驚きのあまり固まっていると、
ゆっくりと唇を離された。

「…な、ななななっ……!」
「分かったか?お前は俺のモンだ」
「あとべ、さ」
「お前のことが、好きだっつってんだよ」
「……!」

その言葉に、ようやく停止していた頭が少しずつ動き出す。
ずっと想い続けていた相手に、好きだと言われた実感。
緊張やら恥ずかしさやらでごちゃごちゃしている頭でも、
その言葉のあたたかさだけは理解できた。
顔が、すごく熱いと思った。


「……おれ、も…」

うつむいて跡部の服の裾をぎゅっと握る。

「俺もっ…すき」

震える声で、やっとの思いで伝えた気持ち。

「…フン。当然だ」

驚くくらい俺様で、いつも我が道を行って、
だけど誰よりもかっこよくてあったかい。
そして、大好きな大好きな人。


「……ヘヘッ、跡部さんっ。だいすきッス」

真っ赤な顔で、幸せそうにふにゃりと笑った赤也は、
もう一度目の前の恋人の胸に顔を埋めた。
それを受け止めてくれる、大きな手。
嬉しくて嬉しくて、そのぬくもりに目を閉じた。

どうか、夢じゃありませんように。
明日も明後日も、跡部さんが俺を好きでいてくれますように。
またふたりで、この遊園地に来られますように。

そう願って、赤也は跡部をぎゅっと強く抱き締め返した。





◎おまけ

「あ〜あ…完全にふたりの世界やわ」
「あんなことされたら、もうお手上げやな」
「ほんま、やりよるな跡部」
「絶対に真似したくないっすけどね」

「…なあなあ、この遊園地ってさ
跡部財閥の管轄下なの知ってたか?」
「んーにゃ…知らね」
「なんかマヌケだな俺たち」
「跡部ほんとにムカつくよね」
「落ち着け精市。ジュースを握り潰すな」
「…我に返った赤也が、今日の出来事を思い出して
恥ずかしさのあまり明日の学校を休む確率100%だ」
「あ、赤也ぁ〜ッ!!」





おわり


*******


ルッコラさんのリクで跡赤でした。

ルッコラさん、いかがだったでしょうか*
ってゆーか、無駄に長くてすみません(笑)
なんかいろいろと設定考えてたらこんなことに…
ほんと、ごめんなさい。反省してます。

リクには、最後は跡部様らしくかっこよく告白
とありましたので、迷ったあげくこうなりました。
やり過ぎかなとも思ったんですが、
跡部様ならこれくらいやってくれるかな、と(笑)
だって跡部だし!

あと、幸村さんに着ぐるみを
着せたかっただけですごめんなさい(土下座)

当サイト初の跡赤という
記念すべき作品になりました*
ご希望に叶ったか不安ですが…!
本当に、素敵なリクエスト
ありがとうございましたっ♪
書いてて楽しかったですとても!

みなさんの妄想力は、無限大ですね!(笑)
これからもどんどん楽しいリクエスト
お待ちしております。

読んでくださった方々、長々とお付き合いいただき
ありがとうございました!

2012.04.09

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