「し、白石さんっ!」
「なに?」
「どこ、行くんすか…?」
「……」
「白石さん…」

酔っているとはいえ、いつもと違う白石の様子に
赤也は戸惑いを隠せずにいた。
だけど、その繋がれている手をなぜか振りほどけないわけで。

「なあ、切原クン」
「!は…はいっ!?」

無言で赤也の手を引いて廊下を歩いていた白石は、
突然足を止めて振り返った。

「みんなのとこ、帰りたい?」
「え…」

そう言って、真っ直ぐ自分を見つめる白石。
熱を帯びたその真剣な目に、また心臓が高鳴った。

「拒否せぇへんねんやったら、知らんで?」
「えっ、う、うわあッ!」

そう言われた次の瞬間、ふわっと体が浮いた。
白石の顔がすぐ近くにあり、横抱きされていることに気づく。

「お、下ろし…っ」
「嫌やったら、本気で抵抗してみ」

そう言って、白石はまた歩き出した。
見たこともないような表情で不敵に笑う白石に、
赤也は不安とは別にドキドキしているのを感じた。




「白石さん、ここ…」
「俺の部屋」

連れて来られたのは、白石の部屋だった。
部屋に入った瞬間、カチャリと鍵を締める音が聞こえた。
床に下ろされた赤也は、白石を見上げる。

「なっ、なんで…鍵かけるんすか?」
「ん…なんでやろなぁ」

赤也のすぐ隣に腰を下ろした白石は、
じりじりと赤也に近づく。
思わず後ずさりするが、背中がトンと壁にぶつかり
それ以上後ろに下がれないことに気づく。


「切原クン…」
「!」

そっと頬に触れられて、思わず肩が跳ねた。
その様子を見た白石はクスッと笑って赤也の頬を撫でる。

「可愛ええ…緊張してるん?」
「…っ」

耳元で囁かれた吐息の混じった声に、
赤也の顔に熱が集中していく。
バクバクとなる心臓に耐えられなくなり、
ぎゅっと目を瞑ってうつむいた。

――白石さんは、酔ってるだけ、酔ってるだけ…。

そう自分に言い聞かせて平常心を保とうと努めていると、
すぐ正面に座る白石にまた抱き締められた。

「!!」
「なあ…切原クン」
「し、らいしさ…っ」
「幸村クンのこと好きなん?」
「…………え?」

白石の腕に、ぎゅっと力が入る。

「パーティ始める前に…幸村クンに抱き付いて
大好きって、言うてたやん」
「あれはっ」
「幸村クンのこと、好き?」
「幸村部長は…すげぇ尊敬してて、憧れの人だから好きッス」
「そんだけ?」
「えっ」
「恋愛感情とか、ないん?」
「!な、ないッスよ!部長は部長だし」
「…ふーん」

白石の質問の意図が分からずに、
戸惑いながら答える赤也。
心臓は、ずっとうるさく鳴り続けている。

「ほな、俺のことは?」
「へ?」
「俺のこと。好き?」
「え、と…」

白石さんのことも尊敬してて、憧れてて
お兄ちゃんみたいで大好き。
そう答えたいのに、なぜか言えない。
どうしてか分からないけど、
白石には簡単に好きだと言えなかった。
心臓のドキドキが邪魔をして。

答えられずに黙り込んでいると、
また白石が言葉を紡ぐ。

「俺は…好きやで」
「……!」

そう耳元で囁いた白石は、ゆっくりと顔を離し
赤也を見つめ、微笑んだ。
その綺麗すぎるくらい妖艶な笑みに、
赤也は目を奪われて逸らすことが出来なくなる。

「…赤也も、俺のこと好きやんな?」

下の名前で呼ばれ、またドキリと鼓動が音を立てる。
至近距離にある白石の顔と、頬を撫でる手に
顔を真っ赤にした赤也は、小さく頷いた。

そんな赤也を、愛しそうに見つめる白石。
赤也の柔らかい髪に指を絡ませて、優しく撫でる。
白石の手が心地良いと感じつつも
赤也は無言に耐えられなくなり必死に言葉を探した。

「あっ、あの…」
「……ん」
「そろそろ、みんなのとこに…きっと心配してるし」
「あかん」
「け、けど」
「他の奴んとこ、行かせへん」
「白石さん…」
「俺だけ見てや…赤也」
「…っ!」

そう言って、赤也の頬を優しく両手で包み込み、
ゆっくりと顔を上げさせる。

「し、ししし…しらいしさ」
「なあ…好きって言うて」

切なそうな、愛しそうな目でとらえられ
また顔が熱くなっていく。
きっと、耳まで真っ赤になっているだろう。

「赤也…」

少しずつ、白石の顔が近づいてくる。
心臓はもう、破裂しそうなくらいバクバクしていて。
白石の整った綺麗な顔を前にして、
赤也は硬直してしまっていた。
そうしている間にも、ふたりの顔はどんどん距離をつめる。

――白石、さんっ…!

キスされる。
もう唇が触れるか触れないかぐらいの距離まできて、
赤也は思わずぎゅっと目を閉じた。




しかし、いつまで経っても唇は触れない。
それでも目を開けられずにいると、
トン、と自分の肩に重みを感じた。
そっと目を開けると、白石が肩に顔を埋めている。

「…ちゃんと、言うから。いつか」
「………えっ?」
「炭酸の力なんか…借りんでも、言うから」
「白石さ…」
「やから、好きでおってくれる?」

強く抱き締められながら、そう問いかけられる。
白石にそう言われて赤也は、初めて少しだけ
自分の気持ちが分かった気がした。

「……は、い」

あたたかい白石の体をぎゅっと抱き締め返して
小さな声で呟いた返事は、白石の耳にしっかり届いて。

「そっ…か。よかった…」

安心したようにそう溢した白石。
しばらくの間、無言の時間が続いて
やがて白石から、小さな寝息が聞こえた。
赤也を抱き締めたまま、寝てしまったようだ。

「………すう…」

白石が眠ってからも赤也の心臓は
相変わらずドキドキとうるさかったが、
それを嫌だとは思わなかった。
あたたかい。苦しいけど、優しい。
自分の気持ちのことはまだよく分からないけど、
このドキドキを、大切にしたいと思った。


「…へへ、白石さんが子供みたい」

いつもの大人で優しい白石とは違って、
今日は少し子供っぽくて我儘で、強引な姿を見ることが出来た。
はっきりと分かるのは、どっちの白石でも
大好きな人には代わりないということ。

自分を抱き締めるあったかいぬくもりに、
赤也は身を預けていた。
――と、そのとき。



バンッ!!!

「赤也!!!!」
「赤也、無事か!?」
「白石テメェー!」


突然ドアが勢いよく開き、
立海メンバー全員が部屋になだれ込んできた。


「せ、先輩たち…」
「!赤也大丈夫か…って、何してんだ白石ー!離れろぃ!」
「た…たるんどるッ!離れんか!」
「赤也、何もされなかったかい?」
「見たところ無事のようじゃの」
「大丈夫ですか?切原くん」
「赤也が何もされていない可能性92%だ」

全員が赤也の元へ駆け寄り、白石の体をひっぺがした。
幸村は、どこから調達してきたのか、
手にゴルフクラブを持っている。
恐らくそれで鍵をぶっ壊したのだろう。


「あー、おったで白石!!」
「やっと見つけたわ…」
「ほら起きや白石」
「ったくこの酔っぱらいが」

立海メンバーに少し遅れ、部屋に入ってきた四天宝寺。
呼びかけてもぐっすり眠って起きる気配のない白石を
銀が担ぎ上げた。

「…迷惑かけたな、立海はん」
「悪気は無いけん許したってほしいばい。
ほんとに炭酸に弱いだけなんよ」
「ほら、とりあえず俺の部屋行くで白石」

そう言って、四天宝寺メンバーは
白石を連れて部屋から出ていった。



「………」

残された立海メンバーは、
ほっと肩を撫で下ろしたように力が抜けた。

「赤也、平気?」
「は…はいッス!」

我にかえって、元気よく返事をする赤也。
しかしその顔は真っ赤なままだった。

「うっし、じゃあ俺の部屋でパーティ仕切り直そうぜぃ!」
「えぇっ?まだやるんすか!?」
「食い足りねーんだよ。お前探して走り回ったせいで腹へった」
「太りますよ、先輩」
「うるせぇ!行くぞ赤也」
「わっ…待って」

赤也の腕を引きずかずか歩き始めるブン太。
仁王や柳生、ジャッカルも
やれやれと呆れながら後に続いた。

その後ろ姿を見つめる幸村、真田、柳。

「…ねぇ、弦一郎、蓮二」
「なんだ精市」
「どうした」
「……俺はまだ当分の間、赤也離れ出来そうにないや」
「安心しろ、お前だけじゃない」
「そう簡単に他人に渡す謂れはない」
「…ふふ。そうだね」

そう笑い合って、3人は
赤也たちの後ろ姿を見つめながら歩き始めた。





おわり


*******


や、やっと完成しました…!!
レイラさん、お待たせしてしまいすみません。
いかがだったでしょうか*

っていうか、白石さんあんまりドSに
なっていないような…
す、すみません。(土下座)
わたしは優しくて大人で面倒見の良い白石さんしか
書いたことがなかったので、難しかったです。
けど、楽しかったです(笑)

やっぱ幸村部長を入れると楽しいですね。
赤也離れ出来ない先輩たちが可愛いですほんと。

ご希望に叶ったかどうか不安ですが、
リクエスト本当にありがとうございました!
こんなのでよければ、またお願いしますね*

少しいつもより長い話しになってしまいましたが
読んでくださった方々、ありがとうございます♪

これからもよろしくお願いしますね☆

2012.04.07

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