大好きな、大好きな




リクエスト第十一段!
亜霧さんからのリクで、跡→赤←白です。
「ふたりの気持ちには気づいているけど
どちらか片方を選べない赤也と
お互いに牽制しながらも今の関係を崩せなくて
なかなか発展せず苦労するふたり」とのことでした。
それでは、どうぞ!


*******



「おい切原」
「あ!跡部さん、おはようございます!」

朝、廊下を走っていた赤也は、跡部に呼び止められた。

「何走ってんだテメェは。こけるぞ」
「へへ、すんませんっ」

身長差のため少し跡部を見上げるような形で
赤也は照れたように笑う。
…朝から元気な奴だ、と呆れながらも
跡部は目の前の赤也の元気な笑顔を見て少し頬が緩んだ。

「んなに慌ててどこ行くつもりだ」
「あ、そうだった」

跡部にそう尋ねられ、何かを思い出すような素振りをする赤也。

「実は今日の朝ごはん、白石さんと一緒に
食べる約束してるんすけど、俺寝坊しちゃって」
「……」

だから、あんなに急いで廊下を走ってたのか。
それよりも、赤也の口から出た名前に苛立ちを覚えた。

「…おい切原」
「?なんすか?」
「朝食なら、俺様と食え」
「へ?」
「行くぞ」
「え、えぇっ!跡部さん待っ…」

赤也の腕を取り、ずかずかと歩き出す跡部。
どこか不機嫌そうな様子に、赤也は困惑したまま
跡部の後ろをついて行く。そのとき。

「切原クン、おはようさん」
「!白石さん!」

いつも通りの穏やかな声で名前を呼ばれ振り返ると、
白石が立っていた。

「切原クン遅いから寝坊したんちゃうかと思て
部屋まで迎えに行こうとしとったとこや」
「あ…すんません、俺」
「ええんよ。それより跡部クン。
切原クンどこ連れて行くつもりや?」
「テメェには関係ねぇだろうが。アーン?」

しまった、と赤也は思った。まただ。
ここ最近ずっと、跡部さんと白石さんは仲がよくない。
仲がよくないと言うよりは、お互いに牽制し合うような。
それも自分のせいで言い合っていることが多い。

「関係ないことあらへんで?
今から切原クンと朝ごはん食べる約束してんねん」
「フン、朝食ならたった今、俺様と食うことになった」
「そらまたえらい俺様ぶりやんか」
「お前こそ珍しく執着するじゃねぇの、白石よ」
「切原クンとの約束やからなぁ」

白石はいつも通りの落ち着いた柔らかい口調でにっこり笑い、
跡部もいつも通りの余裕そうな俺様口調で不適に笑っているが
ふたりの間にはバチバチと静かに火花が散っていた。
そんな雰囲気に気づき、焦る赤也。

「あ、あのっ…お、お腹すきました!」

とっさに出てきた言葉がそれだった。
――俺のバカ。
もっと気の利いたこと言えっつーの…。
言葉を続けようとするが、何と言えばいいのか分からない。

「お前はどっちと食いてぇんだ」
「え?」
「朝ごはんや。切原クン、どっちと食べたい?」
「どっちって…」
「好きな方と食べたらええ」

赤也が困るのは承知で、そう尋ねるふたり。
見た目ほど余裕がない証拠だ。

「俺は…」

たかが朝食ごときだが、跡部と白石に真剣な目で見つめられ
赤也は口ごもってしまった。

――そんなの、選べない。

跡部さんと白石さんが、俺のこと
すげぇよくしてくれてるのは分かってる。
面倒見が良くて、優しくてあったかい白石さん。
俺様だけど、頼りになってほんとは優しい跡部さん。
ふたりともほんとにほんとに大好きで。
けどそんなふたりが、俺のせいで
仲良くできないのは辛かった。


「俺は、ふたりと食べたい…ッス」
「……」

赤也がうつむいて寂しそうにポツリとそう呟くと、
跡部と白石はちらっと目を合わせ、それ以上尋ねるのをやめた。

「…うん。ほな、行こか」
「……フン」

白石は、優しくにっこり笑って赤也の頭を撫でた。
跡部も不服そうだが、それ以上は何も言わない。
惚れた弱み、というやつなのだろう。
赤也を真ん中に挟んで、3人は食堂へ入っていくのだった。




「ぎゃはは、ちょお見てみぃ千歳!
白石の奴、跡部と切原と飯食ってんで!
めっちゃおもろいねんけど」
「切原挟んであんなにバチバチ火花散らして…
ほんと切原にぞっこんたいね、白石と跡部は」
「あ、切原ジュースこぼしよった!
白石と跡部、同時にハンカチ取り出しとる!ぎゃはは腹いたい」
「…それにしても、あの白石と跡部をあそこまで
夢中にさせる切原はすごいばい」
「ちょ、今度はふたり同時に自分の分のデザート
切原に差し出したで!ひー、もう無理!笑い死ぬ!」

3人の様子を見つめ大爆笑している謙也と
苦笑しながらも面白がって見ている千歳。
白石、赤也、跡部の順で横に並んで
朝食をとっている姿は端から見ればかなり面白いようだ。
赤也を挟んで静かに火花を散らして牽制し合うふたりと、
無邪気な笑顔で3人分のデザート(ヨーグルト)を頬張る赤也。
面白くないわけがない光景だったが、
当の白石と跡部は周りなどどうでもよくて
目の前の可愛い赤也のことで精一杯なのだった。





「…以上が今日の練習メニューだ。
各自、全てのメニューをやり終えるまでは
部屋に帰れないと思え」

3番コートに上がってから、練習内容は
さらに厳しいものとなった。
だけど、これも強くなるため。
それぞれが、コーチの一声を合図に練習に取りかかる。
赤也も、うっしゃー!と張り切って筋トレを始めた。




「……ふー」

ようやく筋トレのメニューを全て終え、
少し休憩しようと床に座り込む赤也。

――それにしても、なんかさっきから…ふらふらする。

実は朝からちょっとだけ体がだるかったけど
練習に響かないように気のせいだと思うようにしてた。
そんなことをぼんやり考えていると、一瞬だけ視界がぼやける。
そういえば頭も痛い気がする。
いつもより心臓が速く鳴ってるし…。

「…んなこと言ってる場合じゃねーっつーの」

そんな考えを振り切り、赤也は立ち上がった。
この程度で弱音を吐いてたらもっと上になんて行けない、
そう自分に言い聞かせて。

「あ…れ?」

勢いよく立ち上がった瞬間、強い目眩がした。
徐々に視界がぼやけて、景色がぐるぐる回っている。




バターン!



少し離れたところで練習をしていた跡部は、
何かが倒れる音に振り返った。
その光景に、我が目を疑う。

「切原!」

倒れていたのは赤也だった。
筋トレ道具を放り出して、
誰よりも早く、赤也の元へ駆け寄る。

「おい切原、しっかりしろ」
「………あ…とべさ」

赤也は苦しそうにはぁはぁと呼吸している。
さっきまであんなに元気にしていたのに。

「…お前、熱あんじゃねぇか」

跡部は赤也の体を抱き起こし、額と額をくっつける。
朦朧とする意識の中で、赤也は跡部の顔が
ものすごく近くにあることにドキドキしているのを感じた。

「だいじょ…ぶ、っす」
「馬鹿かてめぇは。保健室行くぞ」

そう言って、跡部はひょいっと赤也を横抱きして立ち上がった。

「跡部さ…っ!俺、自分で…」
「うるせぇ。黙って寝てやがれ」

赤也を抱いたまま、ずかずかと歩き出す跡部。
跡部のあたたかい熱に安心した赤也は、それ以上抵抗せずに
ぎゅっと跡部の首に抱き付いて身を任せた。



「38℃ね。無理しないで安静にしてるように」
「………」

ぽーっとした顔で診断を聞く赤也。
あまり耳に入っていないようだ。

「あなた、隣の部屋のベッドにその子運んでくれる?」
「はい」

跡部はもう一度赤也を抱き上げると、
カーテンで仕切られた隣の部屋のベッドまで運び、
ゆっくりと寝かせた。


「あとべさん…」
「何だ」
「……ごめん、なさい」
「謝ってんじゃねぇ。さっさと治しやがれ」
「…はい」

熱でぼんやりとした瞳で跡部を見つめる赤也。
申し訳なさそうに、しゅんとしている。

「ったく…体調が悪いなら悪いと
どうして言わねぇんだ」
「……」
「なに無理してんだテメェは」
「…だ、て……俺、もっと強くなりたい、から」
「………アーン?」
「俺が弱いままだったら、いつか跡部さんや白石さんと
別のコートに…なっちまう、から」
「……」
「やだ、からっ…俺、いますげぇ楽しくて
跡部さんと、白石さんと一緒にテニス…したいんす」

赤也の目に、じわじわと涙が溜まっていく。
きっと、この程度で倒れてしまった悔しさからの涙だろう。


愛しいと、思った。目の前で必死に涙をこらえながら
一生懸命に気持ちを伝えてくれる赤也のことを。

「フン…馬鹿が」

指で涙をすくい、そのまま頬を撫でる。
少しくすぐったそうにしたが、
跡部の手が心地良いのか、手に頬を擦り寄せた。

「コートなんて違っても、一緒に練習くらい出来るだろうが」
「……で、も」
「それで体調壊してりゃ本末転倒だっつってんだよ」
「…………はい」
「それに」
「?」
「いつまでも3番コートで一緒だと、
お前が白石になついてくっつきやがって、面白くねぇ」
「…!」

珍しく目を逸らして言う跡部。
言うつもりはなかったのか、バツが悪そうにしている。

「白石さんのこと、嫌い…ッスか?」
「…もう寝てろ」
「けど…」
「アーン?俺様の言うこと聞けねぇってか」
「寝…ます」

そう言って、赤也は布団を口元まで被った。

「ちゃんと寝てろよ。俺様はもうすぐ試合の時間だ」
「はい…ありがとうございます」

跡部が行ってしまうのを少し寂しく感じて、
赤也は布団をぎゅっと握りしめた。


「おい、切原」
「なんすか、跡部さ…、っ!!」

跡部は姿勢を屈めると、横になっている
赤也の瞼へと唇を寄せた。
びっくりした赤也は、真っ赤になって跡部を見つめる。


「お前を手に入れんのは俺様だ。覚えておけ」


そう言って、跡部は保健室を後にした。




練習試合が終わって、切原クンがおるはずの
筋トレルームに行ったのはつい3分前。
切原クンが倒れて保健室に運ばれたって聞いて
心臓が飛び出しそうになった。
試合後で汗をかいてることなんかお構い無しに、
保健室へ向かって走った。

――なんで、俺がおらんときに…。

そう思ってさらに走るスピードを上げると、
向かい側から跡部クンが歩いてくるのが見えて思わず足を止めた。

「…んなに走ってどこ行くんだ、テメェは。アーン?」
「決まっとるやろ。切原クンとこや」
「アイツならもう大丈夫だ」
「それは自分の目で確かめるわ」

お互いに、自然と刺々しい言い方をしてしまう。
跡部クンが、切原クンを保健室に連れて行ったんやな…。
そこに居たのが自分じゃなかったことに、苛立ちを感じた。

「跡部クンこそ、もう試合始まるんとちゃうん?」
「………フン」

一瞬、俺を睨むようにしてから、跡部クンは
俺の横を通りすぎようとする。
が、彼は足を止めた。

「白石よ」
「…なんや」
「アイツを手に入れんのは俺様だ」
「……こっちの台詞や」

そう言って、また俺は走り出した。
跡部クンの視線を背中に感じながら。




「…すんません、切原クンは?」
「ああ。彼なら隣の部屋で寝てるわよ。
熱があるみたいだから安静にさせてるの」
「そう、ですか」

白石は、ゆっくりとカーテンをめくり
赤也のベッドに歩み寄る。
すう…と寝息を立てて、赤也は眠っていた。
顔は赤くて時折苦しそうに眉を寄せるが、
風邪だったらゆっくり寝て薬を飲めば良くなるだろう。
白石は安心したように、息を吐いた。

「堪忍な…しんどいのに気づいてあげられへんで」

そっと赤也の前髪をかき分けて、頭を優しく撫でる。
浅い呼吸を繰り返す赤也に、胸が痛くなった。
もしかして朝から、体調が悪かったんだろうか。
赤也を取られまいと自分たちが
いっぱいいっぱいになっていたせいで、
気づいてあげられなかったのかもしれない。

「…ごめんな」

眠っている赤也を起こしては悪い。
最後にもう一度頭を撫で、布団をかけ直してやってから
白石は保健室を出ようと赤也に背を向けた。そのとき。

「……しらいし、さん…?」
「!切原クン」

きゅ、と弱々しく白石のジャージの袖を掴んだ赤也は、
ゆっくりと目を開けた。

「白石さん…」
「堪忍…起こしてしもたか?」

ふるふると首を振って否定する赤也。
そんな赤也に、優しく微笑んで手を握り返す。

「どっか、痛いとこあらへんか?しんどいとことか」
「…大丈夫、ッス」

笑って答える赤也だが、いつものような元気さはない。

「俺、さっき…」
「ん?」
「さっき跡部さんに、言ったんす」
「……」

跡部の名前が出てきたことに、無意識に眉を寄せる。

「俺、白石さんと、跡部さん…ふたりとも、大好きだから
一緒にテニス…してたくて」
「…うん」
「けど俺が、弱いままだったら…コート、離れちまうから」
「……」
「だから、強くなりてぇって…」

赤也の手を握っていた白石の手に、ぎゅっと力が入る。
優しい目で赤也を見つめながら、白石は口を開いた。

「そんなん…コートが同じやなくても、
いつでも一緒に練習できるで?」
「……ヘヘッ、跡部さんも、同じこと言ってました」
「…そうか」

一瞬だけ表情を曇らせた白石に気づき、
赤也は寂しそうに白石を見つめた。

「跡部さんのこと…嫌いッスか?」
「ううん。嫌いやないよ」

不安そうに聞いてきた赤也に、優しく笑って返す白石。

「…けど、俺のせいで」
「ちゃうよ。切原クンのせいやない」
「でも」
「ただ、な」

そう言うと白石は、横になっている赤也を
布団の上からそっと抱き締めた。

「どうしても…譲られへんモンがあるねん。俺も、跡部クンも」

ぎゅ…と抱き締められながらそう耳元で囁かれて、
赤也はまた心臓がドキドキと速く鳴るのを感じた。
赤也が何も言えずに白石に身を任せていると、
しばらくしてからようやく白石はゆっくりと体を離した。

「なあ、切原クン」
「はっ…はい」
「俺と跡部クンはな、互いに嫌って仲悪いわけやないで」
「え…じゃあ、どうして」
「……ん。それはな、」

白石は赤也の前髪をかき分けて、
額に ちゅ、と口付けた。

「…!」
「俺らはな」

いつものように優しい顔で笑いながら、白石は言った。


「恋の、ライバルやねん」


赤也はその言葉を聞いて目をぱちぱちさせていたが、
額にキスされたことと、その言葉の意味に気づいて
みるみるうちに顔を真っ赤にした。




――俺様で、自信家で、だけどいざとなると
本当に頼りになって優しい跡部さん。
強くてかっこよくて、カリスマ性があって。
キツく言いながらも、俺が困ったときは力強く導いてくれる。
そんな、大好きな大好きな跡部さん。


――面倒見がよくて、本当に優しくて
あったかくて、だけど強い人。
俺が悩みごとを相談すると、自分のことみたいに
一緒になって考えてくれる。優しく包んでくれる。
そんな、大好きな大好きな白石さん。


どっちかを好きだと決めるなんて、
きっと俺には出来ないだろうけど。

でも、もし許されるのなら
大好きなふたりと、これからも一緒に居たい。
これは、俺のワガママかもしれないけど。
それでも今はまだ、ふたりの側に居たい。


熱が下がって元気になったら、
ふたりにお礼を言いに行こう。
それで、また3人で一緒にご飯が食べたいってお願いするんだ。
跡部さんも白石さんも困ったような顔をするけど、
きっと結局は一緒に食べてくれる。
そんな時間が大好きで。

――だから、そのとき大好きだって言おう。

ふたりのことが、大好きだ、って。





おわり


*******


亜霧さまからいただいたリクエストで
跡→赤←白 でした。

いかがでしたでしょうか!
ご希望に叶っておりますでしょうか*
わたし的には気に入っていて、満足してます。
自己満です完全に(笑)

跡赤は、アンケートでもかなり人気あります。
いいですよね跡赤。わたしも大好きです。
新テニが、赤也受け好きな人にとって
おいしい内容が多すぎますよね(笑)

しかし!
なぜ天使化を飛ばした、アニメスタッフよ…。
動く白赤を見るのをとても楽しみにしてたんですが。
Ovaで出ることを祈っております*

亜霧さん、2度目のリクエスト
ほんとにありがとうございました!
毎回、楽しいリクエストをくださって嬉しいです。
これからもぜひ、よろしくお願いします。

読んでくださった方々、ありがとうございました♪♪

2012.04.02

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -