素直になれなくて




リクエスト第十段!
光月塁華さんからのリクで
「ダブルスを組んで仲良くなった赤也と白石を見て嫉妬する神尾」
とのことだったので、書かせていただきました。
それでは、どうぞ!


*******




「でさぁ神尾、そのとき白石さんが
俺のフォーム誉めてくれて!」
「……あっそ」

テーブルを挟んで向かいに座る切原は
目をキラキラさせながら話してる。
最近、白石さんとダブルスを組んでから
切原はやけに白石さんになついてて、
何かあればすぐ嬉しそうに白石さんの話題を出す。

「おい聞いてんのかよ神尾!」
「うるせぇな、聞いてるっつーの」

分かってる。コイツはテニスの面で
カリスマ性をもつ人たちにかなり興味をもつ傾向がある。
自分がもっと強くなりたいという
純粋な気持ちからくる、好奇心。憧れ。

「んで、明日も教えてもらう約束した!」
「…ふーん」


――けど、ちょっと白石さんにはなつきすぎじゃねぇか?


白石さんのことは俺も知ってる。
四天宝寺の聖書と言われるほどに完璧なテニスをこなす。
思わず見とれてしまうような、全く無駄のない動き。
切原が興味を持たないはずがない。

分かってるけど、イライラする。
にこにこ無防備に愛想振り撒きやがって。
俺は、自分の中の苛立ちを必死に抑えた。




「あー、疲れた」

1日の練習が終わり、就寝までのわずかな自由時間。
それぞれが好きに過ごしている。

「どこ行ったんだよアイツ…」

照れ臭さから、お互いにベタベタすることはほとんどないが
毎日が練習尽くしのこの合宿では、この自由時間が
唯一ふたりでゆっくり過ごせる時間。
口には絶対出さねぇけど、俺はその時間が好きで
俺なりに大切にしてるつもりだった。

「…、……!」
「ん?」

宿舎の廊下をぶらぶら歩いてたら、切原の声が
少し遠くの突き当たりの方から聞こえた。
たぶん廊下を曲がったところ辺りで
誰かと話してるんだろう。
俺は、恋人が居ると思われる廊下の先に向かった。
自然と歩くスピードが上がる。

「きりは…」
「でね、白石さん!!」

廊下を曲がり、切原を呼ぼうとすると
切原の声で書き消された。


――また、白石さん。


「俺も白石さんみたいに、安定したサーブ打てるように
最近特にサーブの練習に集中してるんッスよ!」
「そうなんや。けど切原クン最近ほんまに
コントロール良くなってきてるで」
「え、ほんとに!?」
「うん。頑張ってるもんな」
「はいッス!…へへっ」

廊下を曲がると、切原が白石さんに頭を撫でられて
嬉しそうに笑うところだった。
切原は俺に背を向けていて俺に気づかないが
白石さんとはばっちり目が合ってしまった。

「あ、こんばんは。神尾クン」
「……どーも」
「え?」

ようやく俺に気づいた切原は、驚いたように
振り返って俺を見た。

「神尾?何やってんだ?」

…何やってんだ、って。
お前を探してたんだろーが。
他の奴に頭撫でられて、嬉しそうにしやがって。
俺はまたイライラが増すのを感じた。

「神尾?」
「…お前が、何やってんだよ」
「は?」
「は、じゃねーよ!何やってんだって聞いてるんだ」
「何って、白石さんとテニスの話…お前なんで怒ってんだよ」

――白石さん、白石さん。そればっか。
恋人の俺にだって、そんな風に甘えたりしねぇくせに。
つーか、なんで俺んとこ来ねぇんだよ。
俺じゃなくて、白石さんのところに。

「…白石さん白石さんうるせぇんだよ」
「何、言って…」
「お前は、誰にでも無防備すぎるって言ってんの」
「はあ?バカじゃねーの?白石さんはそんなんじゃ」
「っ…そんなに白石さんのこと好きなら、勝手にしろ」
「!?ち、ちがっ…」
「まあまあちょっと待ちや、神尾クン」

俺の言葉に、明らかにショックを受けたような表情をする切原。
すると、今まで黙って俺たちのやりとりを見てた白石さんが、
見かねたように間に入ってきた。

「俺ら、ただテニスの話してただけや。な、切原クン」
「……」

白石さんの言葉に、切原がうつむいて小さく頷く。

――気に入らねぇ。
切原をかばう白石さんも、そんな白石さんに無防備すぎる切原も。
もう、見ていたくなかった。

「……先に部屋帰るから」
「!神尾、待っ…」

切原の言葉を待たずに、俺は背を向けてその場を後にした。





――神尾が、怒ってた。

それも、いつもふざけ半分で言い争うなとは
全然違う、本気の表情で。
怒ったような、少し寂しそうな目で。

『そんなに白石さんのこと好きなら、勝手にしろ』

その言葉が、さっきからずっと
頭の中をぐるぐる回ってて。

違う。ちがう、のに…。


「切原クン、大丈夫か?」
「……」
「…切原クン」
「え?は、はいっ…大丈夫、です」

白石さんが心配そうに覗き込んできたのに気づいて、
慌てて笑顔で返そうとしたけど、
自分でも分かるくらい上手く笑えなかった。
――俺、神尾に、あんな風に思わせてたのか?ずっと?

「神尾クンのこと追いかけへんでええの?」
「………べ、つに。意味わかんねぇし、アイツ…」

白石さんは悪くないのに、巻き込んでしまった。

「ほんまにええの?」
「いいんッスよ、あんな奴。もう知らねぇ」
「…そうか。ほな、切原クン」
「!」

ぐいっといきなり白石さんに腕を引っ張られ、
後ろから抱き締められる。

――え?なん、で?

自分の置かれている状況が理解できなくて、
固まってしまった。

「切原クン。俺にしとけへん?」
「…っ…え?」

耳元で囁かれて、びくっと一瞬体が跳ねてしまった。

「神尾クンと別れて、俺と付き合おっか」
「!…な、なに言っ……」

白石さんは、俺を抱き締める腕に力を入れる。
腕から抜け出そうとしても、びくともしない。

「神尾にクンは、切原クンに酷いこと言うたやん。
短気やし、めっちゃ酷い奴やんか。
俺やったらあんなこと言わへん。
俺はあんな風に切原クンのこと、傷つけへんで?」

――こんな白石さん、知らない。

優しくて、お兄ちゃんみたいで、
大好きで尊敬してる白石さん。
白石さんは、こんな風に神尾のこと、悪く言わない人なのに。


「…た、確かにアイツは短気だけどっ!
けど、俺の方がもっと短気でワガママだし…
普段はあんなこと、言う奴じゃないんッス!
全然酷い奴なんかじゃないっ!」
「………」
「だから…だから、アイツのこと悪く言ったら…だめです」

白石さんの腕の中で、思わず本音を全部言ってしまった。
声が震えたのが自分でも分かった。
それを無言で聞いてた白石さんは、しばらくすると
突然クスッと笑って俺から体を離した。

「言えるやんか。自分の気持ち」
「え?」
「けどそれは俺やなくて神尾クンに言わなあかんな」
「…白石、さん」

そう言った白石さんは、優しく笑って俺の頭を撫でた。

「なあ切原クン。さっきので分かったやろ?
切原クンは、ちょっと無防備すぎるとこがあるねん。
さっきのが俺やなくて、ほんまに切原クンのこと
どうにかしよ思てる奴やったらどうする?
逃げられへんかったやろ?」
「………」
「神尾クンは、それが心配なんとちゃうかな。恋人として」

白石さんは、諭すように優しく言ってくれた。

「けど、心配やのにそんな奴と一緒の切原クン残して
どっか行ってまう神尾クンも悪い。おあいこや」

白石さんはにっこり笑って続けた。

「仲直り、しておいで」

そう言って、頭をぽんぽんして手を離された。
――白石さん。
俺が困ったとき、いつも俺を助けてくれる。
いつも、背中を押してくれる。
ほんとに、お兄ちゃんみたいな、大好きな先輩。

「白石さん」
「ん?」
「……ありがとう、ございます」
「…うん。早く行っておいで」
「はいッス!」

俺は白石さんに背を向けて、走り出した。
早く、早く行かなくちゃ。神尾のところに。


「…神尾クン。次、手離したら…俺がもらうからな」





――切原、すげぇショック受けた顔してたな。

あんなこと言うつもりじゃなかった。
ついイライラして、思ってもないことを言ってしまった。
アイツ、今なにしてんだろう。
まだ、白石さんと一緒に居るのか?
白石さんが、ショックを受ける切原をなぐさめて。

「…何やってんだ、俺……」

勝手に嫉妬して、一方的に怒って。
挙げ句、その嫉妬の対象である白石さんと
ふたりきりにして置いてきた。
さっき切原が俺の言葉を聞いて見せた、
泣きそうな、悲しそうな顔が頭をよぎる。

「っ…俺のアホ!」

俺は、来た道を引き返して走り出した。
戻って謝りに行くなんて、かっこ悪いかもしれない。
もしかしたら、もう白石さんに慰められて
一緒に部屋に帰ったかもしれない。
それでも、俺は。
早くアイツのところに行かねぇと、と思った。




ドンッ

「いてっ!」
「…わ、わりぃ」

走りながらスピードも緩めず角を曲がると、
思いっきり誰かとぶつかった。
尻餅をついてしまったそいつを、立たせようと手を伸ばす。

「!切原…」
「か、神尾っ」

ぶつかったのは、今まさに一番会いたかった恋人。
ぽかんと俺を見上げている。
俺は心臓が飛び出しそうなくらい驚いたことを隠すために、
切原の手を掴んで立ち上がらせた。

「…尻餅なんかついてんじゃねーよ」
「う、うるせぇ」

お互いに、気まずさから目を合わせられない。
謝らねぇと。ちゃんと、自分の気持ちを伝えねぇと。

「……きりは」
「ごめん!!!」
「…は?」

俺が口を開こうとすると、切原が突然
うつむいたまま大きな声で言った。
びっくりして言葉を出せずに居ると、切原は続けた。

「し、心配かけて…ごめん。
白石さんにも、言われた。俺は、無防備すぎるって…。
それで神尾に心配、かけてるって」
「……」
「俺っ…白石さんは兄ちゃんみたいだなって。
兄ちゃんが出来たみたいで嬉しくて…
けど、好きな人は、違っ……神尾、だもっ…」

目にいっぱい涙を溜めて、震える声で
一生懸命に気持ちを伝えてくれる切原を見て
思わず強く抱き締めた。

「か…みお、」
「ごめん」
「え?」
「傷つけて、ごめん。泣かせてごめん」
「……」
「…白石さんに、嫉妬してた」
「神尾…」

もう一度、震える体をぎゅっと抱き締める。

「さっき言ったこと、訂正する」
「え…」
「勝手にしろ、って言ったやつ。あれ、嘘だから。
絶対に…他の奴のとこなんか、行くな」
「……!」

切原は驚いた様子だったけど、
すぐにぎゅっと抱き付いてきた。
俺の胸に顔を埋めているため表情は見えないけど、
ぐす…と鼻をすする音がしてるから、泣いてるんだと思う。

「…ごめんな」
「ひっ、く…かみおの、ばか…っ」
「ん。悪かった」

頭を撫でてやると、ぐりぐり顔を押し付けてきた。
こんな風に、ひっついてくるのは珍しい。
目の前の恋人のあたたかい体温に、愛しさを覚えた。

「切原」
「…な、んだよ」

――ちゅ。

「………っ!?」

可愛くて、愛しくて。
ふてくされたような顔で見上げてきた切原に、
触れるだけのキスを落とした。
切原の顔は、みるみる赤くなっていく。

「ばっ…」
「お前のこと好きだから」
「!」

そう言うと、耳まで真っ赤になった切原は
また俺の胸に顔を埋めて、小さな声で言った。

「…俺も、だっつーの」


俺たちはお互いに、いつも不器用で。
余裕がなくて、ヤキモチ妬いたりなんかもして。

だけど、大好きで。
これからもきっと、一緒に居るんだろう。





おわり


*******


光月塁華さんからのリクエストでした!
いかがでしたでしょうか。

2回目のリクありがとうございます!
いつも見てくださってるんですね*
感謝、感謝です。

リクには、「白石さんの赤也への気持ちはお任せします」
と書いてあったので
赤也のことが可愛くて可愛くて手に入れたいけど、
赤也の悲しそうな顔を見たくなくて
ふたりを仲直りさせるために背中を押してあげる
大人な白石さんにしました。(笑)

ご希望に叶いましたでしょうか*

これからも、よろしくお願いします♪

2012.03.31

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