だけど、好きだから




リクエスト第九段!
あさりさんからのリクエストです。
日赤で甘。

いやあ、みなさんの他校×赤也熱がすごいです!
楽しいリクエストばかり。嬉しいなあ*
当サイト初の日赤です。それでは、どうぞ!


*******





「うわ、すっげーでかい魚が居る!
おい見ろって日吉!あれだよあれっ」
「…でかいなんて見れば分かる」
「なんだよ、もっとちゃんと見ろっつーの!
あ、おい日吉!あれも魚かな!?」


今日は日曜日。
氷帝学園の日吉若と、立海大付属の切原赤也は
都内の某水族館にふたりで来ていた。

男ふたりで水族館。
端から見れば、ただの友達のように見えるが
ふたりはれっきとした、恋人同士。
互いに所属する部活の練習のハードさと
そして次期部長ということもあって、
忙しさのあまりめったに会えないふたりだが
今日は久しぶりにオフが重なった。

なぜ水族館デートなのかと言うと、
赤也がどうしても行きたいと言い出したからである。
日吉が理由を聞くと、赤也はムスっとして
少し頬を赤く染めながらこう言った。
「なんか、恋人っぽいから」

普段、甘えたりベタベタするのは恥ずかしがって
あまりこんなことは言ってこないので日吉は驚いたが、
こんな可愛いお願いを断れるはずもなく、
水族館デートをすることに決まったのだった。


「日吉、見ろよー!アイツすげー不細工」

変な顔の魚を見つけて、けらけら笑う恋人。
さっきからずっと、変わった魚を見つけては
熱心に説明文を読んだり目で追ったりして
かなりはしゃいでいた。

日吉は、そんな赤也の姿を見て
思わず頬が緩みそうになるのに気づき、堪える。
魚なんかよりも、久しぶりに会う恋人が
自分の側で嬉しそうに笑うのを見ていた。



「なぁ、ひよ…」

はしゃぎながら日吉の方へ振り返ろうとした赤也は、
突然ピタリと止まり、ある一点を見つめた。

「……」
「どうした」
「………ソフトクリーム食べる」
「は?」

突然、赤也は日吉の腕を掴んで、
ずかずかと売店の方へと歩き出した。

――…ああ、あれか。

赤也がさっきまで見つめていた場所を見ると、
恋人だと思われるふたりの男女が
ベンチに座ってソフトクリームを食べていた。
彼氏は彼女の肩を抱き、彼女は彼氏の肩にもたれかかっている。
典型的な、恋人らしい光景だった。


「………うまい」
「…あ、そ」

ソフトクリームを無言で食べ終わった赤也は、
ムスっとしながらゴミをゴミ箱へ捨てた。

「何、拗ねてんだお前は」
「別にっ…拗ねてねーし!」
「拗ねてるだろーが」
「……」

ぷいっとそっぽを向いてしまった恋人を
どうしようかと呆れていると、
館内にアナウンスが流れた。


「ご来場の皆様へお知らせします!
ただ今から、3階でイルカのショーを行いますので
ぜひご覧くださいませ!」


――イルカ、ね…。

隣の赤也を見ると、そわそわしている。
見に行きたいんだろう。
これだけ分かりやすい奴も珍しい。
ムスっとしていたはずの赤也は、アナウンスを聞いてから
目を輝かせて、落ち着きがなくなっていた。
けれど、見に行きたいとは言ってこない。
さっきまで拗ねていたから、言い出しにくいらしい。
チラチラと日吉の様子を伺っている。

……分かりやすすぎだろ。

しかし、そんな赤也の姿を見て
可愛いと思ってしまっている自分も末期だなと日吉は思った。


「行くぞ」
「え?」
「3階。早く行かねぇと始まるだろうが」
「!お、おうっ」

歩き出す日吉の後ろを、赤也は嬉しそうに追いかけた。



「さぁ皆様!次は3回転ジャンプです!」
「うおぉーすっげぇ!!!」

ショーに釘付けになる赤也。
さっきまで拗ねていたのが嘘かのように
興奮して目を輝かせながら見ている。
ころころ変わる恋人の表情を見つめる日吉の目は
試合などで見せる無愛想で冷たい目とは違い
愛しいものを見るような、優しい目だった。

「あ、すげー!日吉見てたか!?」
「ああ…見てた見てた」

日吉のそっけない返事に赤也は眉を寄せたが、
またすぐにショーに釘付けになった。

「ショーなんかより面白いもん見てたっつーの…」
「は?なんか言ったか?」
「言ってない」
「…ふーん」

不思議そうな顔をした赤也だが、
イルカがまたジャンプしたことに気をとられ
またショーに夢中になった。



「ショーすごかったな!」
「…まあな」

ショーが終わり、また館内を適当にぶらぶらする。

「あ、そーだ!ねぇちゃんにお土産頼まれてるんだった。
ちょっと寄ってもいいか?」
「別にいいけど」

赤也の家族へのお土産を買うために、
ふたりは1階にある売店に向かうことにした。


「…いてッ」
「何やってるんだ、どんくさい」
「うっせぇ!人多いんだからしゃーねぇだろ」

赤也が誰かとぶつかったらしい。
日曜日のため、館内はかなり混雑していて
場所を移動するのも一苦労だ。
すると、ふたりの前を歩いていたカップルの会話が耳に入った。


「すごい人だね〜」
「ああ。はぐれんなよ?ほら、手」
「えへへっ」


そう言って、ふたりは手をぎゅっと握り合った。
誰が見ても自然なカップルだ。

ふと隣の赤也に目をやると、
前を歩くカップルをぼーっと見ていた。
寂しそうな、うらやましそうな、そんな目で。


――男同士。

このことで、赤也は悩む癖があった。
別に男だとかそんなのはどうでもいい、と言って
不器用な日吉なりに赤也を励まそうとしたことがあったが
それでも赤也は、たまに思い詰めたようにうつむいてしまう。

今だって、そうだ。
普通の男女の恋人同士なら、手をつないでも当然の光景。
笑われることも、好奇の目でみられることもない。
前に、赤也はポツリと呟いたことがあった。
「お前が周りの奴に笑われんのは嫌だ」…と。


とうとう歩きながら、赤也は
前のカップルを見ていられなくなったのか
目を逸らしてうつむいてしまった。

男同士。これは変えられない事実。
どんなに本気で好きだったとしても、
一般的には受け入れられるのが難しいことだ。
確かに不自由することもある。
…だけど。
だから、何だってんだよ。
周りの奴なんか、どうでもいい。
どう足掻いたって、消せる感情ではないのだから。

日吉は、うつむき加減に歩いていた赤也の手を
ぎゅっと強く握った。

「…!ひ、ひよ…ッ」

いきなりのことに、赤也は驚いて日吉を見上げる。

「なに」
「えっ…だ、だって、手……」
「こうしとかないとお前はすぐにはぐれる」
「そ、そうじゃなくて…人に見られて…」
「見せとけばいいだろ」

つないだ手にぎゅっと力を入れる。


――言葉には、上手く出来ないけど。
この気持ちが伝わればいい。


「誰に笑われたって、変だと言われたって
離す気なんかねぇんだよ」
「……!」

ぶっきらぼうに言った日吉の言葉は、確かに赤也の耳に届いて。
つないだ手が、あったかくて。
嬉しくて嬉しくて、だけど照れくさくて。
真っ赤になって、自分と日吉のつないだ手を見つめた。


「……日吉、」
「なに」
「………ありが、と…」
「……ああ」


――なあ日吉、俺もなんだよ。
俺だって、誰かに笑われたって変だって言われたって
それでもお前のことが好きだから。
だから…今はこのまま。
この手をずっと、離さないでほしい。

そんな想いを込めて、あったかい手を
ぎゅっと握り返した。





おわり


*******


あさりさんからのリクエスト
日赤で甘でした。

なぜ水族館にしたのかというと、
魚を見てはしゃぐ赤也と
魚には興味ないけど、はしゃぐ赤也を見て幸せを感じる日吉が
書きたかったからです。(何)
赤也、絶対はしゃぐと思う。
だってまだ中学生だもの。

あさりさん、リクエストありがとうございました!
いかがでしたでしょうか…;
あんまり甘くなってないかな?
未熟な文章で申し訳ないです。
日吉は、敬語じゃなかったら日吉っぽさを出すのが
とっても難しいことに気づきました(笑)
少しでもご希望に沿えていたら嬉しいです♪

たぶん日吉は、付き合ってからも言葉が少なそう。
赤也は、男同士であることを気にして
悩んでたら可愛いです。

普段の日吉とは違って、
恋人に優しい顔を見せる日吉が好きです。
言葉にはめったに出さないけど
赤也のこと大好きだったらいいです。

あさりさん、素敵なリクエスト
本当にありがとうございました♪♪
よければまたお願いしますね!

2012.03.27

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テーマ「人外ファンタジー」
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