――時刻は、夜の8時20分。
白石さんとの約束までまだ10分くらいあるけど、
部屋に居たらなんかそわそわして落ち着かなくて
早めに部屋を出てしまった。

…ちょっと早いけど、行ってもいいよな?
やべぇ、なんか緊張してきた。
ふたりきりでもないし、トランプするだけなのに。
なんか、緊張で喉渇いてきちまった。
自販機で何か買ってから行こう。
俺は何を買おうか迷いながら、自販機の前に立った。


「切原赤也くん」
「え?」

いきなり後ろから声をかけられて振り返ると、
知らねぇ高校生が2人立ってた。

「切原赤也くん、だろ?」
「そうだけど…アンタら誰」

話したこともねぇのに、なんで俺のこと知ってんだコイツら。

「ちょっとさ、来てくんない?」
「切原クンに用があってさ〜」

お願い!と顔の前で手を合わせて頼んでくる。

「用って何すか?」
「来てくれれば分かるからさ!」
「すげぇ大事な用でさ、急いでるんだよね」

ダメかな?と、人の良さそうな顔で困ったように尋ねられる。
ふたりとも大人しい感じだし、悪い奴らじゃなさそうだ。

「悪いんスけど…俺、今から行くとこあるんで…」
「そんなに時間とらないからさ!
10分、いや、5分くらいだから。ね!」

頼む!と頭を下げられる。
ちらっと時計を見たら、8時25分。
5分くらいなら…まだ時間もあるか。

「まあ…早く終わるんなら」
「ありがとう!」
「じゃあ、こっち来て」

高校生に手を引かれ、言われるがままについて行った。


「ここだよ」
「え、ここって…」
「さぁ入った入った!」

連れて来られたのは、小さい入ったことない空き部屋だった。
こんなとこで、何の用だっつーの…。

家具などもほとんど置かれていない、
薄暗い殺風景な部屋を見渡してたら
後ろで カチャッという乾いた音が聞こえた。

――鍵、閉めた…?


「君さ…可愛い顔してるよね」
「は?」

後ろから肩に手を置かれて、耳元で囁かれる。

「俺たちさ、前から切原くんのこと
可愛いと思ってたんだよね」
「!」

頬を撫でてきた手を、反射的に払いのける。
――何、言ってんだコイツら…。

ここに居たら、やばい。直感的にそう思った。

「…用が無いなら、俺行くから」

内心焦ってるのがバレないように
冷静を装って扉に向かう。
すると、いきなり腕を強く掴まれた。

「いてッ!なにすん、」

文句を言おうと振り返ると、左右の腕をふたりに掴まれ
体を床に放り投げられた。

「くっ…!」

起き上がろうとしたら、ひとりが馬乗りになってきて
体を押さえつけられた。

「な…!?離せよ!」
「この合宿さあ、女の子居ないじゃん?
男ばっかで練習もつまんねぇしさ。
正直、俺たちすっげぇ溜まってんだよね〜」
「俺たちの相手してよ切原くん」
「はぁッ!?ばっかじゃねぇの、俺は男だっ!」
「はは、分かってるって」
「切原くん可愛いから、全然イケルよ」

――駄目だ、マジで逃げねぇと…やばい。
だけど、馬乗りになられた不利な体勢じゃ上手く動けない。

「離せよ!クソ野郎ッ!!」
「おとなしくしてれば、すぐ済むからさ…おい、腕おさえてろ」
「ああ」

なんとか起き上がろうと暴れると、
もうひとりの奴に両腕を押さえつけられる。
俺が全く動けない体勢になるのを見ると、
Tシャツをまくりあげられた。

「!!」
「すげぇ色白いよね切原くん…腰も細いし」
「はは。ちゃんとトレーニングしてる?」

そう言って冷たい手を体に這わされる。

――気持ち、悪い…っ!

吐き気がするほど気持ち悪い感触。
ゾワゾワと、嫌悪感が体を駆け巡った。

「肌きれー…すべすべじゃん」
「マジ可愛いな。男でも余裕だわ」
「やめろッ!離せ、離せよ!」
「しーっ、静かに」
「あんまり騒がないでよ」
「う…るせぇっ!気持ち悪いんだよ!
離せっつってんだろーが!死ね、この変態っ…!」

パシッ!

部屋に、乾いた音が響き渡る。
視界が一瞬歪んで何が起こったのか分からなかったけど、
ほっぺたがじんじんと痛んで、叩かれたんだと気づいた。

「静かにしろっつってんだろうが」

ぐっと手で口を強く押さえられ塞がれる。

「んーっ!ん…ッ」

声が出せない。どうしよう、俺、逃げらんねぇ…。
なんで、こんな奴らについて来たんだろう。
なんで、俺なんだろう。
ほっぺたが痛くて、体を触ってくる手が気持ち悪くて、怖くて。
訳がわからなくなった。

気持ち悪い。触んじゃねぇ…。
そう言って殴り飛ばしたいのに、抵抗さえ出来ない。

――怖い……っ!!

白石さんたちは、もうトランプ始めたかな。
行くって約束したのに、もうとっくに時間過ぎてるな。
…白石さんに頭を撫でられたり、触れられたときは
すっげぇ嬉しくて、幸せな気持ちになるのに。
今日の朝、白石さんが優しく微笑んで
髪を撫でてくれたことを思い出す。
――白石さん。…白石さん、たすけて…。

怖くて、自分が情けなくて、涙が溜まっていくのが分かった。
涙で視界が滲む。

「ははっ、良い顔するじゃん。そそられるわ」
「おい、早くやれよ」
「分かってるって」

Tシャツを更にまくりあげられて、
胸の方に手を這わされそうになったとき。
――白石さんっ…!
白石さんの笑顔がまた頭をよぎり、
俺の口を押さえている手を思いっきり噛んだ。

「イッテェ…!!」
「こいつ!」

髪を掴まれて痛みが走ったけど、
自由になった口で、出来る限りの大声で必死に叫んだ。

「誰かっ!誰か助けてッ、誰かぁっ!!」
「テメェ騒ぐんじゃねぇ!」

また口を塞ごうとされるけど、必死に顔を逸らして避ける。

「助けてっ!白石さん!!白石さんっ…!」
「ああ?何言ってんだお前」

嘲笑うようにまた口を手で塞がれた。
もう…駄目だ。やられる。
俺は、恐怖で目をぎゅっと閉じた。



――ドンドン、ドンッ!!!

「…!」

いきなり扉が強く叩かれる音に驚き、目を開ける。
俺を押さえつけてるふたりも、驚いて扉の方を見てた。


バンッ!!!

「―――切原クン…っ!!」


扉が蹴り破られると当時に、
大好きな声が俺の名前を呼んだ。

………白石、さん…。

息を切らしてそこに立っていたのは、白石さんだった。
驚くよりも何よりも、白石さんが来てくれた安堵から
ぼろぼろと勝手に涙が溢れる。

白石さんは一瞬俺たちの体勢を見て固まってから
驚いている高校生たちを睨み付けた。

「………お前ら、何しとんねん」
「し、白石っ!」
「えっ…白石ってあの…四天宝寺の」

怒りを持った声で静かに口を開いた白石さんに、
高校生ふたりは怯んで焦りだした。

「…離せや」
「いやぁ白石くん、これはその…な?」
「別に俺たち…」

「赤也に触んな、ゆうとるやろうが!!!」

いつもの温厚な姿からは想像できないくらい
でっけぇ声で怒鳴った白石さんは、
俺の上に馬乗りになっていた高校生の胸ぐらを勢いよく掴んだ。
そのまま、拳を振り上げる。

「ひっ…!」

白石さんが高校生に殴りかかろうとした、そのとき。

「白石!!!」

遅れて飛び込んできた丸井先輩と仁王先輩が、
後ろから白石さんをおさえる。
俺はその光景を、混乱する頭で呆然と見ていた。

「白石、落ち着け!」
「お前さんがソイツ殴ったら、面倒なことになるけぇ」
「…っ!」

ふたりに止められて、白石さんは
ようやく掴んでいた胸ぐらを離した。
高校生は、すっかり白石さんの剣幕に怯んで座り込んでいた。


「…赤也、大丈夫か?」

丸井先輩は俺の体を起こしながら、優しく聞いてくる。
胸元までまくれあがったTシャツも直してくれた。
俺は今の自分の状況すら上手く理解できなくて、小さく頷いた。

「ん、そっか。よかった。…仁王」
「おう…。白石、コイツらのことは俺らに任せときんしゃい。
お前さんには、赤也のことを頼むけぇ」
「…ああ、すまん」

白石さんは、うつむきがちにそう返事した。
丸井先輩と仁王先輩は、乱暴に高校生ふたりを引きずって
部屋を出ていった。




「…切原クン」
「……」

言葉が、上手く出てこない。
お礼言わなきゃ。助けてくれてありがとう…って。
混乱した頭でそう思っても、言葉が出なかった。
また白石さんに迷惑をかけてしまった。
白石さんに情けないところを見られてしまった。

「切原クン、」
「…っ!」
「ほっぺた…殴られたんか?」

心配するように優しく頬に触れられ、
無意識に体がびくっと跳ねた。
それを見て、白石さんは手を引っ込めてしまう。

――あ…違う、のに…!
大好きな白石さんに、迷惑をかけて巻き込んでしまって。
困らせてしまった。
自分がほんとに情けなかった。

「ごめ、なさ…っ」
「切原クン…謝らんでええ」
「ごめんなさ、い…」
「……っ…赤也!」


名前を呼ばれた瞬間、あたたかいものに包まれた。
しばらく経ってやっと、白石さんに抱き締められてることに気づく。

「赤也…大丈夫やから。もう、怖いことあらへんから…」
「しらいし、さん…」

白石さんは、ぎゅっと強く抱き締めてくれた。

――…あったけぇ。

さっきの奴らに触られたときは、
あんなに気持ち悪くて吐き気がしたのに。

白石さんの手は、どうしてこんなにあったかくて優しいんだろう。

「赤也、堪忍な…もっと早く俺が来てたら…」
「!白石さんのせいじゃ、ないッ…!!」

俺が迷惑かけたのに、謝る白石さん。
必死に否定すると、更に強く抱き締められて
優しく頭を撫でられた。

「怖かったやろ…頑張ったな」
「……」
「ほんまに、間に合ってよかった…」
「………っ…」

大好きな白石さんの優しい声に、優しい手に、あったかい体温に
強張ってた体から一気に力が抜けるのを感じた。
その安堵からか、我慢してた涙が目から溢れて止まらなくなった。

「…っ…ひ、っく」
「もう大丈夫やで…俺が守ったる」
「しらいしさっ…白石、さん…っ」
「うん。ちゃんとおるで」

抱き締めてくれる白石さんの服にしがみついて、
何度も白石さんの名前を呼ぶと
白石さんの手に、またぎゅっと力が入った。




白石さんは、俺が泣き止むまで
ずっと抱き締めていてくれた。
それがあったかくて、嬉しくて、幸せだった。

「切原クン、いったん俺の部屋おいで。
ほっぺた冷やさなあかんし…
なんかあったかいもん飲んで落ち着こな」

俺は、白石さんに抱き付いたまま頷いた。


白石さんの部屋に向かう間、白石さんは俺の手を握ってくれた。
こんな状況なのに、すげぇドキドキしてる自分が居て。
つないだ手を離したくないって思った。


「はい。熱いから気ぃつけてな」
「……はい、ッス」

白石さんは、部屋に備え付けられてる紅茶を入れてくれた。
それを飲んでたら、だんだん体があったまって
大分と気持ちが落ち着いてきた。

氷をビニールに入れて、ハンカチでくるんだ白石さんは
それをそっと俺のほっぺたに当てて、冷やしてくれる。

「痛い?」
「…大丈夫ッス」

そう言うと白石さんは安心したように笑って、
タオルを離してほっぺたを撫でてくれた。
それがすげぇ、ドキドキして。
触れられてこんなにドキドキするのは、白石さんだけ。
白石さんじゃなきゃ、駄目なんだ。
そう痛いほど感じた。

――…自分の気持ちと、向き合いんしゃい。

仁王先輩の声が、頭をよぎる。
そうだ…俺はとっくに白石さんのことが好きだった。
隠そうとしても、どんなに否定しても
それが変わることはなかったのに。
今まで、逃げ出してた。
嫌われたくなくて、拒否されるのが怖くて。


「……白石、さん…」

だけど、今言いたい。

「ん?どないしたん、切原クン」

大好きですって、伝えたい。


ゆっくり顔を上げると、優しく微笑む白石さんと目が合った。
心臓が、白石さんに聞こえてしまうんじゃねぇかと思うくらい
バクバクとうるさく音を立ててる。
顔に熱が集中していくのが、自分でも分かる。

「切原クン?」

心配そうに覗き込んでくる白石さんの綺麗な目に
吸い込まれそうになって。

「…お、俺…っ」
「うん?」



「…白石さんのことっ……す、好き…です…っ」



声が震えて、それが精一杯だった。
顔がすっげぇ熱くて、返事を聞くのが怖くて。
白石さんの顔を見ることが出来ずに、
うつむいて目をぎゅっと閉じた。
膝の上で固く握った手も、震えてた。

「……」

――…白石さん、困ってるだろうな。

白石さんが無言になってしまって、
自分で言おうと決めたことのはずなのに後悔した。
言わなきゃ、今のままの関係で居られたのに。
もう、頭を撫でてくれないかもしれない。
もう、優しく笑いかけてくれないかもしれない。
そう考えたら悲しくて、また泣きそうになった。
ごめんなさい、と口を開こうとしたとき。



「……赤也」
「っ!!」

白石さんに優しく腕を引かれ、抱き締められた。

「赤也…」
「し…白石さ、ん」

驚きで、頭が上手く働かない。
白石さんに抱き締められてる…なん、で?


「…先に、言われてしもたな」
「……え…」

白石さんは少し体を離し、俺の目を真っ直ぐ見て言った。



「俺も、赤也が好き」



――今…なんて?
頭が真っ白になって、言葉が出ない。
俺が呆然としてると白石さんは、真剣な目で続けた。

「好きや…赤也。ずっと、好きやった」
「………!」

好きって、誰が、誰を?

――白石さんが、俺を…?


そんなことあるわけないって頭の中で否定しようとしたけど、
白石さんの真剣な目を見ていると、それが出来ない。
顔が、熱くなっていくのが分かった。

白石さんは、また俺を抱き寄せて
俺の顔を白石さんの胸に埋めた。


「いっつも白石さんゆうて笑う赤也が…めっちゃ可愛くてな」
「……」
「せやけど、こんなん言うたら
赤也が困ってまう思ったから…言わへんつもりやった」
「………」
「けど、さっき赤也が他の奴に触られとるん見たとき
めっちゃ腹立って、頭に血のぼってしもて」
「…しらいし、さん」
「俺以外の奴に、赤也のこと触られんの…嫌やねん」
「………!」

白石さんの真剣な声に、冗談ではないんだと感じた。

「ほ、ほん…と、に?」
「うん…ほんまや」

そう言って優しくほっぺたを撫でてくれる白石さんの顔は
少しだけ、赤かった。

「赤也…もう、絶対にひとりで怖い思いさせへんから」
「……」
「せやから…俺の側、おってや…」
「………っ」


白石さんの言葉に、心があったかくなる。
すぐ側から聞こえる優しい声が、全部包んでくれるみたいで。

嬉しくて、嬉しくて。また涙が出た。

それを指ですくって、白石さんは俺の目尻に
そっとキスをした。


「す、きっ…好き、白石さ…っ」
「うん…俺も、好きやで」

思わずぎゅっと抱き付くと、白石さんも
抱き締め返してくれた。

――こんな幸せな気持ち、生まれて初めてだ…。

心地良い白石さんの体温に、しばらく身を任せた。


「白石さん…」
「ん…なに、赤也」
「さっきは助けに来てくれて…ありがとう、ございました。
白石さんが来てくれなかったら、俺…っ」

さっきの場面を思い出して、目をぎゅっとつむった。

「赤也、思い出さんでええ…全部、忘れてええから。
俺が、赤也のこと好きって言うたことだけ、覚えといて」

そう言う白石さんに、また髪を撫でられた。
心があったかい気持ちで、いっぱいになる。

顔を上げると、優しく微笑む白石さんと目が合った。
恥ずかしくなって逸らそうとしたけど、
綺麗な優しい目にみとれてしまって、逸らせなかった。
心臓は、さっきからずっとうるさく鳴ってる。
顔も、きっと自分でも分かるくらい赤いと思う。


「…赤也。目、つむって」

ほっぺたを両方からそっと包まれる。
白石さんの顔が近くて、ドキドキが早くなった。

「赤也…めっちゃ好き」

そう言ってゆっくり近づく白石さんの顔に、
思わずぎゅっと目を閉じた。

…ちゅ。

唇に、柔らかいものが触れる。
すごく、あったかかった。

心臓が飛び出しそうなくらいドキドキして、
緊張で少し体が震えたけど、白石さんが抱き締めてくれた。


最後にもう一度ちゅ、と音を立てて、唇が離れる。
白石さんの顔を見るのが恥ずかしくて、
またぎゅっと抱き付いて顔を埋めた。

「……可愛ええ」

白石さんは、ずっと俺のこと
優しく抱き締めてくれてた。



――自分の気持ちと、向き合う。

それがこんなにも大切で、幸せなものだった。

大好きな人が、自分のことを大好きだと言ってくれる。
目の前のあたたかい体温も、優しい声も、大きな手も
こんなにも、自分に幸せをくれる。

――ありがとう。

心地良い白石さんの体に身を任せて、目を閉じた。






おわり


*******


お、終わりました…!(え)

まほさんのリクエストで、白赤の告白話でした。
無駄に妄想が広がりまくり、長くなってしまいました。
すみません。

赤也と白石さん、どっちから告白させようか迷ったんですが
赤也からにしました。
一生懸命、すきって伝える赤也が可愛くて(笑)

そして今回の恋のキューピットは
ブンちゃんと仁王くんでした。
このふたりは、赤也のことすごく大切で
白石にとられるのは悔しいし寂しいけど、
やっぱり悩んでる赤也をほっとけない。
そんな優しい先輩だと思います。(何)

告白ネタ、ずっと書きたいと思ってたんです!

今回はずっと赤也視点で書きましたが、
近々、白石視点も更新しようと思います。

まほさん、いかがでしたでしょうか…;
少しでもご希望に沿えていたら嬉しいです。

本当に、素敵なリクエスト
ありがとうございました!!
長くなってしまって申し訳ないです。

読んでくださった方々も、ありがとうございます♪

これからもうちの白石さんと赤也を
よろしくお願いします。

2012.03.27

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