大阪、すっきやねん!




※四天宝寺×赤也です。


*******



「うわー…ここが、四天宝寺かぁ」

立海大付属2年、切原赤也は
休みを利用して大阪に来ていた。
憧れの人でありとても尊敬している
四天宝寺の白石から、誘いを受けたからである。

『今度の日曜日、うちの学校で文化祭があるんやけど
暇やったら遊びに来ぇへん?』

大好きな白石さんからのお誘い。
ちょうど部活がオフの日と重なっていたことに
赤也は思わずガッツポーズをして喜んだ。
それにしても、すごい人だな…。
正門の前で、赤也がキョロキョロしていると。

「切原クン!」

人混みをかき分けて、白石が出てきた。

「あ、白石さん!」
「駅まで迎えに行かれへんで堪忍な。
いろいろ準備せなあかんかってん」
「全然大丈夫ッスよ!道、分かりやすかったし」

憧れの白石と久しぶりに会えて、
赤也はにこにこと嬉しそうに笑った。

「…ん。ほな、行こか」
「はいッス!」

白石は、自分に向けられたその愛らしい笑顔につられ、
赤也の頭を優しく撫でた。




「うわー、すげぇ」
「派手好きな奴ばっかりやからな四天宝寺は」

正門をくぐったすぐのところで
漫才師の格好をした見ず知らずの人たちにいきなりボケられ、
白石がすかさずツッコミを入れるのを見て
赤也は楽しそうに笑った。
正門から校舎まで歩くだけでも、いろんな屋台が出ており
看板や飾り付けなども、これでもかというくらい派手だ。

「白石さんも、何か店出すんですか?」
「俺は、テニス部のレギュラーみんなで
喫茶店してんねん。見に行く?」
「はい!」




「おー!切原やん!!久しぶりやなぁ」
「久しぶりやね。元気してたと?」
「…東京からはるばると、よぉ来てくれはった」
「いやん切原きゅんやあん☆可愛い〜〜」
「小春、浮気か!死なすど!」
「先輩ら、キモいッスわ…」
「切原〜!見て見て、ワイの衣装〜っ」

教室に入った瞬間、赤也を囲みはしゃぐ
四天宝寺テニス部レギュラーたち。
テニス部は自主的にお笑い喫茶というものを開いているらしい。

「お前ら、そんないっぺんに喋ってもあかんて。
切原クンは聖徳太子ちゃうで」
「ぎゃはは!聖徳太子切原〜!」

呆れたように言う白石に、テンションの高すぎる金太郎。
そんな様子を見て、赤也は吹き出した。

「あははッ!」
「お、ウケたウケた〜。掴みはバッチリやな」
「よっしゃあ!今日1日、死ぬほど切原のこと笑かして
一生の思い出作ったるでー!」
「まかしときぃー!」

赤也に会えて、嬉しそうにはしゃぐレギュラーたち。
みんな、赤也に会えるのを楽しみにしていたのだ。
U-17の合宿ですっかり赤也のことを気に入った四天宝寺組は
久しぶりの赤也との再会に喜んだ。


「切原クン、どっか回りたいとこある?」
「えっと…全部面白そうだなって」
「ほな、順番に案内するから行こか」
「はいッス!」
「ワイも行く〜っ!」
「俺も俺もー」
「アタチもぉ〜ん☆」
「あっ、小春!浮気か!?」

「「「よっしゃ、ほな行こか〜〜」」」
「…ちょい待ちや先輩ら」

赤也を取り巻き教室から出ていこうとする3年と金太郎に、
財前が声をかけ呼び止めた。

「アンタら出て行ったら、喫茶店どないすんねん」
「「「………」」」

「財前、ひとりでがんば」
「しばくぞ」


さっきまではしゃいでいたレギュラーたちは、
がっくりと肩をおとした。
財前の言う通り、みんなで出て行ってしまえば
店をほったらかすことになってしまう。

「ほな、順番に休憩時間を割り振って
その時間に切原クンのこと案内しよか」
「おー!賛成〜」
「さっすが白石やなぁ」
「切原クン、それでええ?」
「はいっ!けど…ほんとにいいんすか?
せっかくの休憩時間なのに」
「ええねんええねん。コイツらみんな、
切原クンと会えるん楽しみにしとってんから」

そう言って、白石はにっこり笑った。
こんなに歓迎されてるのがなんだかくすぐったくて、
でも嬉しくて。赤也も照れたように笑い返した。





11:00

「よっしゃ、最初は俺や!行こか切原」
「はいッス!」

最初の案内係は、忍足謙也になったようだ。
忍足は、合宿のときに赤也とかなり仲良くなった。
初対面の人間には警戒心を出す癖のある赤也だが、
気さくで親しみやすい忍足にはすぐになついた。
忍足の方も、ノリがよくて元気な赤也のことを気に入っていた。

「どこがええ?」
「ん〜そうッスねぇ」

赤也はパンフレットを手に、キョロキョロと辺りを見渡すが
どれも楽しそうで迷っているようだ。
…と、そのとき。

「おー忍足やん!」
「木村やん。何しとるん」
「いやあ、呼び込みしとんねん。
俺らの教室来ぇへん?おもろいで」

忍足の友人だと思われる生徒が、勧誘してきた。

「お前んとこ何やったっけ?」
「それは来てのお楽しみや」
「やて。切原、どないする?」
「面白そうだし、行きたい!」
「よっしゃ。ほな行こか」



「……」
「………なあ木村、これって」
「お化け屋敷で〜す♪」

連れてこられたのは、お化け屋敷だった。
忍足と赤也の背中に冷や汗がつたう。

――む、無理いいいいい。

忍足のヘタレはもはやトレードマークと言っても過言ではないし
赤也も幽霊の類いは大の苦手だった。

「…やめとこか」
「…そッスね」

ふたりはくるりと向きを変え、立ち去ろうとした。

「なんや忍足〜びびっとんか?」
「はぁ?び、びびびびびびっとるわけないやろ」
「び何回言うねん」

びびってると言われ、引き下がれなくなる忍足。

「ほな、入れるやんなぁ?」
「も、もももももちろんや。当たり前じゃボケ。入るで切原」
「ええぇッ」
「も何回言うねん」

友人の挑発に乗せられてしまい、
忍足と赤也はお化け屋敷に入ることになった。

「2名様、ご案内〜♪」



「は、早く進んでくださいよ忍足さん!」
「やかましいわ!切原が先行けや!」
「無理!忍足さんびびってないって言ったじゃないすか!
俺はびびってるもん!」
「アホ、俺かてびびっとるわ!」

びびってるんかい。
お化け役たちの心のツッコミが聞こえた気がした。
入口から動かないふたりにしびれを切らしたお化け役が、
そっと後ろから赤也の肩を掴む。

「う〜ら〜め〜し〜や〜」
「……」
「…………」


「ひ、ひぎゃあああぁ!!!!」


恐怖とパニックで、隣の忍足に必死でぎゅっと抱きつく赤也。
忍足も一緒になって叫んでいたが、
しばらくして赤也が自分に抱き付いていることに気付く。

――ドキン。

……え?なんや?

ドキドキと心臓がうるさく鳴っている。
幽霊にびびっていたときとは、別のドキドキ。
よく分からない感情に、困惑した。

「………っ」
「あ…」

ぎゅっと忍足の服を掴んで震える赤也は、
座り込んでしまった。

「切原、大丈夫か!?」
「……大丈夫じゃ…ない、ッス」

――ほんまに、お化け苦手やねんな。
俺が挑発に乗ったせいで、怖い目に遭わせてしもた。

「堪忍、切原…立てるか?」

手を差し出そうと、忍足が赤也の顔をのぞきこんだとき。

「…!」

おずおずと顔を上げて忍足を見上げる赤也の表情を見て、
忍足は思わず硬直した。
へにゃ、と眉は下がっていて
瞳には涙が溜まってうるうるしており、
頬は少し赤く染まっている。
そして、上目遣い(体勢のため仕方ない)。


――かっ…かわ、


「って俺は何を考えとんねんんんんん!!!」

お化け屋敷中に忍足の叫びが響き渡った。

「忍足、さん…?」
「!ああ、す、すまん…立てるか?」
「はい…」

赤也は差し出された忍足の手を取り立ち上がった。
しかし、立ち上がったにも関わらず、
赤也は忍足の手を離そうとしない。

「き、きりはら?」
「あの…手ぇつないでても、いい…っすか?」
「…ええぇぇッ!?」

恥ずかしそうに、うつむいて言う赤也。
その姿にまた、心臓が跳ねた。
…あかん、なんやこれ。
思ってへん、切原のこと可愛ええやなんて、思ってへん。

「だ、だめ…ッスよね」
「!」

忍足がひとりで悶々していたら、
赤也は寂しそうに手を離そうとした。
……が。

「…!忍足、さん…」
「だ、誰もあかんとかゆうてへんやん」

忍足は赤也の手を強くぎゅっと握り返した。

「ほら、は、はよこんなとこ出るで」

忍足は赤也の手を引いて歩きだした。
その様子を、ほのぼのと見ていたお化けたちは
赤也をあまり驚かさないように
控えめにおどかしつつ、ふたりを出口まで見守ったのだった。



「はー、やっと外や!長すぎやっちゅーねん、あのお化け屋敷」
「そッスね…けど、途中からお化け
出てこなくなったけどなんでだろ」
「やなぁ。まあその方がよかったけどな」
「うん…俺も」

そう言って、ようやく赤也がほっとしたように笑った。
赤也の笑顔を見て、忍足も安心したようだ。

「ほな気ぃ取り直して次いこか」
「はいッス。あ、あの…忍足、さん」
「ん?なんや」
「えっ、と……手」
「手?」

恥ずかしそうにする赤也の視線を追うと、
つながれたままの忍足と赤也の手。

「っ!す、すまん。堪忍…」
「いや、俺こそ…すんません」

ぱっと手を離し、気まずそうに手を離すふたり。

「けど…」
「ん?なんや?」
「さっきの忍足さん、ちょっとかっこよかったッス」

そう言って、照れたようにヘヘッと笑う赤也を見て
忍足は自分の顔に熱が集中するのを感じた。

「……つ、次行くで」
「?あ、はいっ」

忍足は動揺を悟られないように、パンフレットに目をおとした。

――なんやねん、俺…。

ドキドキしたのはきっと、お化け屋敷のせい。
そう必死に自分に言い聞かせた。





「あ、おかえり〜切原!謙也!」
「楽しかったか?切原はん」
「はい、すげぇ楽しかったッス!」

あのあとふたりでいろんな教室を回って、
テニス部の喫茶店へと帰ってきた。
お化け屋敷を出てからは、目をキラキラさせて
嬉しそうにはしゃぎながら校舎を歩く赤也を
忍足は、ぼーっと見つめていた。
帰ってきてからも、ずっとぼんやりしている。

「そんなわけあらへん…なんでやねん…」

ぶつぶつと独り言をこぼす忍足を、
レギュラーたちは不思議そうに見ていた。

「なあなあ、謙也どないしたん?」
「さあ。ほっときほっとき」

顔を赤くして独り言を続ける忍足に
レギュラーたちが不思議がる中、
白石だけは何かを察したように苦笑いしていた。




12:00

「うっしゃあああ!次、ワイの番!!」
「行こか、切原はん」

次に案内してくれることになったのは、
遠山金太郎と、石田銀。
金太郎だけだと何をするか分からないので
心配した白石が銀に付き添うように頼んだのだ。

「なあなあ切原〜、四天宝寺おもろい!?」
「うん、すっげぇ面白い」
「ほなよかったぁ!なー銀!!」
「ん、せやな」

わーい!と跳び跳ねて喜ぶ金太郎を
赤也は嬉しそうに笑って見ていた。

赤也は、立海の唯一の2年生レギュラーであり、
普段は年上とばかり行動している。
兄弟だって、姉がひとりいるだけで自分は末っ子。
だから年下と関わるのが苦手だった。
しかし、金太郎の裏表のない無邪気な性格と、
合宿で仲良くなってから自分になついてくれる金太郎を
弟みたいで可愛いと思っていた。

「切原〜、どこ行きたいん?」
「んー…なんか屋台で買って食べたい。腹へったし」
「ほな、ワイがええとこ連れてったるー!!」
「あ、おいッ!走んなっつーの!」

金太郎は赤也の腕を取って走り出す。
赤也は文句を言いつつも、嬉しそうだ。
そんなふたりの後を、銀は優しい目で見つめながら追った。

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