君ありて幸福





窓を開けると、冷たい風が病室に入ってきた。
冬というには遅い気もするが、春が来るにはまだ早い。
そんな季節に俺は生まれた。



なぜ寒いのにもかかわらず窓を開けているかというと、
きっともうすぐ会いたい人が病院の門をくぐり
中庭を慌てて駆けてくるからだ。
時刻は夕方の5時すぎ。
夕暮れのオレンジ色の空も、薄暗く影を持ち始める時間。

「ふふ、来た」

予想通り、病院の門をくぐり一目散に中庭を駆けてくる
愛しい恋人の姿を見つけた。
途中ですれ違う看護師に走らないでください、と注意され
少しスピードを緩めるも、やはり早足で歩いている。

俺は窓を閉め、ベッドに腰かけて
病室の扉が開くのを待った。

コンコン

もう来たのか、思ったより早いな。
あまりに病室まで来るのが早いものだから、
笑いそうになるのをこらえて返事をした。

「どうぞ」

ガチャッ

「幸村ぶちょー!!」

俺の返事とほぼ同時に扉が開き、
愛しい恋人が部屋に飛び込んできた。

「赤也、ずいぶん早かったね」
「はいッス!真田副部長が、今日だけは特別に
俺に先に行ってていいって!」

にこにこと嬉しそうに話す赤也につられ、頬が緩むのを感じる。

「幸村部長、お誕生日おめでとうございます!」
「ふふ、ありがとう赤也」

誕生日である俺本人よりも嬉しそうな赤也。
赤也はいつだって、まるで自分のことのように
精いっぱい祝ってくれる。
誕生日も、俺の手術が成功したときも。

「俺、部長にプレゼントあるんッスよ!はい!」

そう言って、赤也は俺に小さな紙袋を差し出した。

「ありがとう、嬉しいよ。開けてもいいかな?」
「どうぞッス!」

紙袋から中身を取り出すと、綺麗にラッピングされた
可愛らしい濃いピンク色の花が出てきた。

「これ、ゼラニウムだね」
「うわーさすがッスね。知ってるんスか?」
「うん…とても好きな花だよ」

そう言って笑いかけると、本当に嬉しそうに赤也は笑った。

「俺、花屋の人にいろいろ聞いたんッス!
この花は、窓辺に置くのがいいって!
悪いもんを追い払ってくれるんだって」

花のことには全く詳しくない赤也だから、
きっといろいろ店の人に聞いて選んでくれたんだろう。
そんな微笑ましい光景を想像して笑みがこぼれた。

「ねえ赤也、どうしてたくさんの花の中から
この花を選んでくれたんだい?」
「えっ?え…と、それは」

何気ない質問だったんだけど、
急に顔を赤くし、そわそわし始める赤也。

「赤也?」
「……店の人がっ」

赤也は恥ずかしそうに俺から目を逸らし、
真っ赤な顔で言った。

「店の人が、この花の花言葉は、愛情だって…言ったから」

そう言ってうつむいてしまった赤也に、
何にも変えられないような愛しさが募った。

「赤也…こっちにおいで」

自分の隣をぽんぽんと叩いて座ることを促すと、
赤也は素直に俺の隣に腰を下ろした。
そんな赤也が可愛くて、そっと抱き締める。

「ありがとう赤也…窓辺に飾って、大切にするよ」

そう言うと赤也は照れたように笑い、嬉しそうに頷いた。

「ねえ赤也」
「何ッスか?」
「この花の、もうひとつの花言葉、知ってる?」
「もうひとつ?」
「そ、もうひとつ」

知らない、という風にふるふると首を横に振る赤也。

「もうひとつはね、『君ありて幸福』だよ」
「君ありて…こうふく?」
「赤也が居てくれるから、俺は幸せなんだよってこと」
「…!」

ちゅ、と額に口付けてそう言えば、
赤也は耳まで真っ赤になってしまった。

「好きだよ、赤也」
「精市…さん」

目が合って、そのまま吸い寄せられるように
ゆっくりと唇を重ねた。

「おれ、も…」

唇を離すと、赤也は俺の目を真っ直ぐ見て言った。

「俺も…精市さんが居るから、幸せッス」

そう言ってふわりと笑う赤也に一瞬、釘付けになって。
もう一度、唇を重ねた。



赤也には言わなかったけれど、この花には
3つ目の花言葉があるんだ。

『決意』――そう、今の俺に必要なこと。

必ず、体を治してみんなの元へ帰るから。

だから…待っていてほしい。


「精市さん」
「なんだい?赤也」
「…大好きッス」


愛しい君の元へ、必ず元気になって帰るから。


「俺も、大好きだよ…赤也」




Happy birthday !



◎おまけ

「おい…どうするよあの雰囲気」
「入るに入れませんね」
「いーじゃん入っちゃおうぜ!
幸村くん誕生日おめでとーつってさ」
「今入って2人の時間の邪魔をすれば、
精市に睨み殺される確率100%」
「赤也、可愛ええのう」
「全く…たるんどるッ!」



おわり


*******


ちょっと遅いけど、幸村さんお誕生日
おめでとうございます!

幸赤は、赤也受けでいちばん最初に
好きになったCPなんです。
魔王様な幸村部長も素敵ですが、
こんな感じの優しい幸赤がわたしは大好きです。

立海いいですよね。
先輩たちはみんな、赤也が可愛くて仕方ないと思う。

花言葉、一生懸命調べました(笑)
『愛情』『君ありて幸福』『決意』
この3つを見たとき、なんか幸赤にぴったりだと思って選びました。
特に、『君ありて幸福』っていいですよね。
幸村さん、ほんとにおめでとうございます!

2012.03.19

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