せんせい、だーいすき!




※ 赤也が幼稚園の先生。
※ 幸村、跡部、白石が幼稚園児です。


*******




「きりはらてんてぇー!」


――ここは、とある幼稚園の昼下がり。お昼寝の時間。


ようやくほとんどの園児たちが、あたたかい部屋の中で
すやすやと眠りについたところだった。
ひとりの園児が、慌てた様子でてちてちと駆け寄ってきた。

「ん、どうしたー?眠れねぇのか?」


自分の元へとたどりついた園児の頭を
よしよしと撫でるのは、切原赤也。
去年からここの幼稚園で働いている、新人の先生だ。
明るく面倒見の良い人柄で、園児たちから大人気らしい。

赤也がにこりと笑いかけると、その園児は
困ったようにふるふると首を横に振った。

「3にんが、またけんかしてるのー」
「……あー」

3人、と言われて心当たりのある赤也は、
やれやれといった様子で立ち上がった。
実は赤也がこの幼稚園に来てからというもの、
喧嘩の絶えない3人の園児がいるのだ。





「おいてめえら、あまりちょうしにのんてんじゃねえぞ。
きりはらはおれさまのものだっつってんだろうが、あーん?」

「ふふ。なにいってるんだいあとべ。おれがおとなになったら
あかやをおよめさんにするんだよ。ひっこんでろよ」

「ふたりとも、なにかってなことゆうてるねん。
だれとけっこんするかは、きりはらくんがきめるんやで」


ぎゃーぎゃー騒ぐ声の方へと赤也が向かうと、
やはりいつもの3人がバチバチと火花を散らして睨み合っていた。
赤也は、はぁ…と溜息を吐いてから3人へと近づいた。

「こら!ケンカは駄目だっていつも言ってんだろー!」
「「「あっせんせい!!」」」

赤也に気付いた3人は、同時にたたたっと赤也の元へ走り寄った。

「おいきりはら、おれさまとあそびやがれ」
「あかや、おれにえほんよんで?」
「きりはらくん、つみきしようやー」

同時にそう言った3人は、またキッと睨み合った。

「おれがいちばんさきにいったよね?あかや」
「なにゆうてんねん、おれやろ」
「おれさまにきまってんだろーが」
「あーこらこら、ケンカすんなっての!」

赤也が慌てて3人の間に入ると、3人は不満そうに
互いの顔をぷいっと背けた。


「なんでお前らはそうケンカばっかなんだよ」
「うるせえ。こいつらがしょみんのくせになまいきなんだよ」
「こら、ダメだろそんなこと言っちゃ」

――跡部景吾(ばら組さん)。
有名な跡部財閥の一人息子でお坊ちゃんであるため、
他の先生からは特別扱いされたり気を遣われたりしていたが、
赤也だけは他の園児たちとまったく変わらない態度で
接してきたことに興味を持ってからというもの、
何かと赤也につっかかってくる。


「あかや、このおはなあげる」
「お、さんきゅ!いいのか?俺がもらって」
「うん。あかやにだけあげるの」

――幸村精市(すずらん組さん)。
にっこりと笑う姿はまるで天使のようであるが、
見た目に反して時々放たれる真っ黒なオーラは
大人たちさえもひれ伏させてしまうという噂がある。
赤也と初めて出会った頃から赤也のことを気に入っている。
独占欲が人一倍強い。


「...おれ、もうけんかするの、やめるわ。
きりはらくんがこまってしまうさかい」
「おっ、蔵ノ介はいい子だなー!よしよし」
「へへ。せやから、こんどのどようび、おれとでーとしてや」

――白石蔵ノ介(ゆり組さん)。
本当に幼稚園児か?と疑いたくなる程、大人顔負けの
落ち着いた雰囲気をまとう優等生である。
しかし赤也の事になると、喧嘩したりムキになったりと
年齢相応の微笑ましい部分も見せるようになった。
キザな台詞でいつも赤也を口説いている。


「おい、しらいし、いいこぶってんじゃねーぞ、あーん?」
「いいこぶってへん!きりはらくんこまらせたら、あかんもん」
「ならおまえは、あっちでおとなしくねてやがれ」
「いやや。きりはらくんとおはなしするねん」
「きりはらとはなすのは、このおれさまだ」
「あかや、どうしてしらいしだけ、よしよしするの?
おれにもしてよ、しらいしだけずるいよ」
「あーはいはい!分かったから落ち着けお前ら」

依然としてぎゃあぎゃあ騒ぐ3人を宥めようとするが、
赤也をめぐるバトルはいっそう激しくなっているようだ。

「あかやは、さんにんのなかで、だれがすき?」
「え?」
「せやせや。このさいはっきりきめてや、きりはらくん」
「おれさまにきまってんだよ、なあきりはら」
「...はぁ」


――ったく。
なんつーおバカな争いしてんだ。

やれやれと溜息を吐いた赤也だったが、
真剣な眼差しでじっと自分を見つめる3人を前にして
適当に答えるわけにもいかなそうだ。


「あかや、おれだよね...?」

しばらく黙っていた赤也を見て不安になった幸村が、
ぎゅっと服の裾を掴んできた。
他の2人も、赤也の言葉を待って黙ってはいるものの、
不安そうにそわそわと落ち着きがない。

そんな可愛らしい3人を見て吹き出しそうになるのを我慢し、
赤也はようやく口を開いた。


「...そうだな、俺は精市のこと大好きだ」
「ほんとっ!?」

赤也が答えると、パッと花が咲いたような満面の笑顔で
幸村が赤也に飛びついた。
嬉しそうに、頭をぐりぐりと赤也の胸に押しつける。

跡部と白石はというと、いつもなら「赤也から離れろ」と
喧嘩を始めそうなものだが、あまりのショックに
固まってしまったようだ。


――幸村のことを、好きだと言った。

――赤也が好きなのは、俺じゃない。

目の前で赤也に抱きついて甘える幸村を見て、
最初に我慢出来なくなったのは、白石だった。


「...ぐすっ」

悲しくて悲しくて、涙がこぼれる。

恐らく、幼稚園に入園してから、白石が涙を見せるのは
これが初めてのことだった。
他の子におもちゃを取られても、転んで怪我をしても
泣くことなくいつもニコニコしている白石だったが、
大好きな赤也の1番が自分でないという事実に、
なんだかとっても悲しくなったのだ。


「...うっ...ひっく」

涙を止めようと、ゴシゴシと目をこする白石を見て
幸村は、ちょっとだけ可哀想だと思った。
跡部も白石も恋のライバルであることに違いはないが、
赤也を好きな気持ちは痛いほど分かったからだ。


白石を見て、しゅんとしてしまった幸村。
一生懸命、涙を止めようとする白石だったが、
出てしまった涙を止めるのは、幼稚園児には難しい。

――と、そのとき。


「...ばーか」


ふわり。


泣きじゃくる白石を、暖かいものが包み込んだ。

目をこする手を止めて、おそるおそる見上げると、
大好きな赤也の顔が近くにあって。
ようやく、赤也に抱き締められていることに気づいた。


「きりはら...くん」
「ほんと、バカだなぁお前らは」

そう言って優しく笑いながら、ハンカチで涙をふいてやる。

「俺は、お前ら3人とも大好きだ。
精市も蔵ノ介も景吾も、みんな大好きだっての」
「あかや...」
「きりはらくん...」

あやすように抱き締めながら、赤也は続ける。

「喧嘩はしてほしくねーけど、いっつも俺のことで
わいわい騒いでるお前らが可愛くてしょーがねーの。
俺が好きなのは、1人だけじゃなきゃダメか?」


赤也の言葉を聞いて、チラッと顔を見合わせる幸村と白石。
しばらく無言で見つめあったが、抱き締めてくれる赤也の手が
とても優しくて、なんだか今は、これでいいやと思えた。

「...あかやがいうなら、それでいいけど」
「......おれも」

小さな声でポツリと言った2人を見て、思わず笑みがこぼれた。

「よしっ、2人ともいい子だな!」

2人の頭を撫でてやると、心地よさそうに目を細める。
大好きな赤也に褒められて、ようやく機嫌を良くしたようだ。



――そして、もう1人はというと...。


「ほらー、景吾はさっきからそんなとこで
なに1人で突っ立ってるんだー?こっちおいで」
「......」
「ったくこの意地っ張りが!」
「うわっ...」


幸村と白石の体をそっと離して、1人だけ少し離れたところで
プイッとそっぽを向いていた跡部をひょいと抱き上げる。

「景吾、まーだ怒ってんのか?」
「ふん...」
「そっかぁ。景吾はいい子に出来ねーのかな?」
「!」

そう言って体を離そうとすると、慌てたように
ぎゅっとしがみつかれる。

「どした?いい子にしねーんなら、あっち行っちゃうぞ?」
「...っ」

クスクス笑う赤也を、断固として離さない跡部。
しばらく俯いて黙っていた跡部を見て、やれやれと
赤也が抱き締めてやろうとした、そのとき。



――ちゅっ。



「あ...えっ!?」

赤也の隙をついた跡部が、ほっぺたにキスをしてきた。
びっくりする赤也を見て満足げに笑う跡部。


「きょうのところは、これでかんべんしてやる。
だがおれは、いつかかならずきりはらに、
おれのことだけすきといわせてやるぜ」


――やられた。
跡部の俺様主義を少々舐めていたようだ。

やれやれと思うのも束の間、ハッと我に返った赤也は
背中の2人から物凄い気迫を感じた。


「あとべくん...なにしてくれとんねん」
「あとべ、ころす」

ゴゴゴゴ、と効果音がつきそうなほど
真っ黒なオーラを放つ2人に、苦笑。
やっと宥めたかと思えばまたこれである。


「なんなのあとべ!ひとりだけ、ぬげがけなんかして」
「せやせや、きりはらくんが、こまっとるやん!」
「うるせぇ。おれさまは、おまえらしょみんどもに
きりはらをわたすつもりはねーんだよ」
「なんやて!そんなん、おれかていっしょや!」
「あかやはおれのだ、おまえら、ごかんうばってやるっ」
「のぞむところだ、あーん?」
「あーもう、頼むからお前ら寝ろー!!」





――30分後。


「はぁ...やっと寝たか」

あの後も、しばらくぎゃあぎゃあと喧嘩をしていたが、
騒ぎ疲れて寝てしまうところは、幼稚園児らしいと赤也は思った。

「ったく...お前ら、寝てたら天使みてーなのにな」

そう言って苦笑しながら、仲良く並んで寝る3人に
そっと布団をかけてやる。
3人とも、大変綺麗な整った顔をしている。
寝顔は天使そのものであった。


「...んー...あかや」
「きりはら...くん」
「......きりはら...むにゃ」

寝言で自分の名前を呼ぶ3人。
息が合うんだか、合わないんだか。


「ま、でも...」

サラッ、と3人の前髪をかき分けてやる。


「毎日、そんなお前らに会うのが
楽しみで楽しみで仕方ねーんだけどな、」


――そう。

どんなに仕事が大変でも、
どんなに疲れていても。
自分のことをこんなにも大好きと言ってくれる
お前たちに会うのがしあわせで。


「大好きだ」


起きたらまた仲良く喧嘩をしだす3人を想像して笑いながら、
しばらくその可愛くて天使のような寝顔を眺めていた。




おわり


*******


3年ぶりの小説です。
今回は赤也自身よりも、赤也のことが好きで好きで
たまらない部長たちを書きました*

赤也って、基本的には年上から可愛がられるけど、
意外とちっちゃい子の面倒見とか良さそう。

そして、幼稚園児の幸村部長、跡部様、白石さんに
ひらがなで喋らせたかっただけ。笑


読んでいただき、ありがとうございました。
ご意見、感想などメールいただけると
とても嬉しいです。


2016.1.3


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テーマ「人外ファンタジー」
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