はじめての気持ち―白石side



先に、赤也sideの方を読んだ方が
話が分かりやすいと思います。



*******



「生意気」「態度が悪い」
「プレイスタイルが冷徹―…」

立海に、そんな2年生がおるらしい。
切原赤也のことは、噂だけ耳にしたことがあった。
相当な問題児で、その冷徹なプレイスタイルからついたあだ名は
「コートを赤く染める悪魔」――と。





U-17の合宿所。
初めて切原赤也を見かけたのは、食堂やった。

「おい小春、あそこにおるワカメ頭のやつ、
立海の切原赤也とちゃうか?」
「ユウくん、ほんまにあの子なぁん?
全然想像とちゃうや〜ん。いやんめっちゃ可愛ええ!
ウチのタイプやわぁ〜〜ロックオン☆」
「小春浮気か!死なすど!」

飯食ってたら、ユウジと小春がぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた。
何気なく2人の視線の先に目をやる。
ワカメ頭って…ああ、あの子か。

向こうの方のテーブルに、髪の赤い派手なやつと一緒に
切原赤也と呼ばれるやつがおった。

――なんや、全然普通そうな子やん。

隣の赤髪のやつに頭をぐしゃぐしゃ撫でられて、
文句を言いながらも楽しそうに飯を食う少年。

噂からして、どんなやばい奴なんやろと思ってたけど
明るそうな、人なつっこそうな子やん。
それが第一印象やった。



それからしばらくして、俺ら中学生50人は
半分まで数を絞られ、負けたやつは帰宅という
かなり厳しいルールの元で、俺は勝ち残った。
ここまで一緒にやってきた謙也たちを見送るのは心が痛んだけど
勝ったモン勝ち。いつだってそれがルールやった俺らは、
帰宅組のみんなの分まで全力で頑張ろう思った。


帰宅組が帰ることが決まった日、
俺はある男に呼び出された。
――立海の三強のひとり、柳蓮二。

彼の話は、切原赤也のことやった。

「赤也の悪魔化を止めてほしい。
どうか赤也を救ってやってくれないか」

柳は、詳しく全て話終わると、1度深く頭を下げて
去って行った。

いきなり託された役目。

無理やろ…
最初は、そう思った。



1日の練習メニューが終わり、それぞれが
数少ない自由時間を好きに過ごしていた。

「白石ー!飯食いに行こやー!」
金ちゃんが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら来た。
「ん、行こか。………あ」
「どないしたん?」

何気なく窓の外を見ると、すっかり暗くなっている。
その中で誰かが動いているのが分かった。

「あれ…切原クンやん」

そこには、合宿所の裏で一人で練習する切原クンがおった。
どこか思い詰めたような表情で…。

「なんやあいつ、飯くらい食うたらええのになぁ」
「……」
「白石ー?」
「え?おん、行こか金ちゃん」



「ぷはぁー!めっちゃうまい!まだワイ食えるわぁ!」

そう言って金ちゃんは隣の千歳の唐揚げに箸を刺した。

「金ちゃん!それ俺のばい」
「えー」

いつも通り騒ぐ金ちゃんたちと一緒に飯を食ってても、
なぜか俺の頭からはさっきの切原クンの表情が離れんかった。
思い詰めたような、何かと戦っているような…。

「白石どないしたん?ぼーっとして」
「いや、なんでもあらへん。
悪い、ちょっとコートに忘れもんしたから取りに行くわ」

どうしても気になり、早足で切原クンがおった
合宿所の裏の広場に向かった。


「…もうおらんか」

広場を見渡すと、人影はなかった。
さっきから1時間近く経ってるから、当然か。
引き返そうとしたとき、視界の端で何かが動いた。

「…あ、」

ベンチの上には、切原クンが横になって眠っている。
おそらく少し休憩しようとしたつもりが
そのまま眠ってしもたんやろな。

「切原クン、」
風邪ひかんように起こそうと近寄って、思わず手を止めた。
あどけない顔ですやすやと眠る切原クンは、
いつもの強気な表情と違い、柔らかいものだった。


「……可愛ええ、な」


言ってから、はっとした。

何をゆうとんねん俺は。男やっちゅーねん。
それでもその寝顔から目を離せなかった。
もう少し見ていたいと思い、自分の上着をかけてやる。

「……ん…」

思わず髪を撫でると、気持ちよさそうに手にすりよってきた。
あかん、俺どないしてん…男相手に何考えてんねん。
可愛ええやなんて――。

はよ起こさな…。
我に返り、体を揺すって切原クンを起こそうとしたとき。


「赤也?」

後ろから声がして驚いて振り返ると、
立海の赤髪のやつが立ってた。
丸井ブン太か。

「あれ、四天宝寺の白石じゃん。何してんだ?」
「切原クンが寝てたから、起こそうと思ってな」
「そか。赤也…まだ練習してたのかよ」
「みたいやな」

丸井は横たわる切原クンの前にしゃがむと、
切原クンの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「柳に聞いた…白石に、赤也のこと任せたって」
「ああ…うん、まあな」
「わりぃな」
「かまへんけど…なんで俺なん?
勝ち組には、君も幸村クンもおるやん」
「柳が、判断したんだよぃ。
赤也を救える確率が一番高いやつを。
あいつのデータは嘘つかねえから」

少し寂しそうに丸井は笑った。

「…俺らのせいなんだよ。立海の勝利のために、
赤也にすげー無理させちまってた。
こいつ、アホで意地っ張りだからさ、
弱音なんか吐かねぇし、いつも立海のために必死でさ。
王者立海っつー肩書きがこいつを追い詰めちまった」

そう言って丸井は、しばらく黙り込んだ。
けど意を決したように俺の方に向き直り、頭を下げた。


「赤也のこと…よろしく頼む」




それから数日後、3番コートと5番コートの
シャッフルマッチが行われることとなった。
オーダーを見ると、切原クンと俺でダブルスやった。
――まだしゃべったことも無いんやけどなぁ…。

ふと斜め前を見ると、貼り出されたオーダーを見つめる
切原クンがおった。
俺は意を決して赤也くんに近づいた。
…って、意を決して?
話しかけるだけやのに何を緊張しとんねん。


「切原クン」
「わっ」

声をかけると、切原クンは驚いて振り返った。

「切原クンやんな?俺、白石や。
俺らダブルスみたいやからこれからよろしゅうな」
「…どう、も」

少し警戒したように、遠慮がちに見上げてくる。

「試合までそんなに時間ないけど、打ち合わせしよか」
「あ、はいッス」



ある程度の打ち合わせが終わり、
試合の時間まではまだ少しあった。
そろそろあの話、切り出した方がええな。

「せや、切原クン」
「何スか?」
「切原クンのプレイスタイルやけどな…
悪魔化は、せぇへん方がええ」

そう言った瞬間、切原クンの表情が歪んだ。
苦しそうな、悲しそうな表情。

「分かってんだよ…そんなこと」
「切原クン」
「アンタに言われなくても分かってる!
卑怯だって言うんだろ!俺だって分かってるよ!
けどっ…俺はやる!誰かがやんなきゃいけねぇんだよ!
立海の勝利のために!」


溜め込んでいた感情を一気にぶちまけたせいか、
切原クンの体がふらついた。
それを支えてやると、「離せっ」と抵抗された。

「切原クン、大丈夫やから。落ち着き…な」

体を支えながら背中をぽんぽん、とあやすように叩くと、
切原クンは大人しくなった。
けど、体はちょっと震えてた。

それから俺は、悪魔化することが
切原クンの体や精神の負担になることを話した。
切原クンは黙って聞いとった。

「なあ切原クン…テニス好きか?」
「え…」
「どうや?」

きっとこの子は、テニスが好きでしゃあないんや。
せやけど、王者立海という掟に縛られて
自分でもどうしたらええんか分からんのやと思う。


「俺、テニス…好き、です」

途切れ途切れに答える切原クンに
なぜだか愛しさを覚えて、頭を撫でた。

「…ん。ほな、大丈夫や」




高校生と俺たちの試合が始まった。
途中、相手の高校生が嘲笑うかのように
切原クンに放ったひとこと。

「坊や…なんで、ここに居るの?」
「…!」

あかん、相手は心理戦しよる。

「切原クン!聞かんでええ!」

切原クンの様子がおかしくなる。
興奮しているような、パニックになっているような。

「切原クン!」
「うるせぇんだよ――ッ!」

ここで悪魔化させたらあかん。

俺が止めたる、俺が…!


ガッ―!!


切原クンが振り下ろしたラケットを、
俺はとっさに左腕で受け止めた。
腕に鈍い痛みが走る。

その音と感触に、切原クンは
びっくりして我にかえったみたいや。
…よかった。

「…!!ごめっ…なさ」

自分がしたことに気づいたのか、
青い顔で謝る切原クン。

「ええから。切原クン、テニス好きなんやろ?
それやったら、自分自身を苦しめるテニスしたらあかん」


――もうこれ以上、自分を苦しめたらあかん。
そう言うと、切原クンは小さく頷いた。



「ゲームアンドマッチ!白石、切原ペア!」

俺たちは勝った。
切原クンは途中から、楽しそうな顔で試合をしてた。
…せや。切原クンがほんまにしたかったのはこういうテニスやで。

試合が終わり、切原クンに声をかけようとすると、
切原クンはトイレだと言って俺と目も合わさずに
走って行ってしもた。

切原クンが10分以上戻ってけぇへん。
待ってよう思ったけど、心配になって
気づいたら駆け出してた。


トイレも居れへん、ロッカールームも…。

「どこや切原クン……あ、」

もしかして、と思い俺は昨日切原クンが寝てた
合宿所の裏の広場に向かった。


「…おった」

やっぱりここか。
切原クンはベンチに一人で座ってた。
後ろ向いとるから、表情は見えへん。
声をかけようとして、思わず手を止めた。

「…っ、ひ、く」

――泣いてる…?
何度も目をこすり、涙を止めようとしてるみたいやった。
泣いてるとこなんか、見られたくないやろか。
けど、どうしてもほっとかれへんかった。
俺は…力になれるやろか。
この子のために、何ができるやろか。


――赤也のこと、よろしく頼む。

――赤也を、救ってやってくれないか。


切原クンを想う奴らからの言葉が思い出される。

そんなん…言われんでも、やったるわ。


「…こんなとこで何しとんの、切原クン」
「!」

出来るだけ驚かさないように、優しく声をかけた。
振り返った切原クンの目は、
泣いたせいで潤んで赤くなっとった。

「…しらいし、さん」
「手塚クンの試合始まってまうで?」

隣に腰を下ろし、頭を撫でてやると、
切原クンは悲しそうな顔でうつむいた。
しばらく無言が続いて、切原クンはやっと小さい声で呟いた。

「……腕」
「ん?」
「痛かった…ッスよ、ね」

声が震えてた。
切原クンの目にまた涙が溜まっていく。
そうか…俺の腕のこと、気にしてくれとったんやな。

「切原クン」
「……」

切原クンが心配しとるほど大して痛くなかったことを
伝えようと声をかけるけど、うつむいたまま顔を上げへん。
こんなに優しい子の、何が悪魔や。

「切原クン」
「ごめん…なさ、」

もう一度呼びかけると、また声を震わせて謝った。
ぎゅっと閉じた目から涙がこぼれ落ちるのを見た瞬間、
気づいたら、切原クンを抱き締めとった。


「赤也」
「……!」

びっくりして固まってる。そらそうやな。
俺もびっくりしてんねん。
腕の中の切原クンを、愛しいと思ってる自分に。

「俺は全然大丈夫や。ほんまに気にせんでええから」
「けど俺…約束、破った」
「赤也はちゃんと気づいて戻ったやろ?」

めっちゃ偉いやん、と笑いながらまた抱き締めた。
ぎゅっと抱き締め返され、優しく髪を撫でてやる。

…なんやろ、この気持ち。

最初は、ただ柳に任されたから。
ただほっとかれへんから面倒見たろ、って
責任感だけやったのに。
この気持ちは、なんやろ。

「大丈夫やで。焦らんと、ゆっくり頑張ろな。
赤也やったら絶対に出来るから…な」

そう言って切原クンに笑いかけた。
切原クンは一瞬、驚いたような表情見せ、
そして、ふわりと嬉しそうに笑った。

……!
…なんや、あかん。

少し頬を赤く染めながら照れたように笑顔を見せる切原クンに、
俺は自分の心臓が跳ねるのを感じた。


「ほな、手塚クンの応援いこか、一緒に」
「…はい!」

ごまかすようにベンチから立ち上がると、
切原クンも嬉しそうに立ち上がった。


俺が、さっきから心臓がドキドキと
音を立てている理由に気づくのに、
そんなに時間はかからへんかった。





*******


やっと終わりました!
白石さんは、赤也の笑顔で完全に
落ちたんだと思います(笑)

世話焼きの白石さんにとって赤也は、
最初からほっとけない可愛い存在です。

白赤は、お互い初恋だといいなーと思って
このタイトルにしました。
白石さんはモテモテなのでそれなりに女性経験はあるけど、
こんなに誰かを可愛いとか愛しいとか
思うのは初めてだ、みたいな
ベタな設定がすごい好きで萌えます(笑)

赤也も、モテるとは思うんですが
まだ子供なので、花より団子!みたいな
恋愛よりテニス!みたいな感じだったけど、
白石さんに抱いたドキドキに戸惑って
惹かれていくといいです(笑)

読んでくださって、ありがとうございました。

2012.03.19

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