「どうしたんだよ」
「べつに」


なんて端的な会話。つまらない応答。だけど今は楽しくお話ししましょう、そんな気分ではない。できることなら、この教室から早く立ち去ってほしい。


「隣、良い?」


そんな願いも虚しく散ってしまった。良いなんて一言も言っていないのに。ガタッと音をたてて隣に座ったこの人は、同じクラスの、確か、半田真一くん。サッカー部だったような気がする。


「サッカー部、良いの?」
「ああー今日は休み。ていうか俺がサッカー部だって知っててくれたんだ」


ここのサッカー部は有名だから当たり前 と言ったら、半田くんは「そうか」と少しだけおかしそうに笑った。


「それで…誰もいない教室で何してたんだよ?」
「なんにも」
「へ?」
「なんにもしたくなかったから。一人でいたかった。」
「あ…その…ごめん。邪魔して」


急にションボリ、それこそ子犬が耳をたらして悲しんでいるみたいな、そんな顔になった半田くんがなんだか堪らなくおかしい。静寂の中に一人でいたかったはずなのに。そこに突然入ってきた人はあまりにも自然に溶け込んでしまって、真っ白な思考にちょっとだけ色をにじませるように、表情をコロコロ変えていた。わたしは「別に気にしないで」と言って少し笑った。…気付けば最初は太陽に照らされていたこの教室も、次第に赤に彩られ、今ではすっかり黒に侵食され始めていた。


「そろそろ帰ろうか」
「あ、そう、だな。…あのさ」
「なに?」





「ナマエ、聞いても良いですか?」

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