「千羽様、随分大きくなったね」
「ふふ、その言い方だと…まるで私が人間の子供であるかのようだな」
「嫌だった?」
「いや、悪くない」


どうやらツボに入ってしまったのだろうか、ふふ と千羽様は未だに笑っている。千羽様の笑い声が冬の空気を震わせて…実際他の人にはどうなのか分からないけれど、千羽様のそれは確かに私の鼓膜を揺らした。心地よかった。


「そろそろ帰ってはどうだ?寒いだろう」
「寒くなんて、ないよ」
「なまえは強情だな」
「…嫌だ?」


先程と同じように問えば「いや、悪くない」とまた同じように答えが返ってくる。今度は私まで可笑しくなってきて、コエをあげて笑った。


「…今はちゃんと、みんなお参りに来てくれるんだ?奴良くんに感謝しなくちゃ」
「ああ、本当に。それになまえにも感謝している」
「私?私は来たくて来てるだけだから…」
「なら、なまえが変わり者で感謝だな」
「…もう」


冬の空気に太陽がキラキラと反射している気がする。冬の空気だけではなく、千羽様の柔らかそうな髪にも反射している、みたい。「キレイ…」なんて思わず口に出してしまう程。


「千羽様の髪、キレイだね」
「…なまえの髪の方が綺麗だと、私は思う」
「お世辞は良いよ」
「お世辞ではないよ。本当に…触れてみたい」


その時の千羽様の笑い声は今までの柔らかい響きを含んだものじゃなくて、震えた冬の空気と一緒にどこか耳に突き刺さるように届いて、思わず泣いてしまいそうになった。


「なまえ」


それでも決して泣いてはいけない。今ここに、確かに、目の前に、同じ時間に、一緒にいることが、笑ってすごすことが、一滴の涙を流すよりも、遥かに有意義だということを私は知っていた。


「千羽様」





20101216

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