理由なんて簡単で、つまるところ俺は個性が欲しかった。それがこんなもので手に入るのかは定かではないけれど。


友人に眼鏡を借りた。その友人というのは同じ部活の目金欠流。眼鏡を掛けた目金欠流。名前だけでも個性充分なんだから、ちょっと眼鏡借りるぐらい良いだろ? と言ったら目金に、意味が分かりませんよ…まあ良いですけど、早く返して下さいね! と言われたので、持っていた飴を1つ渡して俺は彼女に会いに行った。


眼鏡のイメージって何だろう。真面目・ガリ勉・インテリ…でも一応俺もサッカー部だしスポーツするヤツが眼鏡をかけるなんて、ギャップにときめくってことになるんじゃないか?うん、そうだ。と自分を納得させて気付いた。視界がぼやけて


「きもちわる」


今時はオシャレ眼鏡ってあるしそういうの掛けてるヤツに借りれば良かった、なんて思った時に目金の怒った顔が頭に浮かんできてちょっと笑えた。


「なにやってんの、半田?」
「おお、今会いに行こうとしてたんだよ」


まさにベストタイミング。これ以上歩くのはムリかもしれないと思っていたら彼女が来たんだからラッキーだ。やっぱり個性があると違うんだな、なんて。


「あれ、めがね?」
「目金に借りた」


笑われた。ダジャレじゃないってのに。


「どう?」
「うーん。普通じゃないかな」


そうか、俺の個性のなさは眼鏡だけじゃカバーできないのか。もっと頑張れよ眼鏡。役に立たないな、視界ぐらんぐらんにしてまで俺は頑張ったのに。


「ていうか」
「うん?」
「私の顔、見えてるの?」
「んーあんまり」
「それムカツク」
「え、なんで」
「今私がどんな顔してるか分かんないでしょ?」
「どうせ拗ねてんだろー」


ぼんやりとしか見えてはいないけど、日々一緒にいて頭の中にイメージとして存在している彼女の顔が、頬を膨らませて拗ねていた。「…」なにも返事がないから恐らく正解。


「やっぱりムカツク」


へへっと笑っていたらカシャンという音と共に肌色が近付いた気がした。それが気のせいじゃなくて、それが眼鏡がたてた音で、それが彼女の顔で、俺はキスをされた、ということを理解するまでに少し時間がかかった。


「…え」
「めがねなんて掛けて、なにも見えてないからだよ、バーカ」


今彼女は真っ赤な顔をしているんだろう。それは間違いない。そんな可愛い顔を、ぼやけた視界をクリアにして見たかったけど如何せん俺の顔の方が、絶対、赤い。ムダなのは分かっているけれど、眼鏡で顔が隠れていますように と思った。それにしても…さっきは役に立たないなんて言って、ごめんな。






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20101115
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