私ってなんて嫌な女なんだろう。


最近そんなことを思うようになった。私は風丸が大好きだった。いや、過去形ではなく今も大好きである。大好きな風丸が私のことを好きだと知った時は死んでも良いと思える程に幸せだった。


私の名前を呼んで優しく笑ってくれる彼、サッカーだけではなく私も大切にしてくれる彼。とてもたくさんのものをもらっている。


私ってなんて嫌な女なんだろう。


それだけでは足りなくなってしまった。片想いの頃は見てるだけ、話せるだけ、で幸せだった。でも付き合い始めたら他の女の子と風丸が話すだけ、で黒くもやもやしたものが胸を締め付けてくる。


こんなに素敵な風丸だから、好きになる子は多いだろうし言うなれば私もその1人には違いないのだ。


私ってなんて嫌な女なんだろう。


マネージャーさん達にまで、そんな感情を抱いてしまった時は自分でもビックリした。頑張る彼等を懸命に支えてくれている、のに。


心の中はぐちゃぐちゃで最近は風丸の顔すら見れない。ごめんね風丸、素敵な貴方の彼女がこんなに嫌な女で。


「なまえ」


俯いていても分かる、風丸の声になにかが込み上げて泣いてしまいそうになった。返事をしたいけれど、私の声はそれさえも出来ない。


「一緒に帰ろう」
「…、」
「帰ろう」


いつもと違う、力強い声に思わず顔をあげると、そこにいたのは真剣な顔をした風丸だった。


「う、ん」


正直嫌だった。私がこんなに嫌な女だってことが、なんだか風丸にばれている気がした。


「今日は自転車で来たんだ」
「へ、え」
「後ろ、乗れよ」
「え?」
「良いから、乗って」


私が乗ったことを確認した風丸は地面を軽く蹴って、自転車をこぎ始めた。


「危ないから掴まってろよ」


良いのかな、と思いつつ風丸の制服の裾をそっと掴んだ。自転車なんて久しぶりに乗ったけど、なんだか今だけは心が軽くなるような、そんな気がした。


「なあなまえ。」
「?」
「好きだ」
「え…」


思わず体が揺れた。私は、私は、風丸から好きと言ってもらえるような、そんな女じゃないのに…そう思ったら鼻がツンとした。


「ごめ、なさ…」
「は?」
「ごめん、なさい」
「どうしたんだよ」
「私、嫌な女で、全然、風丸に、好き、って、」
「…なまえ、なんかあったのか?最近変だった理由はそれか?」
「私、あの、」
「なまえ」
「ごめんなさ…」
「謝らなくて良いから、落ち着いたら話してくれ。」


風丸の声になんとか冷静になれた私は、深呼吸を1つして話し始めた。最近風丸と女の子が話すだけでもやもやして胸が苦しくなること、前よりもたくさん望んでしまうこと、そのせいで風丸とも少し距離を置いてしまったこと。風丸は「うんうん」と相槌をうって話を聞いてくれた。全てを話し終えた頃には、景色が夜の色に染まり始める頃だった。


「なまえ、俺今すごくお前にキスしたい」
「え、ええ!風丸、話聞いてなかったの?」
「聞いてたよ、だからすごくキスしたい。自転車じゃなかったらキスしてた」
「あ、あの」
「それってヤキモチ、だよな。俺のことがすごくすごく好きだ、って言われてるみたいで嬉しい」
「嫌、じゃないの?」
「嫌じゃない」
「嫌いにならない?」
「ならない」
「本当に?」
「嘘なんかつかない」


風丸ってすごい。黒くてもやもやして、なかなか私の胸からなくならないこの感覚を、あっという間に取り除いてくれた。


「ごめんなさい」
「それは、何に対してだ?」
「距離を置いたりして、ごめんなさい」
「うん、宜しい」
「へへ」
「でも寂しかったんだよなー」
「?」
「俺避けられてたしさ」
「あ、その、だから」
「だから、これから今までの分キスさせてくれたら、許すことにするよ」




に溶ける路






(20100824)
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