「円堂くん」


私の出した声は、思いの外小さいもので、昨日の夜に散々練習したじゃないかと自分の心を奮い立たせる。


「どうしたーみょうじ?」
「円堂くんはさ、秋ちゃんとか夏未ちゃんのこと、その…」
「ん?」
「名前で…呼んでるよね」


こんなこといきなり言ったら驚くだろうな、円堂くん…。


「ああー、まあな」
「な、何で?」
「何で?うーん。特に考えたことないなあ」
「そ、か、あの、あのさ、何で私のこと」


声が上擦ってすごい変なやつみたい。


「みょうじ、って呼ぶの?」
「え!?」
「え!?」 
「みょうじって名前じゃないのか?俺間違えて呼んでた?ごめ…」
「ち!違う違う、あってるよ。私はみょうじだよ」
「何だよびっくりしたー。クラスメイトの名前間違えてたら失礼だもんな!」
「う、うん。驚かせてごめんね」


私がはっきり言わないから、円堂くんに変な誤解をさせちゃったんだ…よし!


手を握りしめ、ぐっと力を込める。


「あのね、私、円堂くんに名前呼んでほしいの!!」


きっと今の私は、顔が真っ赤なんだろうな


「…みょうじ」
「…」
「みょうじ」
「あの、違、くて…」
「ん、名前だろ、みょうじ?」
「あの」
「みょうじ」


違くて、と言いたいけど上手く言葉が出てこない自分がすごく嫌になる。


「えっ円堂くん。私の下の名前、知ってる?出きれば…下の名前で…」
「ん、なまえ?」
「えええ」


いきなり円堂くんの口から私の名前が紡がれ、変な声をあげてしまった。


「あれ?間違えてる?」
「ううん、あ、あってる」
「良かった」


呼んで欲しかったくせに、いざ呼ばれると恥ずかしいなんて、矛盾。


「それで、私も円堂くんを下の名前で…呼んで良い?」
「別に構わないぜ」




「まも、るくん」
「おお、なまえ!」




これは序章にすぎない






(20100809)
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