優しい君は、優しいから、課題を手伝ってくれる。
強い君は、強いから、私の前では泣いたりしない。

愛しい君は、私の前では男の子。


今日閻魔くんの夢見たよって言ったら、うれしー!だなんて可愛い顔で言うからきゅんとしちゃったよ。調理実習で一緒に作ったパウンドケーキ、美味しかったね。体育の短距離走で転んでたけど、大丈夫だった?閻魔くん、好きだよ。そんな甘い毎日。私はとても幸せだった。



「結構続いてるよね、閻魔さんと」

「妹子ちゃん、それどういう意味かな…」

「名前の事だからすぐ別れると思ってた。もって二週間程度かなーって」

「おお…ボロクソだね…」



放課後の教室はがらんとして、昼間の喧騒は何処かへ身を潜めていた。赤から黒へ変わり始める空は、もうすぐ秋の色。居眠りして出されてしまった課題を、辟易しながら手伝ってくれる妹子ちゃんのこげ茶色の髪の毛は、冷めた風に揺れている。長い睫毛は私に無い物で、少し羨ましい。手が止まってる、こっちを一瞥もせずにそう言うから、慌てて問題を目で追った。



「分かんないなあ」

「何が?問三?」

「違うよ。なんで閻魔さんなのかなって」



唐突な質問だなぁ、下世話だなぁ、と。思った。頭に来たわけじゃないけれど、何か引っかかる事があったわけでもないけれど、ただぼんやりとそう思ったのだ。私に彼氏ができると、妹子ちゃんはこういう質問を繰り返す。不粋な質問は毒の様。私は妹子ちゃんの言葉を鵜呑みにして、好きな人の好きな所を考えて、考えて考えて分からなくなって、結局別れてしまうというパターンが多い。きっと、目の前の男の子は分かってるんだ。私が麻痺していくのを、妹子ちゃんはずっと待っている。



「なんでだろう、ね」



そう呟くと、妹子ちゃんは悪魔みたいに天使みたいに笑った。綺麗な顔は女の子の様。シャーペンを走らせる妹子ちゃんの手は男の子。妹子ちゃんの文字はとても綺麗。課題が終われば、妹子ちゃんはきっと私の手を取るだろう。痛いくらいに握って、そうして笑うのだ。



「名前、好きだよ」



ぎゅーしてちゅーしてせっくすしよう

嗚呼、ああ。汚れた子供。




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