どいつもこいつも必死に生きようとしていて、頭いかれてるんじゃねえの。惰性で生きたって日は暮れるし、世界は朽ちて行くし、肉体は腐っていくし、私もあなたも死ぬのに。何を必死に、守るものがあるわけでもあるまいし。ああ。嗚呼。
馬鹿みたい。「
悲劇のヒロイン気取りかィ」
つらつら溢した言葉を、興味無さそうに拾った沖田さんは、屯所の縁側に寝転んだまま。アイマスクを外さずに私に言葉を投げ返す。続けて、
面倒臭い女だな、なんて呟いた。みんみんみん。腹の底から声を出す蝉が不快でならないっていうのに、この人は良く寝れるもんだ。日に日に増して行く暑さに、可笑しくなっていく頭。生きるとか死ぬとか暗い事ばかり考えてしまう私の話を、聴いてくれているのかいないのか分からない沖田さんの午後。
「
いつか死ぬからいつでも死んでいいって、わけでも無いだろ」
何も言わない私。沖田さんの溜息。
「
大体お前は、何をそんなに悲観してるんでィ。何もかも難癖付けて嫌だ嫌だって駄々捏ねて。子供かてめえは」
寝返りをうった沖田さんの首筋に汗が流れた。何だか扇情的だった。図星を突かれた私は何も言えずに、足元で列になっている蟻を踏みつぶそうと奮闘していた。沖田さんは何でも分かるんだなあ。なんて、暑さで麻痺した頭でぼんやりと思う。生きている事が悲しい。死んでしまう事も悲しい。見透かされるのは怖い。だけど分かりあいたい。格好悪い自分全部、愛して欲しい。誰かに、あなたに。
ふと、顔を上げれば日は落ちかけていた。
沖田さん寝たんですか。声を掛けても返事は無い。
沖田さん、好きです。声を掛けても返事は無い。遠くで山崎くんが私を呼んでいる声がした。夏はまだ長い。恨めしそうに仰いだ空は、何だかとても、遠かった。
ジンジャーエールと人工衛星
Title:にやり