お気に入りのマスカラ、ピンク色のアイシャドウ、つけまつげ、可愛いケースのファンデーション、リップクリーム、化粧水、コットン、スタンドミラー。鏡の中の私は無愛想で、とても可愛いとは言えない。太い足が憎い。少し、太ったかもしれない。ローテーブルの上のスナック菓子を睨み付けて溜息を吐いた。いつだって四畳半の部屋は不幸まみれだ。あのファッション誌の子みたいに、可愛い女の子になりたい。床に放ったままの一昨日買ったワンピースは、やっぱり私には似合わなかった。
「マスター、お洋服汚れちゃいますよ」
ワンピースを拾い上げて、彼女は困ったように笑った。
「それ、ミクにあげる」
「え、マスターのじゃないんですか?」
「私には似合わないのー」
ミクは可愛いからきっと似合うよ、私の言葉にミクは少し頬を染める。嬉しそうにワンピースを揺らすミクは何処から見ても完璧な女の子。綺麗な髪も白い肌も小さい顔も細い足も、何もかもが私とは違う。妬ましいほど可愛い女の子だ。女の子はお砂糖とスパイスと素敵な物で出来てるというなら、ミクはきっとお砂糖と素敵な物と小さくて可愛い物で出来てる筈。因みに私はスパイスと不幸と真っ黒い何かで出来た産業廃棄物である。
「可愛くなりたいなあ」
出来るなら、世界中の男共から愛されるような。ミクのような可愛い人に。無理なのは分かってるんだよ。容姿以外にも私が可愛くない所なんて腐るほどある。仕事もミスだらけだし卑屈だし欲深いしネガティブだし面倒臭がりだし、というより性格がもう面倒臭いし。考える度増えていくコンプレックスは四畳半に溢れ返る。死にたいくらい私は醜い女だ。
「マスターは可愛くなっちゃ駄目ですよ」
「…随分酷い事言いますね…」
「マスターは十分可愛いですし、もしマスターに恋人なんて出来ちゃったら、私は死んでしまうかもしれません」
「…は…?なんで?」
「ミクはマスターを愛してるからです!そしてマスターを愛するのは私だけで十分だからです!」
「………一応聞くけど性的な意味で?」
「はい!マスター愛してます!!」
私の腰に腕を回して抱きつくと、ミクは悪戯っ子のように笑った。
向日葵を探しておいで。