紫陽花に夏の香り。

西日が落ちれば人は息を潜める。蒸し暑い風が無人の公園を通り抜けた。瞼の裏には春がいて、蛙が鳴くには少し早い。齷齪働く街灯の上で、嵐が来るから早くお逃げと鴉が言う。
紫陽花に夏の香り。

窓の外は三百六十度の展望台。どこか遠くでミサイルが落ちた。空が落ちれば、雨が降る。地と空の境目が消えれば人が死ぬ。一面の闇。取り残された木々は撓垂れる。
紫陽花に夏の香り。

例えばあなたは母の様で、例えばあなたは父の様だった。例えばあなたは絶望であり、例えばあなたは希望であった。それでもあなたは、何者でも無かったのだ。
紫陽花に夏の香り。

紫陽花に夏の香り。夏の香り。夏の香り。

私が夏と巡り合う様に、世界が世界である様に、人がいつか死ぬ様に、あなたはいつまでもあなたであった。
紫陽花に夏の香り。

私はあなたを待っている。





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