生きていくのが困難だと言ったら閻魔くんはそっか、と笑った。
「食べ物には恵まれてるし、安全な家もあるし、家族も友達もいるし、素敵な世界なのにね」
「だけど私にはくだらなく思えるよ。私にも世界にもそれ程の価値なんてないんじゃないかなぁ」
「そう?」
「そうだよ」
「結論として、どうしたいの?死にたいの?生きたいの?」
閻魔くんって、結構はっきりした性格だったんだなぁ。なんて思いながら、私の口が紡いだのは死にたいの。と、それだけの言葉だった。そうすると彼は笑って、じゃあ死ぬときは教えてねと冗談みたいな口調で言った。
「閻魔くんて、たまに変態?」
「割と変態」
「ふぅん」
所変わって此処は学校の屋上。貯水タンクの影に飲まれて、私はフェンスの向こう側に立った。見下ろした地面は一面灰色のコンクリート。一歩踏み出せば私の体は重量に従って落ちる。その後は知らないけれど、コンクリートに打ち付けられるのは確実だろう。痛いのかな。私ぐしゃぐしゃになるかな。少し怖くてフェンスを掴む。閻魔くんは立ち去る様子を見せずにフェンスを挟んで、私の後ろに立っていた。
「怖くないの?」
「少し、怖い」
「生きるって選択肢は?」
「多分ない、かな」
上履きの先が宙に浮く。制服のスカートがひらひらと鬱陶しい。フェンスから手を離した。
「閻魔くん」
「ん?」
「最後まで我儘に付き合わせちゃってごめんね」
ありがとう。
横目で見えた閻魔くんが何か言っていた気がしたけれど、よく聞こえなかった。ふわりと浮遊感に吐きそうになる。コンクリートが冷たく私の体を受け止めた。ぐしゃり。
愛を食べる怪獣