丈一郎は雨が嫌いだ。ベタベタでじっとりで鬱陶しいからだって、顔を顰めながら、ザーザーと煩い窓の外を睨み付けていた。チッ、と舌打ちをして、さっき私が淹れてきたコーヒーに角砂糖を一つ放り込んでカチャカチャ掻き回す。手を止めてすぐに飲まないのは丈一郎が猫舌だから。変なところで可愛い彼を観察していたら、見てンじゃねーよと怒られてしまった。背の低いテーブルの上に置かれた暖かみのない光を放つパソコンの前で、難しい顔をする丈一郎。雨だから外出たくないし、やる事のない私は丈一郎のベッドにぼすんとうつ伏せに寝転がって、丈一郎の匂いがする枕に顔を埋めた。



「丈一郎の匂いー」

「死ね変態」



丈一郎ってすぐ死ねって言うよなぁ。頭いい様に見えて意外とボキャブラリー少ないよなぁ。ふふ、と笑うと、背中に重みと温もりを感じて、肺が圧迫されて苦しくなる。体が動かないので首だけ動かして後ろを見たら、丈一郎が腰辺りに馬乗りになっていた。苦しい、と呟くと重みが無くなる。ギシギシベッドが軋んで、私の隣の、少うし狭いスペースに丈一郎が寝転んだ。制服皺になるよ、と言ってみたけど無言の返事が帰ってきた。それから腰に腕が回されて、ぎゅうと抱き寄せられる。珍しいなぁ丈一郎が甘えてくれるなんて。視界も思考も丈一郎でいっぱいで、泣きそうになるくらい幸せだった。



「どしたの」

「………別に…」

「ね、丈一郎」

「何?」

「好きだよ。世界で、一番、大好き」



丈一郎の頬にキスをして、もう一度好きと言うと、彼の目からぽろぽろ水滴が落ちた。シーツに染みを作っていく無色のそれを、飲み干すように唇を添える。丈一郎はゆっくり目を閉じた。




睫毛の先の水滴に触れる







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