「沖田さん、沖田さん!」

「何でィうっせえな」

「世界の終わりもしくは私が死ぬ時は北九州港で愛を叫んでください!!」

「断る」

「何故…」




昔から名前が馬鹿なのは知ってた。わけ分かんねえ事言うし、わけ分かんねえ事するし。まるで小さい子供みたいだった。それでも名前が好きで、誰か(主に山崎)に物好きだなんて言われたって好きだったから、名前の奇行も多少は許容しているつもりだった。だけど、置き手紙一枚で三ヶ月失踪は、流石の俺も理解し難いです、安西先生。

ふざけた内容の紙切れ一枚じゃあなんの手掛かりにもならない。日に日に募っていく苛々を発散する術も分からない。あの馬鹿女帰ってきたら覚えとけ、なんて思った所で帰ってくるのかも分からない。てゆうかそもそも、生きているのかすらも分からない。名前がいた時赤くなり始めた木々も、今は寂しく風に身を震わせている。名前が好きだと言っていた屯所の縁側に腰掛けて、落ち葉の山を眺めていたら、急に寂しくなったから舌打ちをひとつして、見回り(という名のサボり)に行かなければと腰を上げた。



「面倒くせえなあ」



ぽつり呟いた言葉は誰も拾ってくれない。いつもならあいつが反応してくれるのに。このまま名前が帰ってこなかったらどうしよう。姉上みたいに、いなくなってしまったらどうしよう。ありえないだろ、だってあいつ俺の事大好きだし。根拠もない自信を見に纏って、死にたいくらいに寂しい感情を押し殺す。人の声も気配も少なくなった公道を一人で歩くのは、三ヶ月経った今でも慣れなくて、情けないくらいに弱い自分と、帰ってこない名前に腹が立った。寒い。寒い。寒い。



「死んじまえ、皆」



そしたら俺は、こんなに寂しいなんて思わなくて済むのに。足元に転がる石を蹴り飛ばす。その日の夜、名前がいなくなって、初めての雪が降った。


いなくなってもいいけど帰ってきてね




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -