吐きだした息は白かった。
私の吐いた息は白くて、閻魔の吐き出した煙草の煙と良く似ていて、ふらふら立ち上って見えなくなった。街灯がぽつぽつ灯り始めて、空は灰色から黒へと変わる。雨が降りそうだと言った閻魔の言葉は、私の脳内に一瞬だけ留まって消える。誰もいない公園は広すぎて寂しい。空き缶が風に負けてカラカラと鳴く。赤や黄色の落ち葉が集められた一角を八つ当たりでもするかのように蹴り飛ばして、もう一度溜息を吐いた。
「俺がさ」
「ん」
「俺が、もし、名前にプロポーズしたら結婚してくれる?」
「……は?」
「クリスマス一人で寂しいんだもん」
彼女欲しいなあ、付け足して、笑って、また煙を吐いた。
「寂しいね、閻魔」
「名前もじゃんか」
「残念、今年は会社の同僚とクリスマスぱーちーです」
「嘘ぉ!?俺と過ごしてくれるんじゃないの!?」
「自惚れんなバーカ」
「マジか…裏切られたわ…」
「毎年毎年一緒だと思うなよ」
「……もういいやクリスマスは部屋でエロゲやるわ」
「エロゲて」
「寒さで視界が滲んできたー彼女ほしいー」
「泣くなよ」
なんて、くだらない事を言い合ってみても、明日の私たちは忘れて電車に詰め込まれるんだろうなあ。そういえば明日、会議あったっけ。ココア飲みたいなあ。少し離れた場所に自販機があったなあ。ああ。脳内を駆け巡る色んな事を押しこめて、足で煙草を踏み潰した閻魔の冷たい手を握る。
「クリスマスプレゼント、何が欲しい?」
「…名前って本当ツンデレ」
「うっせえ」
「もう結婚しちゃう?」
「…お付き合いからでは?」
好きだよって呟いて恥ずかしそうに笑う閻魔の吐いた息は、私と同じで白かった。