大好きなバンドの、ライブ映像を見たんだ、限定盤に付いてきたやつ。映画の様なステージで歌う姿が綺麗だった。二ヶ月後に、彼らのライブに行くんだ。くだらないかもしれないけど、どうでもいい日常に楽しみができた。

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優しくないんだよみんな。君も俺も、最低な人間だ。ねぇ、例えば君が死んでも俺は悲しくないよ。なんて、思ったところで口に出せるわけがない。ただ甲高い声であんあん喘ぐ薄汚い女に愛してる、だなんて嘯いた。淋しくて一人が嫌で、街中で拾ったはいいけれどこの後どうしようかなんて何も考えていない。女が一際高い声で鳴いたから、白い肌に白濁液を吐き出した。





有りもしない未来を信じる奴が嫌いだ。かといって、卑屈になって何も信じないだなんて言う奴も嫌いだった。そうやってみんなみんな嫌いだって言うから馬鹿らしくなって、四畳半の部屋に引きこもって小さく光る携帯のディスプレイを眺めていた。特に何か、したかったわけじゃない。だけど沢山の人から押し付けられた、しなければならない事は腐る程ある。そんな現実から逃げるように聴いた音楽は、笑ってしまう程非現実的世界だった。





そういえば昔、コミュニティーサイトで知り合った奴とチャットをしていたら、「死ねるもんなら死にたい」なんて言われた事がある。俺は盛大に吹き出して、じゃあ死ねよって口にした。勿論書き込んではいないから、四畳半の部屋に虚しく消えただけだったけれど。「何かあったなら話聞きますよ?」顔が見えないから何でも言える。本心なんて分からないから嘘だって吐ける。馬鹿らしい。数分間続いた愚痴を受け流して、小さな機械の電源を切った。死ねるもんなら死にたいよ、頭の中でゆっくり反芻したら俺は少し泣いていた。





四畳半で息をするのが少し息苦しくて、数週間閉めっぱなしだった窓を開けた。もう、外は暗くて風は冷たい。子供の笑い声が煩い。星は見えない。全く、最低な世界だ。あの時俺なんかとセックスした女は何をしてるんだろう。あの時死にたいって、俺なんかに言った顔も名前も知らないあの人は何をしているんだろう。関係ない、これから先関わることもない俺なんかに、気にされている君は今、笑っているだろうか。街灯が星みたいに光ったから、窓もカーテンも閉めて布団に潜り込んだ。





意見も意志も持たない人間は、人間と言えるのだろうか。周りの意見と意志が絶対な俺は、本当に人間なのだろうか。最早そんな事もどうでもいい。明日もきっと、誰かに任せて生きていくんだ。ボキャブラリーが致命的に少ない俺は、誰かに感化されなければ言葉さえ持たない。ほら、ねえ悲しくなるくらい意味のない日常でしょう。だけど死ねないんだよ。あのバンドのCDのリリースが楽しみなんだ。明日は中学校の頃からの友達と遊びに行くんだ。何も見えないように目を閉じたら、真っ暗な世界に自分の呼吸の音と心臓の音が嫌に大きく聞こえた。混じって聞こえる、遠くの、救急車のサイレンに誰かの幸福を願って、また明日。



蛇と踊る





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