右から聞こえる綺麗な唄と左から聞こえる優しい声。音に塗れて彼女が死んでいた。状況を理解できずに、煩い部屋をぐるりと見回す。床に這いつくばって寝たままの彼女の髪や手や足や血を踏まないように、コンポに辿り着いて音を止めた。少し静かになった部屋に聞こえるのは俺の心臓の音と呼吸の音。



「名前」



名前を、なぞるように呟く。彼女はぴくりとも動かずに這いつくばっている。しゃがんで触れた手は冷たい。今日、暑いのにね。



「名前、起きて」



彼女の周りに散らばる白い錠剤と、赤い海。剃刀は刃を剥き出しに投げ出されている。床に向かったままの彼女を抱き抱えて起こすと、長い睫毛にも綺麗な頬にも、飛び散る赤。あか、あか。どくん、どくんと脈を打つのは彼女の心臓じゃない。この部屋の中で、明らかに異端なのは俺の方だった。



「なんで、」



答えが無い事位分かっている。だけど君だって俺が残酷な現実を受け止められる程強くない事、分かっているだろう。名前名前。縋り付くように抱き締めた体は壊れそうだ。
数時間後に鬼男くんから電話が来る迄、俺はずっと泣いていたらしい。






















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