目が覚めたら去年の誕生日にお父さんから貰った腕時計が、アイスコーヒーの中に沈んでいた。二日以上手放したことのない携帯電話は薄く色の付いたガラスのコップの中で冷たい水に溺れている。宝物の携帯音楽プレイヤーは粉々になってテーブルの上で死んでいた。何がどうなったらこうなるんだ。原因は分かっているけども。
ちらりと盗み見た寝顔はとても綺麗で、シーツの隙間から覗く白い肌に似合わない噛み痕は紛れもなく私が付けたもので、愛おしくて心臓が苦しくなった。いや、落ちつけ私。ここで甘やかしたらまた調子に乗るかもしれない。心を鬼にして(…)気持ち良さそうに眠る丈一郎の頭を軽く叩けば眉間に皺が寄って、露骨に不機嫌そうな顔をして彼は目を開けた。



「…んだよ…」

「丈一郎君私の宝物たちが悲惨な事になッているのですが」

「…あー…俺がやッた」

「何故…」



くぁと可愛らしく欠伸をして、枕に顔を埋めた丈一郎の髪で遊ぶ。おねーさんいじけちゃうぞー。とか色々言ってみるけど反応は無い。つまらなくなったので、あの悲惨な私物を片付けようと上半身を起こすと、腕を引かれて後ろに倒れ込んだ。枕が受け止めてくれたものの、ぐわんと揺れる頭が気持ち悪い。顔を赤くした丈一郎はこっちを見ずに、構ッてくンないから、と小さく呟いた。



「…携帯あッたらすぐ玄野とかとメールするし、音楽聴いてる時人の話聴かねーし、……マジなンなのお前」



死ねよ。付け足された言葉に愛情を感じてしまった末期症状の私は、細くて白くて、大好きな丈一郎を目一杯抱きしめて愛してるよ、と呟く。彼は舌打ちをしたけれど、頼りない腕でしっかりと抱きしめ返してくれた。どうだっていいよと笑う僕らが死ぬ明日の朝の為に寂しいも苦しいも悲しいも痛いも全部、ぐしゃぐしゃにしてゴミ箱に捨ててしまおうか。