「卒業おめでとうございまーす」
やる気なく言えば閻魔先輩は少し赤い目を細めて有難う、と笑った。泣いたのかな。泣き虫だもんなぁ。なんて考えて、ネクタイを外す先輩の胸ポケットに飾られた造花を抜き取った。
「先輩も春から大学生ですね」
「君は最上級生じゃん」
「留年するかもですぜ」
「何それ」
先輩はクスクス笑って卒業証書の筒の蓋を嵌めては外してを繰り返している(外す度にぽん、と間抜けな音がする)。
私は覚えたばかりの唄を口ずさみながら、造花をいじる。
「その曲知ってるー」
「知ってたの先輩くらいです」
「俺ら変わり者だからねー」
一緒にしないでください、造花を折り曲げながら言えばわざとらしいリアクションが返ってくる。
化学準備室は人が来ないからと教えてもらったさぼり場ももう行くことはないんだろうなぁ。屋上も空き教室も多分、二度と行かないよ。
「俺がいなくなるの寂しい?」
にやにや笑う先輩の胸ポケットに造花を戻す。
「馬鹿言わないでくださいよ」
そんなことあるわけない。
≪ ≫