恋人、世間体、音楽、時給、生活、愛してる。混沌とした世界は生き難いのだとマスターは言う。俺の世界は0と1しかないですよ。あなたの苦しみが分からないです。マスターマスターマスター。あなたの全てが欲しかっただけなんです。俺は、あなたが。






新しい曲は、誰かに向けたラブソングだった。



「マスターが恋愛の歌って、珍しいですね」

「そう?」



そうですよ、だって俺はマスターの恋愛の歌を歌った事がないですから。あんまりそういう浮いた話も無かったからなぁ、マスターは恥ずかしそうに言う。



「……好きな人、できたんですか?」

「…なんかカイトとこういう話って照れるね」



職場の人なんだけどね、楽しそうに言うその目が、今日はなんだか憎たらしかった。何故俺じゃないんだろう。当たり前だ、俺は人間じゃない。何故俺は人間じゃないんだろう。でも人間だったらマスターに必要とされないかもしれない。何故いつも、マスターに必要なのは俺じゃないんだろう。考えてもプログラムされていない答えは出ない。ああきっと故障なのだ。考えなくて良い。俺はただ、マスターに望まれた事だけすればいいんだ。



「マスター、」

「なあに」

「俺は、マスターが望む事ならなんでもしますよ」

「どうしたの、急に」



分かち合えない。俺とマスターの世界は違いすぎる。でもあなたが望むならなんだってします。マスターの為なら、俺は消えたって構いません。だからだからだから、どうかみすてないで。




どこへだって行くから





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