「退くんはおでんの具、何が好き?」
「昆布巻きかなぁ」
「うわ地味ー」
「なんで!?」
「退くんだからだよ」
「理不尽だ……名前は何が好きなの?」
「はんぺんに決まってるじゃん。何言ってんの」
「なんでちょっと怒ってるの…」
暖かくなってきた気候が心地良いのに、冬が好きな名前は恨めしそうだ。江戸の町に所々咲いた梅を見る度辟易しているのを俺は知っている。屯所の縁側に座って空を仰げば、目が冴える程青かった。
「いい天気だね」
「そうだね」
「退くん春好き?」
「好きだよ」
「ふうん」
「名前は嫌いだよね」
「意味も無く退くんにべたべた出来ないからね」
「そうだね…え!?」
「嘘だよ」
寒いのが好きなの。クスクスと笑う。いつからこんなに、俺を喜ばせるのが得意になったんだろう。白い頬に指を滑らせれば、名前は気持ち良さそうに目を細めた。
「退くん」
「はい」
「好きだよ」
「俺も名前の事、好きだよ」
「…んふふ!」
春が来たら、海を見に行こう。いや、海じゃなくてもいいや。何処か遠くに、二人で行こう。そしたらきっと、君も春が好きになるよ。意味などないとしても