「……んで、此処に来たんですかィ?」
「兄上以外に頼れる人なんて私の世界に居ません」
馬鹿だこいつは。兄上は私を罵って盛大に溜め息を吐いた。馬鹿とは失礼な、と思ったけれど、江戸に着いてみたら意外と冷静になってしまい自分の行動が如何に軽率だったかを思い知らされて何も言えなくなった。確かに兄上が仰る通り私はどうしようも無い大馬鹿野郎で病弱な姉上を一人残し傷心旅行等と馬鹿げた真似をしてしまいました。ごめんなさい姉上嫌いにならないで下さい。心の中で姉上にたっぷりと謝罪したけれど姉上に届く筈もなく自己嫌悪に浸る。
「…とにかく、送ってやるから帰れ」
「でも今回の事で姉上に嫌われてしまったら私は生きていけません。何も云わずに、しかもちょっとミステリアスにしようと深夜に出てきてしまったんです」
「馬鹿だお前は。本物の馬鹿だ。そんなに姉上に構って欲しかったのかィ」
「姉上の気を引けると云うなら切腹でも何でもします。今回はそうじゃないんです。姉上が御結婚なさるのは聞かれたでしょう?姉上が御結婚なさる、つまり私の姉上じゃなくなる。私にはそれが耐えられないのです」
「先ずはその子供染みた独占欲をどうにかしやがれ」
「無理です。私の世界の中心は姉上ですから」
兄上は本日二回目の盛大な溜め息を吐いて、私に諭すように言った。
「いつ迄も姉上に甘えてばっかりの子供じゃいられねぇんだよ」
本当は私のやった事を肯定して欲しくて此処へ来たのかもしれない。兄上に俺もだって言って貰いたかったのかもしれない。でも兄上はとっくに大人だった。姉上に甘え依存し離れたくないと泣く私とは違うのだ。
兄上は軽く私の頭を撫でて立ち上がった。そして昔のように私に手を差し出して、姉上と同じ優しい笑顔で言う。
「姉上が心配するから、早く帰りやしょう」
帰りの電車の中で何度も浮かんだのは、笑顔で私の名前を呼ぶ姉上だった。
花束をあげる。
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多分ミツバさんは家出の事もそーちゃんの所に行く事も全部分かってる。