幼い頃から過ごしてきた武州を離れると決心したのは、姉上が御結婚されると仰るから。姉上を世界の中心と考えてきた私にとって、その報告は嬉しくもあり切なくもあり憎くもあり妬ましくもあり、悲しかった。姉上が他の誰かのものになってしまうなんて私には考えられない。それこそ世界の終わりだ。だから姉上が寝静まった夜中にこっそり、予めまとめておいた荷物を持って家を出た。春と云えど夜は冷え込み、もう一枚羽織っておけばよかったと後悔した。だけど帰らない。もし私がこうしている間に姉上の病状が悪化してしまったらどうしよう。厭な事ばかり考えてしまう思考を振り切って、ただひたすら夜道を歩いた。数時間後に私は何処にいるのだろうか。行く宛のない旅。どうしようも無い不安感を抱えて、姉上と歩いた道に想いを馳せた。姉上の大好きな蒲公英、今年もとても立派に咲いています。姉上のお気に入りの小さな沢に月が映ってとても綺麗です。大好きな姉上と大好きなこの場所。桜の散った並木道をゆっくりと歩く。あぁもう、貴女に会えないのでしょうか。



ミツバ姉様。



大好きな名前を確かめるように紡ぐ。ぴゅうと吹いた風に攫われて誰にも届かない。泣きだしそうになりながらも、足を進めた。



名前も知らない







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