「俺が死ぬ時は、名前に殺されたいなぁ」
「厭よ、犯罪者になるなんて」
ははは、自嘲気味に笑う閻魔の左腕を盗み見た。また、か。なんて。今更過ぎる事をぼんやり考えて、真っ白い病室を彩る為に花を飾る。病室は静かで、下手したら閻魔の呼吸する音ですらも聞こえるんじゃないかと錯覚する。花の匂いに混じって消毒液の匂いがした。
「名前はどうやって死にたい?」
「老衰」
「えー」
不満そうに口を尖らす閻魔の肌は病的に白い。こいつ、死んでんじゃないの。馬鹿みたいな事を考えて閻魔の手に触れた。案の定温かくて安心する。去年買ったお揃いの指輪は、左手の薬指にしっかりと嵌められていた。
「名前が殺してくれないなら、無菌室で死にたいなぁ」
どうして、私が聞くよりも早く、私の唇には閻魔の人差し指が添えられていた。昔みたいに、にんまりと笑って、閻魔は乾燥した唇を私の唇に押しあてた。
「死ぬときくらいは綺麗に死にたい」
耳元で小さく呟かれた言葉を、私は今もずぅっと、忘れられないでいる。あの時閻魔が何を思ってあんな話をしたとか、そんな事私が知るはずもなくて、ただ、毎日息をするだけの私は、閻魔の言った言葉の意味が少しだけ分かった気がした。全部分かってあげられなくて、ごめんね。小さく溢してみるけれど、私の気持ちは誰も汲み取ってくれなかった。
君の最期の願い事を叶えられなかった私を許してなんて言わないけれど私は弱虫な君のことをずっと愛し続けるよ。