後方から聞こえたヒステリックな声に思わず振り返ると、白い綺麗な手が私の頬にクリティカルヒットした。そして隣の男にも。左の頬にじんわりと広がる痛み。今度は自分の手で優しく頬を撫でた。



「浮気者!!」



これまたヒステリックに喚きながら、涙を溢して私と閻魔を睨みつける彼女はどちら様。ヒリヒリと痛む頬が気になって仕方ないのだけれど、ほっぺ冷やしに行っていいですか?なんて言えない雰囲気なので黙ってやり取りと眺める事にした。



「いや、だって俺彼女いるって言ったよね?」

「別れるって言ったでしょ!?」

「言ってないし」

「言った!!」

「言ってない」

「てゆうかじゃあ、別れるつもりなかったなら何で一緒にホテル行ったりなんてするの!?」

「誘ったのそっちじゃん」



まだまだ喚き続けるヒステリックな女性を、見た事ないくらい冷たい目で見て、呆れたように溜息を吐いて、一言放った。



「面倒臭い女」



君にはもっといい人いるんじゃない?いつもの調子でへらへら笑って私の肩を抱く。ヒステリックな女性は最低!とか何とかって喚いて、ヒールをカツカツ鳴らして翻して行った。



「浮気者ー」

「えー?俺のせいじゃなくない?」

「手出す方が悪いよ」

「それはあの人も同じ」



怒んないの?私の顔を覗き込む閻魔の頬を、比較的強く抓った。



「浮気なんてさあ、目瞑ってれば気付かないものだよ」

「何それ」








「でもなんか、今日はちゅーしたい気分じゃないからやめてね」

「え」

「えじゃない、手を退けろ馬鹿」






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