くるりと振り返った先の、栗色の髪の少年は次の授業の準備をしていた。
「妹子ちゃん妹子ちゃん、悪いんだけど世界史のノート貸してくれないかな」
「寝てたでしょ、授業中」
「昨日遅くまでバイトだったんだもん…」
変な人が来るバイト?妹子ちゃんはにやにやしながら言った。
「来る、っていうか、付き纏わられてる」
「ストーカーって言うんだよ、それ」
「怖ー」
はい、と手渡されたノートをぱらぱら捲ると、妹子ちゃんの小奇麗な字がこれまた綺麗に羅列していた。妹子ちゃんは頭も良いし、一緒にいて落ちつくし、ブラックの珈琲も飲める人だ。あの人は頭悪そうだし、なんかいっつも落ちつきないし、ブラックの珈琲は飲まない。
「なのにねえ、」
「?何?」
「や、なんでもない。ノートありがとー。次の授業中に写すね」
「それ意味ないじゃん」
大丈夫、次の授業は数学だ。特にノートに書く事は無い筈。ぼーっと席に座ってノートを眺める。なんだかなあ。
「名字」
頭上から降ってきた声に顔を上げると、同じクラスの鬼男くんが少し難しい顔をして机の前に立っていた。因みに彼とは仲がいいとかそんなこと全然ない。寧ろ初めて声掛けられたレベルだし、私が仲良しなのは妹子ちゃんだけだ。
「え、なんですか」
「喫茶店、で、バイトしてる?よな」
「してますけど」
「閻魔大王って知ってる?」
「…?誰ですか?神様?」
うあーとか、うわーとか、なんかそんな奇声を上げて立っている鬼男くんを私はただただ見守るしかなかった。てゆうか、背、高いから少し怖い。妹子ちゃんにSOSを送ろうと振り返るも、後ろ席に妹子ちゃんの姿は無かった。あの野郎。
「その閻魔って、あいつ」
鬼男くんが指さした先、教室の入り口にいつもと変わらない笑顔でヘラヘラ笑いながらその人は立っていた。
「あ、ストーカーさん」
思わず漏れた声に吹き出したのは、いつの間にか帰って来ていた妹子ちゃんだった。
続々・喫茶店で片想い