私には先輩がいる。みっつ年上の、今は高校生の先輩。小学生のころに知らない男の人に絡まれてたのを助けてもらったことがあった。しかも、一度や二度ではなく、何度も。私にとって名前先輩はヒーローみたいな存在で、憧れで、どんな綺麗な女性よりも綺麗でかっこよく思えた。私はそんな先輩が大好きだ。否、だいすきだった。



とある日に私は学校をさぼった。なんとなく、行きたくなかった。こんな日もあっていいだろうと自己暗示をかけて、着慣れた制服で街へ繰り出した。普段は学校にいる時間にさぼって街中にいるという優越感に浸っていると、前から見覚えのある人が歩いてきた。その人は私の前でぴたりと足を止めて、なにしてんの、と呟いた。目を丸くして私を見ている。先輩こそ、私が笑うと名前先輩は私の腕を掴んで走りだした。どこへ行くかも分からないけれど、私はただただ名前先輩に腕を引かれて走った。久々におもいっきり、走った気がする。名前先輩と私は10分程走り続けて私の家の近くの公園に来た。先輩はブランコに座って教科書が入っているのかいないのか、分からないけれどとても軽そうな鞄をぺい、と地面に落とした。私も先輩の隣のブランコに座る。鞄は膝の上に置いた。



『それで、なにしてたの』

「何もしてないネ、サボりアル」

『あんたそんな子だったっけ』

「まあな」

『学校いけよ』

「今さらアルな、てゆうか先輩に言われたくないネ」

『なんかあったの』

「何も」



ふーん、先輩は興味無さ気に呟いた。それから小さくブランコを漕ぎはじめる。そういえば先輩は随分変わった気がする。前は化粧なんてしてなかったし、サボりなんてする人じゃなかった。それを伝えたら先輩は、色々あんのよ、そう言って空を仰いだ。その目はどこか寂しそうだった。気がした。私はなんだか申し訳ない気分になって先輩の横顔から目を逸らした。それからしばらくして、小学生だと思われる子供たちが黒とか赤とかのランドセルを背負って公園を通りかかった。先輩はそれを一瞥してから立ち上がって、地面に頼りなく転がる鞄を拾い上げて私を見た。早く帰んなよ、と言って、昔と同じように私の頭をくしゃりと撫でた。じゃーね、と言い残して帰って行く先輩の背中を見ながら、私はもう彼女には届かない、追い付かないんだろうなぁと確信した。それが少し寂しかったけれど、私は彼女を追いかけはしなかった。夕日に呑まれた公園で変わってしまった彼女と思い出が重なる。彼女も私も大人になったのだ。それだけが残された事実だった。




(雀はもう泣かないよ)






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