さっきコンビニで買ったばかりの板チョコが、ぱきりといい音を立てて割れた。ほんの少しの苦みと甘さが口の中に広がる。一口ちょーだい、と強請る閻魔をスルーして口の中で溶けだしたチョコを噛み砕いた。閻魔はいじけた様子で私が買ってきたモノが乱雑に入るコンビニの袋から、勝手にお酒を取り出して飲み始める。プリンは私のだから、と一言伝えてまた、チョコを頬張った。



「それで、今日は何があったの?」

「…会社でさぁ。上司に“もういいから”みたいなことを溜息吐きながら言われた」

「うわー…」

「それでもう、やだなーってなって、閻魔んち、来た」

「そっか」

「何が、ダメなのかなあ」

「…。」

「就職した頃はすごく、楽しかったのに、なんで、ダメなのかなあ」

「名前ちゃんは本当にダメだもんね」

「…閻魔最低」

「思いつめてないで、泣けばいいじゃん。俺は怒んないよ。名前ちゃんがどんなに愚痴ってもダメでも。むしろ愛してるし」

「…閻魔………だしなぁ…」

「…どういう意味」

「ううん。ありがとう」

「どういたしまして」




そう言って笑った閻魔はもう一本、袋からお酒を取りだした。ペース早いなぁ、とか思いながら板チョコの包み紙をぐしゃぐしゃに丸めて、ゴミ箱に放り投げる。ゴミ箱には惜しくも入らなかったそれをそのままに、ちびちびと酒を飲む閻魔の隣で、声を殺しながら泣いた。閻魔はずっと隣にいた。それが酷くうれしくて、安心した。ごめんね、ありがとう。そう言ったら聞いてるんだか聞いてないんだか、よく分からない返事が返ってきた。いつの間か寝ていた私の肩に掛かるタオルケットはきっと閻魔が掛けてくれたんだろう。隣で眠る酒臭い男と、食べた記憶もないのに無くなってるプリンのことを考えながら、もう一度眠りについた。また起きた時には、きっと閻魔は笑ってくれる。何も無かったかのように、私の背中を押してくれるんだ。
いってらっしゃい、って。






22:26、08:54。






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