俺は至って普通の男の子だと思う。笑ったり楽しんだりする。怒ったり悩んだりする。その倍、泣いたりする。誰かを愛そうと思う気持ちもあれば、誰かを憎む気持ちもある。好きな子もいる。俺は普通の男の子なんです。でもセックスはできない。キスもできない。手もつなげない。俺はへたれじゃないけれど。
「閻魔」
呼ばれた声に振り向けば、少しだけ顔の赤い名前ちゃん(今日も可愛い)がお弁当を持って立っていた。どうしたの?惚けた様に聞いたら、お弁当を俺に押しつけて俺の手にお弁当を持たせてから、美味しくなかったらごめんね、と小さな声で言って走って帰って行った。慌ただしい子だ(そこが可愛いのだけど)。可愛らしい巾着に包まれた、これまた可愛らしいお弁当箱の蓋を開ければ鮮やかなおかずたちが顔を出す。意外に器用なんだなー、なんて思っていたら巾着の中から手紙か落ちた。
【いつも栄養無さそうなもの食べてるから作ってみました。よければ食べてね。名前より】
なにこの子可愛い。きゅーんとなってバクバク煩い心臓。一緒に入ってたフォークで串刺しにした人参を口に運ぶ。少しだけ甘い。もぐもぐもぐもぐ。可愛いあの子から貰ったお弁当に入っているものはどれも美味しくて、俺の為に作ってくれたんだと思うときゅんきゅんした。
あー、嬉しいなぁ。嬉しいんだけどこれは本心なんだけど、襲ってきた吐き気に耐えきれずトイレに駆け込んで全て吐いた。彼女が触れてくれた手も、ハンドソープを付けて何度も何度も何度も洗った。
俺は至って普通の男の子です。
「名前ちゃん」
「え、あ、え、閻魔」
「あのさ、お弁当、ありがとう。美味しかった」
「あ、よかった!」
「またお願いしてもいい?」
「うん、是非!」
嬉しそうに笑う名前ちゃんは酷く可愛らしかったけれど、貰ったお弁当は全て食べずに捨てた。
セックスできなくてもキスできなくても手つなげなくても君が好きですそれでもいいですか、ねえ。
美しい人