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片倉はどうしたらいいのか解らないまま力無く笑った。生まれて初めての抱擁が男だったのをどう受け止めたらいいのか戸惑っているようだ。飛鳥はうなだれるその背中を軽く叩いた。

「もう絶対師匠とよぶ!」
「好きにしたら。気持ち悪い」
「零威ちゃんひどい!」
「事実でしょ。大体あんた呪術師がどうのとかいって怖がってたんじゃないの?」
「飛鳥先輩は怖くない」
「じゃああんな降りられないとこ登るんじゃないわよ。心配して損したわ」
「う…ごめん…」
「君が悩むほど彼は深く考えていないようだよ」
「………」

片倉はより一層うなだれた。
朔夜は何事もなかったかのように零威と話している。叱られた小さい子供のように首をすくめて平謝りを繰り返す。会話は耳を素通りし、しばらく無言で二人を見つめていると朔夜がこちらに気付いた。そしてにっこり笑って片倉を呼んだ。

「ね、師匠!」
「え?」
「師匠の体はガッチリしてて無駄な脂肪が無いよって話してたんですよ」
「なっ…!」
「すみませんこの子気持ち悪くて」
「おかんか!棒読みだし!」
「うるさい、キモ男」
「キモ男!?ひどくない!?ちょっと抱きついただけじゃん!」
「体型確認済みなあたりが気持ち悪い」
「ちょっとこれひどくないですか師匠!」
「俺に振られても…」
「零威ちゃんも抱きついてみたらいいよ!すごいひっつきやすいから!」
「や、やるわけないでしょ馬鹿じゃないの!」

朔夜の提案に零威が顔を赤らめて怒鳴る。片倉はどうしていいのか分からず立ち尽くしている。見かねた飛鳥が苦笑まじりで二人を制した。

「まぁまぁ。確かに片倉くんは鍛えてるから無駄な脂肪はないだろうね」
「幽霊も鍛えて筋肉つくものなんですか?」
「生前とあまり変わらないようだけど、彼はトレーニングが日課でね。毎日毎日飽きずにやっているよ」
「飛鳥先輩も抱きつき済みですか!」
「いや、そんなことはしないけど」
「なんでもかんでもあんたと一緒にするんじゃないわよ」
「じゃあどうやって確認するのさ!」

言葉に詰まる零威。片倉はどうしていつまでも自分の話題なのかまるでわからない。飛鳥もどう答えたものか考えあぐねている。朔夜はどーしてと言いたげに真っ直ぐに零威を見つめている。まるで子供だ。片倉が苦笑しながら朔夜と零威を眺めていると、その後ろの窓に何か映った気がした。磨りガラス越しに一瞬だけ影が見えた。途端に顔片倉の色が変わる。それを目のはしで認めた飛鳥は口を開こうとしたが

「あのー…」
「ん?」
「演劇部の部室はこちらでしょうかぁ」
「はいはい、そうだよ。君は?」

部屋の隅の入口からか細い声が聞こえた。四人同時にそちらを見ると、細身の少女が一人立っていた。飛鳥が移り身早くそちらに歩み出した。少女は恥ずかしそうにもじもじするとスカートの端をいじりながら名乗った。

「わ、私、巫鞍羅と申しますぅ。あの…お取り込み中すみません」
「いやいや、ただの世間話だよ。新入希望かな?」
「は、はい。あの…」
「私は霞飛鳥、部長だよ」
「飛鳥先輩。あの、そちらの方々は?」
「ああ、君と同じく新入部員のさっきーとれいちゃん。そして助手の片倉くん」
「だから誰が助手だ」
「巫鞍羅です、よろしくお願いします」
「俺、皇朔夜。こっちが剣零威ちゃん。よろしくね」
「よろしく」

少女…鞍羅ははにかんだような笑みを浮かべた。ふわふわの髪が可愛らしい女の子の中の女の子と言ったところだ。見たところ零威とは正反対のタイプだ。

「あの、こちらはナナちゃんです。…お友達、です」

そう言うと一歩後ずさって場所を譲った。入り口の影になった場所から鞍羅の胸辺りまでしか身長の無い、小学生らしき女の子が顔をのぞかせた。髪を二つに結い大きな瞳を不思議そうに瞬かせている。飛鳥は上機嫌で二人の前に立つと、ナナの頭をぽんぽんと叩いた。

「いやぁ、可愛い女の子だね。君の守護霊?」
「あっ、あのナナちゃんは…」
「隠さなくてもいいよ。ここにいる連中はみんなそういう体質だ」



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